宮部みゆき著
          『小暮写眞館』






                  
2010-08-25

 (作品は、宮部みゆき著 『小暮写眞館』       講談社による。)

               
 


本書 2010年5月刊行

宮部みゆき:

 1960年東京都生まれ。法律事務所勤務ののち小説家に。87年「我らが隣人の犯罪」でデビュー。89年「魔術はささやく」で日本推理サスペンス大賞、92年「龍は眠る」で日本推理作家協会賞、99年「理由」で直木賞を受賞する。また01年「模倣犯」がベストセラーとなり話題となる。

 物語の概要:

 もう会えないなんて言うなよ。 あなたは思い出す。どれだけ小説を求めていたか…。 物語のすべてが詰まった700ページの宝箱。 著者3年ぶりの現代エンターテインメント長編。
 第一話小暮写眞館、第二話世界の縁側、第三話カモメの名前、第四話鉄路の春


主な登場人物:

花菱英一
(呼称:花ちゃん)
都立三雲高校1年生、ジョギング同好会所属。
テンコとはよく泊まったり泊まりに行ったりする仲。
テンコからコゲパンには“花ちゃんは一刻者だからからかっちゃだめっ”といわれている。
店子力
(たなこつとむ)
(呼称:テンコ)
三雲高校1年生でクラスは違うが、英一の親友、軽音楽同好会に属す。
モテるがコクられても全てふっている。
ピカちゃんと嗜好が似ていて仲がよい。
寺内千春
(渾名:コゲパン)
都立三雲高校1年生、軽音楽同好会にいる甘味処てらうちの一人娘。 色が黒いのでコゲパンと言われるが内心はこだわりもある。
花菱家
父親 秀夫
母親 京子
弟 光
(呼称:ピカ)
姉 風子
(4歳で亡くなる。)
結婚20周年を期に築33年の小暮写眞館の古家を購入、改装して住む変わり者の夫婦。「小暮写眞館」の看板はそのまま残している。
秀夫はサラリーマン、京子はパートで大手会計事務所に。
ピカは朋友学園小学部2年生、電車通学で美術部にいる。 本をよく読むし、花ちゃんより出来がいいけど、それなりに苦労があるよう。
風子はピカが2歳、英一が10歳の時インフルエンザによる脳症のためなくなる。 このことが鬼門となっている。
店子家
父親
母親
歯科医、大学病院に勤務し週の3日目黒の自宅で開業。
花菱家たちの避難場所としての役割も。
小暮泰次郎
娘 石川信子
今年85歳で亡くなる。その後小暮写眞館に幽霊が出るという噂があるが、真意の程は判らない。
一人娘は横浜に住み、夫の親の介護をしている
ST不動産
須藤社長
事務員 垣本順子
小暮写眞館を世話した不動産会社。 社長は誠実で赤ん坊みたいな笑顔の須藤社長、奥さんは元三雲高校のミス文化祭事務員の垣本順子をなんとか立ち直らせようとしている。
垣本順子は何から逃げたくて、何に傷ついて自殺未遂を繰り返すのか、謎の多い女性。
山埜(やまの)理恵子
<第一話>
三田家の法事の時の写真に、居ないはずの女性が映っている問題の写真の女。三田真の結婚相手。
河合公恵(きみえ)
<第二話>
三雲高校出身の元バレー部員、22歳。 4人の被写体の写真に何故か河合夫妻と公恵の親子3人がもう一度写っている、順番も違って。 撮影者は足立文彦当時26歳、公恵の婚約者、今は消息不明。
牧田翔(しょう)
<第三話>
フリースクール(不登校の生徒が通う)の<三つ葉会>の小学6年生12歳。 カモメの写真が写っちゃったと。 何かを訴えている。

読後感

 3つの写真の謎に迫る花菱英一とそれに協力するテンコ、コゲパン、ピカちゃんのせつなくもあり、愉快でもあり、涙があふれる場面もしばしばの感動作品。 第四話では写真の謎は出てこないが、色んな謎が解決したり、けじめが付いたり、せつないものが残ったり、しかし先に元気が湧いてくるような。

 厚さが40ミリ、720ぺージ近いこの宮部みゆきの世界は重松清の世界にも通じるようで(表現は失礼かも)いつまでも読み続けたい思いで、暑い最中一気に読んでしまった。
 それにしても宮部みゆきという作家実に色々な作品の書き手のようである。
 心情描写のうまさは読者をぐっと捕らえてぐいぐい引き込んでいってしまう。
 
 この作品、一年半以上をかけて創作されたものとあとがきに記されている。 現実の問題としてもどこかにありそうな話でもあり、こんなとき自分ならどう処理できるかと考えてしまう。


余談:
 
 2010-7-20朝日朝刊文化欄 より
 社会は推理小説を書いてきた宮部みゆきさんが青春小説に挑んだ。 いわく「何も起きない小説」これまで徹底した筆致で多くの殺人事件を描き、登場人物を不幸にしてきた。 「2周目の出発点の作品」は、彼らを救う物語でもある。
「ゆさを大切にしたかった」そんな気持ちの根っこは、「模倣犯」にある。「たくさんの人を不幸にしたので・・・。 あと引っ張っちゃったんですね」回復には時間が必要だった。 現代小説から離れ、時代小説やファンタジーを書きながら物語の楽しさを再発見していった。
 背景画は物語中の古家の写眞館のイメージを感じさせる犬山市の史跡敬道館のフォトを利用して。

                    

                          

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