宮部みゆき著 『火車』






                 2009-11-25

  (作品は、宮部みゆき著 『火車』 新潮文庫による。)

                  
 

初出 平成4年(1992年)7月双葉社より刊行された。
本書 2003年11月刊行
本作品は1993年山本周五郎賞を受賞。
付記:火車
 火がもえている車。生前に悪事をした亡者をのせて地獄に運ぶというひのくるま。


宮部みゆき:

 1960年東京都生まれ。法律事務所勤務ののち小説家に。87年「我らが隣人の犯罪」でデビュー。89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、92年「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、99年「理由」で直木賞を受賞する。また01年「模倣犯」がベストセラーとなり話題となる。

 主な登場人物:
本間俊介
妻 千鶴子
息子 智(さとる)
事故で休職中の警視庁刑事、40歳。 妻の千鶴子は3年前に交通事故でなくなる。智は実は乳飲み子の時養子縁組で息子になった。甥の和也の依頼で失踪した関根彰子なる女性を捜し始めるが・・・。
井坂恒男
妻 久恵
もと内装専門の建築会社社員、仕事上のトラブルで本間俊介に救われた。 本間千鶴子の急死で井坂夫婦が智の物理的、心理的援助をして生活の支援をしている、50歳。 久恵はインテリアデザイナーで外で働き、夫は家政夫業を営む。
栗坂和也 妻千鶴子の側の親戚、29歳。 銀行勤め、本間俊介に失踪した婚約者の関根彰子を探して欲しいと頼む。
碇(いかり)貞夫 本間俊介の同僚。 千鶴子とは幼なじみで小学校の時から一緒。 警察学校時代俊介が千鶴子を紹介される。
関根彰子
母親 淑子
父親は小さい頃に亡くなり、母親は宇都宮に住んでいたが、2年前階段から落ちて死亡。 関根彰子は借金まみれとなり、溝口弁護士の手助けで破産宣告をする。その後行方不明に。
新城喬子
(きょうこ)
(偽の関根彰子)
栗坂和也と婚約をしていた人物。 和也がクレジットカードを作るよう勧めたことから、ブラックリストにあってカードが作れないことわかり、問いつめたところから姿を消す。
本多 保
妻 郁美
宇都宮の自動車修理工場に勤める本多保は関根彰子と小学校、中学校同窓で親しかった。 関根淑子が階段から落ちた時救急車を呼んだのが郁美。それがきっかけで本多保と知り合い結婚。
片瀬秀樹 大阪梅田、「ローズライン」の管理課課長補佐。 新城喬子を一般事務職として採用した時の担当、喬子に恋していた。
倉田康司 三重県伊勢市の倉田不動産の息子。 新城喬子の前夫。
須藤 薫 名古屋に住む新城喬子の旧友、相談相手。

読後感

 単なる推理小説のおもしろさというだけでなく、多重債務者の悲劇の実態を強く印象づけるとともに、このことを知ることで大いに実生活に役立つ小説である。

 謎解きとしては停職中の刑事が失踪した関根彰子という女性を追っかけていく内に関根彰子を語る別の人物の存在が浮かび上がり、果たしてどういう人物であるのかの興味に引き込まれていく。 彼女を捜していく過程では、登場してくる人物の生活の匂いが伝わってきて、すぐ身の回りで起きている出来事のような錯覚に陥らされるのはさすが宮部みゆきという作家の力量か?
 
 解説(佐高信)にもあるが読み進んでいると新城喬子なる人物の素顔が次第に明らかにされるに従い、読者がその不幸せさに身につまされていき、犯人を追いつめているのに同情してしまい最後どのような解決がなされるのかと引き込まれていく。
 著者の心情描写のうまさに大いに感服させられる。 山本周五郎賞も納得の作品である。


余談:

 あとがきに地理不案内の大阪取材に我が信奉する高村薫が同行とあり、さらに嬉しい気持ちになった。
 背景画は作品の表紙の画を利用。 

                    

                          

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