三浦哲郎著 『忍ぶ川』




             
2009-04-25





  (作品は、三浦哲郎 「忍ぶ川」    新潮社による。)

          

昭和40年5月発行。
 平成8年(1996年)3月版
 60年の芥川賞受賞作品。

 三浦哲郎:
 1931年(昭和6年)青森県八戸市生まれ。早稲田大学を中退し、郷里で中学教師になるが、53年早稲田に再入学、仏文科卒。


主な登場人物

東北の片隅の高校を卒業、東京に出てきた学生時代、志乃の働く料亭「忍ぶ川」で出会う。そのとき忍ぶ川の近所にある学生寮から東京の西北にある私立大学に兄の出資で通う。六人兄弟の末っ子。長男は失踪、二人の姉は自殺。上の兄も背信行為で逐電、父はショツクで脳溢血に。
志乃 深川で生まれ、12の時までそこで育つ。終戦の前年の夏、栃木に疎開。料理屋「忍ぶ川」の女。志乃に男の噂・・・。志乃の父が深酒がたたって危篤に。

読後感:

 高樹のぶ子のエッセイ「葉桜の季節」で私のファンである作家三浦哲郎の作品「ユタとふしぎな仲間たち」「忍ぶ川」が紹介されていて、読んでみたいと思う。
 なかでも「忍ぶ川」については高樹のぶ子が芥川賞を受賞した時、一冊だけ文庫本を持ってホテルにカンズメになったという。その本がこれで、何十年ぶりという大雪の冬は、いかにもこの一冊にふさわしいかったとあった。ほかにも誰だか忘れたが、三浦哲朗の文章を褒めていたのも思い出された。

 さて、いかにも文学作品という雰囲気の作品である。栃木の志乃の実家での情景、自分のふるさとへお嫁さんを連れて帰ってそこでの対面、家族としての暖かい雰囲気、何とも言えないじわっとした情景が目の前に現れてきてこういう作品はいいなあとしみじみした気持ちにさせられる。不幸な過去を持ちながら、二人が結ばれる純愛、昔の良さが忍ばれる。解説で奥野健男氏の表現を借りると作者が実際に体験した現実とは違った次元に昇華され美化されたお伽噺、事実をそのまま使いながら、作者が夢見たメルヘンを描いたということか。

 「忍ぶ川」の他「初夜」「帰郷」「團欒」など続編とも言えるいずれも短編がつづく。そこでは結婚してからの生活がつづられていて、自分の家族たちの呪われた(?)血筋が赤ん坊にまで不幸をひきずらないかとの恐怖が「忍ぶ川」では味わえなかった部分を補足するような感じで次第に奥深く記述されている。「忍ぶ川」では不幸もさらっとながされ、ほんわかとした作品に感じられたが、以下の作品を読むに従い、その生い立ち、家族の血のつながりを予感させるもので、どうなるのかと引きつけられる。



余談:
 ユタとふしぎな仲間たち 講談社青い鳥文庫2006年12月刊行)も読んでみた。

 あとがきによると、これまで児童文学以外の分野で仕事をしてきた、いわば大人の文学の作家たちに、とっておきの話を題材に、敢えて伸びゆく世代のために新鮮な夢あふれる競作をしてもらおうというもので、当時の第一線作家たちが多数、その問いかけに応じて執筆準備に入ったと。

 話は場所は東北もずっと北の方の山間にあるお母さんの実家のある湯の花村の分教場に転校してまだやっと一月にしかならない転校生勇太(小学校6年生)。分教場は合わせても19人しかいない小学、中学の学校。村の仲間としてなかなか受け入れられず、友達もなくひとりですごすことが多い。そんなとき、お母さんの働く温泉宿銀林荘の離れで座敷童(わらし)の仲間と知り合いになり、不思議な体験をする。そんな夢のようなお話。
 なんだか宮沢賢治の世界を思い起こさせた。


   
背景画は料亭のイメージ画像。

                                              

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