宮部みゆき著

       『震える岩』、『天狗風』





                  2009-11-25


 (作品は、宮部みゆき著 『震える岩』 新人物往来社、 『天狗風』 講談社文庫による。)

            
 

◇震える岩 副題 霊験お初捕物控
 「時代小説」(1992年冬、1993年春号)発表の「百年目の仇討始末」を改題、加筆したもの。
 1993年9月刊行
◇天狗風 副題 霊験お初捕物控[二]
 「東奥日報」(1994年4月〜1995年4月)ほか15紙に連載。この作品は1997年11月に新人物往来社より刊行された作品。
 本書 2001年9月刊行

宮部みゆき:

 1960年東京都生まれ。法律事務所勤務ののち小説家に。87年「我らが隣人の犯罪」でデビュー。89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、92年「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、99年「理由」で直木賞を受賞する。また01年「模倣犯」がベストセラーとなり話題となる。

物語の展開:

◇震える岩
 おせんという5つの女の子が油問屋の樽の中に投げ込まれて死んでいた。そしてまた煮しめやの長坊が夜の川に浮かんでいるのが発見される。
 人が見えないものが見える力を持つお初は死霊にとりつかれている人の顔を見ていたことを発見し、事件の解決に老奉行、右京之介、六蔵たちとたち向かい、100年前の赤穂浪士討ち入り事件が・・・。

◇天狗風
 下駄屋の娘おあきが突然失踪して姿を消した、下手人は主人の政吉が自分が殺したと。そして八百屋夫婦の娘お律もかどわかしにあい、こちらには投げ文で千両の金を要求してきた。お初は神隠しを利用して別の犯人がいるのではと疑う。お初の前に観音様の姿が現れ、「お前ではダメだわ」と言い残して・・・。

主な登場人物:

お初

兄六蔵とおかみの御用を勤める一方、兄嫁のおよしと一善飯屋「姉妹屋」を切り廻している。 お初には他人に見えないものがみえる霊感の力を持ち合わせている。
実はお初は六蔵の両親が捨て子であったのを引き取って育てたが、もらい火で家は焼け両親もなくなる。 そして六蔵とおよしに引き取られ、世間的には血の繋がった妹ということになっている。

古沢右京之介 吟味方与力古沢武左右衛門の嫡男。 古沢武左右衛門は腕利きと評判の人で赤鬼の通り名がある。 右京之介は親父殿とはまったく違う優男で、与力見習い中。
六蔵
女房 およし
通町のあたりを縄張りとしている岡っ引き。
老奉行 御前様とも呼ばれる。南町奉行根岸肥前守鎮衛(やすもり)。
文吉
恋仲 お美代
六蔵の使っている下っぴきの一人。
辰三親分 三間町のあたりを縄張りとしている岡っ引き。六蔵とも古い付き合い。

読後感

 宮部みゆきが想像した異色捕物帖、「霊験お初捕物控」の第一弾と第二弾。 このシリーズの原型は、1992年1月に刊行(新人物往来社)の作品集「かまいたち」に収録されている「迷い鳩」「騒ぐ刀」の二つの短編。そして歴史上の人物根岸肥前守鎮衛(やすもり)とこの人の残した「耳袋」という書物があり、その中の浅野内匠頭が切腹した田村家の庭石が鳴動するという記事「奇石鳴動の事」をヒントにしたという。(「天狗風」の解説より)

 さて物語だが、事件の内容はそれぞれ面白いのだが、作品を魅力あるものにしているのがやはりなんといっても登場人物の人物像ではなかろうか。 いうまでもなくお初と古沢右京之介であろう。 そしてそれを取り巻く岡っ引きの兄六蔵と兄嫁のおよしの存在、老奉行のゆったりとして時に厳しく、懐の深さを持ち合わせた所など上役としての役所は実に好い。

 テレビで見る時代劇はよく同じような脚本、画一的な性格の役者でつまらないが、人物の描き方でもっと面白いものができそうだけれどと読みながら思ったり。

 宮部みゆき作品は「模倣犯」を読んだのが最初で、この人の描く人物像、心理描写はすばらしいと感じていたのが、この作品のような捕物帖的な軽いというと失礼だが、軽快な小説も非常に楽しんで読めたのも宮部みゆきの実力によるところであろう。


余談:
 
宮部みゆきなる作家、色々なテーマ、作風が感じられ多彩さを伺わせる。表現力もあり、飽きさせないのがいい。
  背景画は「震える岩」の作品中赤穂浪士討ち入りに関係のある現在吉良邸の屋敷跡本所松坂町公園の
「首洗い井戸」のフォトを利用。 

                    

                          

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