宮部みゆき著 『悲嘆の門』



              2018-03-25


(作品は、宮部みゆき著 『悲嘆の門』(上)(下)    毎日新聞社による。)

         

 
 初出 「サンデー毎日」2012年7月15日号〜2014年6月1日号
   本書 2015年(平成27年)1月刊行。 

 宮部みゆき:
(本書より)
 
 
1960年生まれ。東京都出身。東京都立隅田川高校卒業。法律事務所等に勤務。87年「我らが隣人の犯罪」でオール読物推理小説新人賞を受賞してデビュー。1992年「龍は眠る」で第45回日本推理作家協会賞長編部門、同年「本所深川ふしぎ草紙」で第13回吉川英治文学新人賞。1993年「火車」で第6回山本周五郎賞。1997年「蒲生邸事件」で第18回日本SF大賞。1999年「理由」で第120回直木賞。2001年「模倣犯」で毎日出版文化賞特別賞、第5回司馬遼太郎賞、第52回芸術選奨文部科学大臣賞文学部門をそれぞれ受賞。2007年「名もなき毒」で第41回吉川英治文学賞を受賞。2008年英訳版「BRAVE STORY」でThe Batchelder Award受賞。   

主な登場人物:

三島孝太朗
妹 一美
母親 麻子
父親 孝之
祖母 園井華子

都内大学教育学部の1年生、19歳。バイトで<クマー>に。
・妹の一美 中学2年生。軟式テニス部。

園井 美香
母親 貴子
(たかこ)
祖母 華子
(はなこ)
父親 健
(別れた旦那)


三島一美と同じテニス部の1年後輩。学校裏サイトでいじめを受けている。母子家庭。一美とは幼なじみ。
<クマー>の社員たち

<クマー>はサイバーパトロールの会社。本社は北海道。
・山科鮎子 社長 創業者、女性起業家、35歳。
・真岐誠吾 執行役員、東京支社長、33歳。孝太朗、高校時代に所属のフットサル部のOB。
・森永健司 土木工学専攻の大学3年生。孝太朗と同じバイト先。
・芦屋要(かなめ) 20歳の大学生。孝太朗と同じバイト先のバディ。
・成田 元高校教師、40歳過ぎ。<学校島>の島長。

都築茂典
妻 俊子

元警察官、63歳。町内会の防犯担当。若葉町の中古マンション購入し妻と二人暮らし。
山辺長一<山チョウ> 都築と同年代のベテラン鍵師。
千草タエ 廃墟ビル<お茶筒ビル>の屋上の<ガーゴイル>が動いていると証言。
真菜ちゃん

母親との生活困窮家族。母親が12月5日に死に、ひとりで凍える部屋に残されていた。口を利かないで絵だけを描き続けている。
その後長崎夫妻が預かっている。

猪野幸三郎 百人町<朝日荘>の住人、72歳。リヤカーおじさん。
野呂繁(しげる) 若葉町の町会長、78歳。
大場雅雄 宗教法人<光の家>の責任者。 光の家子供会会長。
森崎友里子 高校一年生。孝太朗がネットに上げている問いについて接触してきた謎の人物。
田代慶子 山科鮎子と大学のツーリング同好会の仲間。

<切断魔>の連続殺人事件?

・6月1日 苫小牧 中目史郎(なかのめ)、居酒屋の経営者、41歳。足の親指切り取り。
・9月22日 秋田 女性で身元不明。右足の薬指切り取り。
・12月15日 三島市内 戸尾真美
(まさみ)35歳。スナック経営。右足の中指欠損。
・戸怐@小宮佐恵子、川崎市内の調剤薬局勤務。右足の膝から切断されている。
・山科鮎子 クマーの社長。

女戦士ガラ

言葉の源泉である<始源の大鐘楼>三之柱の守護戦士。
<言葉>や<物語>は読み取れるが嘘と真実が混在しても見分けがつかない。全てが真実。

ユーリ
アッシュ

物語の源泉である<無名の地>の<狼>。森崎友里子の姿で現れる。
・アッシュはユーリの師匠。

補足
・悲嘆の門:<無名の地>にひとつだけ存在する、外界に向かって開く門。
・<無名の地>と<資源の大鐘楼>は一対の存在。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
(上)
 ネットに溢れる殺人者の噂を追う大学1年生・孝太郎。「動くガーゴイル像」の謎に憑かれる元刑事・都築。人の心に渇望が満ちる時、姿を現すものは…。ベストセラー「英雄の書」に続く、待望の長編。
(下)
 憎しみに染められていく世界。「連続切断魔」の正体は。「悲嘆の門」とは何か…。圧巻の終章に向けて物語は加速する。ミステリを超え、ファンタジーを超えた宮部みゆきの新世界。
  

読後感:

 プロローグに示された貧困母子家庭の5歳の女の子(真菜ちゃん)の登場、大学1年生の三島孝太朗の妹一美と、幼なじみの美香を巡る学校裏サイトのいじめ問題、一方で連続指切断の殺人事件、退官した老刑事都築茂典が相談を受けた一人暮らしの老女千種タエがいうお茶筒ビルの怪物?の存在と色んな問題が存在する中、次第に焦点が狭められていく。
 
 途中から物語は異世界の存在者と共に連続殺人事件の解明に絞られてくる。
 ファンタジーを超えた宮部みゆきの世界と表現される所以か。

 それにしてもミステリーの中身も関心事だが、例えば母親が亡くなり、引き取られ預けられている長崎夫妻の元、言葉を発せなくなった真菜ちゃんに孝太朗が話しかけ始めて言葉を発せられるようになるシーンなどキュンとくる場面が数々現れる。さすが著者の物語の運びの力量が現れている。

 連続切断魔事件の内容は伏せておくとして、女戦士ガラの発する言葉は難解だが人間が発する言葉の<物語>から読み取る事象、人間の渇望を取り込んで気力を無くしてしまう力、<狼>というまた別の人種?ユーリとその師匠アッシュの出現となかなかユニークな存在が面白い。

 都築の元老刑事と若い三島孝太朗との掛け合いの妙も見逃せない。
 ラストは三島孝太朗が犯罪に対して怒りの余りガラに助けを求めて力を得、都築のおっさんの忠告を聞かず狩りを行ってしまい、自ら怪物の世界へと入り込んで行こうと決意し、引き返すチャンスが・・・。

 
余談:

 本作品の前に「英雄の書」というこれまた(上)(下)の長編小説があるようでこちらを読むともう少し本作品の異世界のことは理解が進むのかも。 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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