三浦しをん著 
             『まほろ駅前狂想曲 』 




                
2014-03-25



(作品は、三浦しをん著 『まほろ駅前狂想曲』   文藝春秋による。)

            
 
 

 初出 週刊文春 2010年10月28日号〜2011年9月15日号
 本書 
2013年(平成25年)10月刊行。

 三浦しをん:(本書より)

 1976年、東京生まれ。2000年長編小説「格闘する者に〇」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で第135回直木賞受賞。12年「舟を編む」で本屋大賞受賞。
 小説作品に「月魚」「私が語りはじめた彼は」「むかしのはなし」「風が強く吹いている」「きみはポラリス」「仏果を得ず」「光」「神去なあなあ夜話」「政と源」など、エッセイ集に「三四郎はそれから門を出た」「あやつられ文楽鑑賞」「ビロウな話で恐縮です日記」「お友だちからお願いします」など、著書多数。

◇ 主な登場人物

多田啓介 まほろ駅前の雑居ビルで便利屋稼業を営む。結婚していたが産まれた子供をすぐに亡くし、今は独り者。柏木亜沙子にはひさびさに覚えた恋心が芽生えている。
行天春彦

高校時代に多田と同級生の縁で多田の所に転がり込んでいる。
行天の過去には深いものがあり、子供に関わることには逃げている。

三峯凪子(なぎこ)
娘 はる
(4歳児)

行天の元妻。今はパートナーの女性(医者)と娘の三人で暮らしている。パートナーは海外で仕事中のため。1ヶ月半アメリカの研究施設に出向く間多田に娘のはるを預けたいと。
星良一 ヤクザではないと言うが、ゲームセンター「スコーピオン」を経営し、用心棒、金融業を家業としている。
柏木亜沙子 大手ファミリーレストラン「キッチンまほろ」グループの女社長。夫を亡くし今は一人で大きな屋敷に住む。
岡老人 多田便利軒のお得意先。横浜中央交通にバスの間引き運転を告発運動にご執心。岡家の前にはHHFAの契約畑がある。
沢村 HHFA(野菜を生産販売する団体)の幹部、無農薬野菜の販路拡大をめざしている。元新興宗教団体の残党。
田村由良 以前母親の依頼で多田たちが塾への送迎を請け負ったことがある。今は小学6年生。
松原裕弥 田村由良の同級生(行天、ユラコーの背後霊と評す)。裕弥は母親から農作業を強いられ、一方で中学受験のための塾通いでへとへと、由良が多田に助けを求める。

物語の概要:図書館の紹介より

まほろ市で便利屋稼業を営む多田と行天。行天の元妻から4歳の女の子「はる」を預かることになった多田は、その後行天が「はる」とともにバスジャックに巻き込まれたことを知らされ…。待望のシリーズ第3弾。

読後感:

 2年ほど前に読んだ第1弾、第2弾に引き続き第3弾になる。その間にテレビドラマで観たが多田と行天のコンビ(役者は瑛太と松田龍平)の印象が今作品を読んでいると重なってきておもしろい。特に行天役の松田龍平は秀逸だったのではなかろうか。

 さて今回の内容は多田の恋の行方、そこには亡くした子への悔いや自分への恐れがありなかなか素直になれないのに対し、行天がずばっと切り込む。そこには優しさが溢れかえって響いてくる。

 一方の行天の恐れ“記憶”の謎が自分の娘を預かり面倒を見ることに示す態度、行動に行天らしさが随所に現れ、ほのぼのとした雰囲気を感じさせる。クライマックスはなんといっても、まほろ駅前の南口ロータリーでの3者みつどもえのぶつかり合い。
 そこでの行天の行動がすべて。だが行天のその後の行動が何とも行天らしさを現していてほのぼのとした感触が後に残る。
 こんな小説も心をゆったりとさせて好ましい。 

 

印象に残る場面:


◇子供を嫌っている行天が非常時にはるを助けたときの「どうして、ギョーテンはたすけてくれたのかな」に、行天の人となりを多田が表現:

 −ふだんはだらだらするばかりで、ひとの感情の機微に疎いふりをしている。だが、本当はそうじゃない。黙って観察し、ときに大胆な言動をし、危機に瀕したひとを決して放っておかない。自分の身の安全すらそっちのけで、いざというときにはだれかを守ってみせる。行天とはそういう男だ。−


余談:
  
 多田と行天ふたりのやりとりは何とも言えぬ暖かさを感じさせ、特に行天の普通の感覚では言えない、行動できないことをさらっとやってしまう。でもその下には相手への思いやりがそっと隠されている。そしてそのことを多田は判っている。そんな関係が行天がいなくなってぽっかりあいた時間がじわっと染み出してくる感覚が心に染みる。

             背景画は、映画の「まほろ駅前番外地」の一シーン(多田と行天役の役者)より。        

 

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