宮部みゆき著
           『日暮らし』、
『ぼんくら』




                  
2010-09-25


  (作品は、宮部みゆき著 『日暮らし』、 『ぼんくら』    講談社による。)

                   
       
日暮らし
 2001年9月号から2004年11月号までの小説現代に19回掲載たあと、加筆・訂正されたもの。
 本書 2005年1月刊行

ぼんくら
 1996年3月号から2000年1月号までの小説現代に18回掲載たあと、加筆・訂正されたもの、最終章は書き下ろし。
 本書2000年4月刊行


宮部みゆき:
 1960年東京都生まれ。法律事務所勤務ののち小説家に。87年「我らが隣人の犯罪」でデビュー。89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、92年「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、99年「理由」で直木賞を受賞する。また01年「模倣犯」がベストセラーとなり話題となる。


物語の展開:
 
 ◇日暮らし
上巻
 本当のことなんて、どこにあるんだよ。 江戸町民のまっとうな日暮らしを翻弄する、大店の「お家の事情」。ぼんくら同心・井筒平四郎と、超美形少年・弓之助が、「封印された因縁」を、いよいよ解きほぐす。

下巻
 「過去の嘘と隠し事」の目くらましに、迷って悩む平四郎。 夜ごとの悪夢でおねしょをしても、必死に「謎」と向き合う弓之助…。 これぞ「小説の力」。 人情の深みを描く、長編時代小説、結末へ。

 ◇ぼんくら
 奉行所きっての怠けもの同心・井筒平四郎と超美形少年・弓之助が、江戸下町の長屋で連続する事件の、裏の陰謀に挑む。直木賞受賞後第一作。



主な登場人物:
◇「日暮らし」の主な登場人物

井筒平四郎
細君
中間 小平次
八丁堀本所深川方の定町廻りの役人。 怠け者で人付き合いは苦手の、役人らしくないさばけた人柄。
弓之助 井筒平四郎の甥、美形で聡い。 藍玉問屋の河合屋の五男坊。井筒家の跡取りとして養子縁組を考えている。
おでこと仲良し、事件解決の糸口を平四郎に教える役回り。
佐吉
女房 お恵
実の母親は葵、湊屋で育てられ、植木職人となる。 湊屋の娘に恋いこがれられるも、湊屋総右衛門のすすめでお恵と夫婦に。
佐吉は鉄瓶長屋時代に湊屋、井筒、お徳らに世話になる。
政五郎
女房 お紺
手下 三太郎
(通称 おでこ)
本所元町の岡っ引き、平四郎とは関わりないが、知己。
蕎麦屋を商っている。 おでこを政五郎夫婦が引き取っている。
おでこはものを記憶することに長けている。
お徳 以前は鉄瓶長屋に住んでいたが、家移りしていまは幸兵衛長屋の住人で煮売屋。長年連れ添った亭主に先立たれ、孤独な身の上、世話好きである。。
おみね 同じ幸兵衛長屋に越してきて、馬鹿安売りのお菜屋をはじめたためお徳の店打撃を受ける。 その後、雇い人を残して姿を消す  
湊屋
主人 総右衛門
正妻 おふじ
築地俵物屋の大金持ち。 外に外腹の子
正妻のおふじと妾の葵の仲はよくない。
宗一郎と宗次郎の兄弟がいるが、おふじは宗一郎にお前は総右衛門の子ではない、店を出て行くように告げる。
湊屋総右衛門の妾。子供の佐吉を残して出奔。 芋洗い坂の屋敷に住み、謂われありその後殺されているのが発見され、佐吉が下手人として役人にとらわれる。
与兵衛 湊屋の懐刀。差配人でもあった。
お六
子供達 おゆきとおみち
夫新吉と振り売りをしていたが夫が若くして亡くなる。 孫八という蛇のような片思い男につきまとわれ、逃れて葵屋敷に女中として子連れで住み込む。
彦一 料理屋石和屋の庖丁人。 石和屋がもらい火で焼けた後、お徳の店に出入り。

◇「ぼんくら」の主な登場人物

井筒平四郎
(46歳)
細君
中間 小平次
八丁堀の役人。本所深川。怠け者の人付き合いは苦手の野暮天の平四郎。
弓之助(12歳) 井筒平四郎の甥、商家の河合屋の5男で、細君の推し(弓之助は細君の姉の子供)もあり跡取りとして養子に迎えようと考えている。美顔の持ち主でもあり聡い。
佐吉(27歳) 実の母親は葵、5、6歳の時母親に連れられ、湊屋に転がり込む。17年前葵が佐吉を残して出奔(?)、植木職人として外に出る。まもなく鉄瓶長屋に差配人として送り込まれる。
政五郎
女房 お紺
手下 三太郎
(通称 おでこ)
本所元町の岡っ引き。井筒平四郎は岡っ引き嫌いであったが、あることから依頼するようになる。政五郎の女房は蕎麦屋を商っている。おでこを政五郎夫婦が引き取っている。
お徳 鉄瓶長屋の住人で煮売屋。 腕はいい。 夫の加吉が病死後一人で切り盛りしている。
湊屋
主人 総右衛門
正妻 おふじ
娘 みすず
(15歳)
兄弟2人
築地俵物を扱う問屋で大金持ち、外に外腹の子多い怪人物。 鉄瓶長屋の地主でもある。
おふじが父親のまとめで総右衛門と結婚して1年、葵が佐吉を連れてやってくる。おふじと葵の間は陰険。 おふじの執念もすごい。
娘のみすず両親に反発、佐吉に会いに。。。
久兵衛 湊屋の料亭「勝元」の番頭のひとりであった、その後鉄瓶長屋の差配人であったが、そこを去り姿を消す。 湊屋の主には湊屋に来る前に大変世話になり恩を感じている。
仁平 昔湊屋総右衛門が総一郎と名乗り、萬屋に奉公中生え抜きの仁平と総一郎が競争し、仁平が出ていくことに。その後仁平は岡っ引きになり、執拗に総右衛門を追い落とそうと狙っている。

読後感

◇日暮らし

 章ごとに異なる話かと思っていたら、人物像が次第に描かれていって全体像がはっきりしてくる形になっている。 従って、さらっと読んでいくとあれっと見落としてしまった感じになり、どういう関わりになっているのか読み返してみるほど。
 中に“鉄瓶長屋”の騒動のことが出てくるのだが、幾度となくページを繰ってみるが、記されてないようで(まあ詳細が判らなくても人物像の濃さが多少少なくなる程度だが・・・)、読み終えた後、シリーズ的な物があるのかなと本の後ろの方を見てみたら、「ぼんくら」という小説が“鉄瓶長屋”の陰謀事件のことを扱っていることが判った。

 この小説、最後の方に来て今までの章で語られていたことが色々つながっていてしっかりと記憶していないと興味が半減してしまうことが判ってもう一度読み直さないといけないかな。
 下町の住人の人情がほのぼのとにじみ出てきて、なかなか味わい深い作品であった。宮部みゆきの時代小説もおもしろく、ひと味違った世界を堪能できる。

 なかでも“嫌いの虫”の章で佐吉とお恵が所帯を持って半年、夫婦の間の行き違いを描いた場面は江戸市井の暮らしぶりの中でのふと湧いて出る不信感?、このところの二人の気詰まりなすれ違い、一方でお恵と佐吉の結びの神だった烏の官九郎が死んだのをききつけて、井筒平四郎の言葉をこまっしゃくれた弓之助が伝えに来て語る場面なんかは秀逸。


◇ぼんくら
 先に読んだ「日暮らし」に出てきた登場人物の人物像が「ぼんくら」に詳細に出ていて、なるほどこういういきさつ、人物の関係での「日暮らし」での出来事かとこの本を読んでいるうちにもなるほどなるほどと興味深く読むことが出来た。
「ぼんくら」では主人公の井筒平四郎の性格――いかにも怠惰で面倒なことが苦手、でも人の気持ちをくみ取る能力に長け、周囲から愛される人徳はまったくもってうらやましい限りの人物――はなかなか今までの小説にない魅力的な人物である。

「日暮らし」で詳細は判らなかった鉄瓶長屋の謎が「ぼんくら」では次第に解明されていき、最後の方で落ち着くところに落ち着く。
 中でも細君のことはあまり出てこないけれど、そして名前もどこかで見かけたかも知れないが、平四郎とのやりとりはなかなか愉快で素敵な夫婦仲であることも魅力的である。
 まあ湊屋の主総右衛門、奥方のおふじ、妾の葵の怪人物の姿は「ぼんくら」ではあまり詳細に出てこないが、「日暮らし」の方でおふじに対する葵像が浮き彫りに。

「ぼんくら」の最後の方で鉄瓶長屋の謎の部分を読んでいたら、井筒平四郎の人物の大きさが感じられるようになり、また登場人物像を知って次の「日暮らし」を読んだらもっと味わいが出てきたのではないかとちょっぴり後悔も。
それにしても宮部みゆきの時代小説も読ませるなあと。

 よく小説でああ面白かったというだけのものが多い中で、著者の作品は後に残るものがあり、また繰り返して読んでみても面白いのは良い作品の証拠でも。


余談:
 
 たしかラジオか何かで宮部みゆきとの対談があり、自分は長編ものが好きと。なぜならその筋書きの雰囲気にどっぷりとつかって読みたいと。 自分も短編より人物の素性や性格、人となりや状況の中に浸って作品を読み続けたい願望がある。 やっぱりそう思う人もいるんだなあと。
 背景画は江戸時代の長屋風景。

                    

                          

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