読後感:
高樹のぶ子のエッセイ「葉桜の季節」で私のファンである作家三浦哲郎の作品「ユタとふしぎな仲間たち」「忍ぶ川」が紹介されていて、読んでみたいと思う。
なかでも「忍ぶ川」については高樹のぶ子が芥川賞を受賞した時、一冊だけ文庫本を持ってホテルにカンズメになったという。その本がこれで、何十年ぶりという大雪の冬は、いかにもこの一冊にふさわしいかったとあった。ほかにも誰だか忘れたが、三浦哲朗の文章を褒めていたのも思い出された。
さて、いかにも文学作品という雰囲気の作品である。栃木の志乃の実家での情景、自分のふるさとへお嫁さんを連れて帰ってそこでの対面、家族としての暖かい雰囲気、何とも言えないじわっとした情景が目の前に現れてきてこういう作品はいいなあとしみじみした気持ちにさせられる。不幸な過去を持ちながら、二人が結ばれる純愛、昔の良さが忍ばれる。解説で奥野健男氏の表現を借りると作者が実際に体験した現実とは違った次元に昇華され美化されたお伽噺、事実をそのまま使いながら、作者が夢見たメルヘンを描いたということか。
「忍ぶ川」の他「初夜」「帰郷」「團欒」など続編とも言えるいずれも短編がつづく。そこでは結婚してからの生活がつづられていて、自分の家族たちの呪われた(?)血筋が赤ん坊にまで不幸をひきずらないかとの恐怖が「忍ぶ川」では味わえなかった部分を補足するような感じで次第に奥深く記述されている。「忍ぶ川」では不幸もさらっとながされ、ほんわかとした作品に感じられたが、以下の作品を読むに従い、その生い立ち、家族の血のつながりを予感させるもので、どうなるのかと引きつけられる。
|