(作品は、三浦しをん著『まほろ駅前多田便利軒』、『まほろ駅前番外地』 文藝春秋による。)
『まほろ駅前多田便利軒』
初出 別冊文藝春秋255〜260号
本書 2006年(平成年)3月刊行。 第135回直木賞受賞作品。
『まほろ駅前番外地』
初出 別冊文藝春秋274〜280号
本書 2009年(平成年)10月刊行。
三浦しをん :
1976年、東京生まれ。 早稲田大学第一文学部卒業。 2000年、長編小説「格闘する者に〇」でデビュー。 今もっとも注目を集める気鋭作家のひとり。
小説作品に「月魚」「私が語りはじめた彼は」「むかしのはなし」など、エッセイ集に「三四郎はそれから門を出た」など著書多数。
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主な登場人物 :
『まほろ駅前多田便利軒』
多田啓介 |
大学出て会社勤め、結婚、別れて便利屋を始める。 子供も無し。
行天に居座られることになり、仕事に連れて行くが、奇妙なところで行天に助けられることがある。
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行天春彦 |
都立まほろ高校時代の同級生。 小指を切断して拾ってくっつけたという変人。
結婚してた、子供もあったというが年末に仕事も辞め、アパートも引き払い貯めたお金を奥さんだった人に送り、無一文で多田の事務所に転がり込む。 物言わぬ変人として有名。 |
ルル
ハイシー
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駅裏の娼婦。“コロンビア人”と呼称。 多田からチワワのもらい犬をもらい受ける。 ハイシーはルームメイト。
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新村清海
・星
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まほろ高校2年生。マンション“パークヒルズ”で夫婦刺殺事件発生。 姿を消した娘芦原園子の親友。
マスコミでコメントしてうるさく匿ってくれと依頼される。
・ 星は清海の2年先輩、バスケ部のキャプテンだった。 ヤクザ
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北村周一 |
依頼主の木村家の様子を教えてと。 どうも生みの親らしい。 行天と多田の対応の違いが出て・・・。 |
『まほろ駅前番外地』
多田啓介 |
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行天春彦 |
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宮本由香里 |
まほろ信用金庫勤務、同僚の見栄っ張り武内小夜が婚約者を紹介する場で、同じデザインでダイヤの大きなエンゲージリングを見せびらかされることのないよう依頼。 |
星良一 |
駅裏のヤクザ稼業の男。後輩の新村青海との関係で稼業と優しさの一端を披露。 |
曽根田のばあちゃん |
曽根田建材のばあちゃん。昔の“まほろシネマ”の美人もぎり嬢であった頃の思い出話をする。 |
岡夫人 |
昔は豪農、今はマンション、アパートの店賃で暮らす岡家の夫人。庭仕事と横中バスの中抜き運行調査を依頼する付き合いで見せる多田と助手の行天との素顔に迫る。 |
由良良一 |
小学5年生。「多田便利軒」で教育ママゴンから進学塾の迎えを頼まれた由良。今回はツキのない一日を苦手のギョーテンから大人の世界を垣間見せられる。 |
柏木亞沙子 |
夫は“キッチンまほろ”の外食チェーンの社長、68歳。夫人の亞沙子は専務、32歳。2年前に大きな屋敷を出てマンション暮らし。夫の突然死に、亞沙子は部屋の後片付けを依頼する。 |
田岡夫妻
娘 美欄 2歳。
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夫の出張でインフルエンザで倒れた妻と娘美欄の面倒を依頼される。行天の暗い何かを抱いて必死に何かと戦っている姿を初めてみる。 |
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物語の概要:図書館の紹介より
『まほろ駅前多田便利軒』
東京のはずれに位置する「まほろ市」の駅前にある便利屋「多田便利軒」に舞いこむ依頼はどこかきな臭い。
多田と行天コンビの魅力満点の連作集。 痛快で、やがて熱く胸に迫る“あなたの街の”便利屋物語。
『まほろ駅前番外地』
直木賞受賞作「まほろ駅前多田便利軒」の愉快な仲間が帰ってきた。 指輪奪取作戦に、追憶のまほろロマンス、由良と行天の奇妙な1日など、笑いと切なさを綯い交ぜに紡がれた「多田便利軒」外伝7篇を掲載。
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読後感:
『まほろ駅前多田便利軒』
読んでいくうちに多田啓介という便利屋の男の優しさが行天の気持ちを動かしているのかも?
一方素性の知れないくせ者の行天という人物の、すねたようでいてどこか優しさというか、隠されたところを汲んで手をさしのべるようなところを発揮して切なくさせる。
底辺に生きる人々や、恵まれない環境にいる人をさらっと励ましたり、勇気を与えるような暖かい小説に気持ちが柔らかくなる。 暗いところもなく、あくどい人間も出てこない。 痛快な事件の解決も快い。
『まほろ駅前番外地』
前作「まほろ駅前多田便利軒」の中に出てくる関係者を中心に、多田と行天の人となりを突っ込んだり、別の依頼の件も含めより身近に感じるような出来事に遭遇し、親近感を増す作品に仕上がっている。
さすがにヤクザ稼業の星良一の所では暴力的な記述もあるがどぎつくなくほどほどに。
岡夫人の章の話が中では秀逸。 岡夫人から観た多田とその助手(行天)の人物像がほのぼのとしていて素敵な奥さんである。
そして最後の “なごり月” では自我が芽生える年頃の子供と接するのが初めての行天が、今まで抱いていた暗がりが爆発しそうになる寸前の姿が色んなものを背負っていたことを窺わせ、明らかにされないまま物語が終わる。 多田と行天という相交わることなく、何となくお互いがお互いのことを思い、過ごしてきた2年間の生活がほろ苦く、せつなく後に残った作品である。
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