三浦しをん著        
            『木暮荘物語』





               
2012-06-25


(作品は、三浦しをん著『木暮荘物語』  祥伝社による。)

               
 
  発表誌 シンプリーヘブン  「Feel Love Vol.1」   (2007 SUMMER)
      心身               「Feel Love Vol.2」   (2008 WINTER)
      柱の実り         「Feel Love Vol.3」   (2008 SPRING)
      黒い飲み物        「Feel Love Vol.4」   (2008 SUMMER)
      穴               「Feel Love Vol.5」   (2009 Winter)
      ピース              「Feel Love Vol.6」   (2009 Spring)
      嘘の味          「Feel Love Vol.7」   (2009 Summer)  いずれも祥伝社刊

 本書 
2010年(平成22年)11月刊行。
 

 三浦しをん :

 1976年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2000年、長編小説「格闘する者に〇」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で第135回直木賞受賞。小説作品に「月魚」「私が語りはじめた彼は」「むかしのはなし」など、エッセイ集に「三四郎はそれから門を出た」など著書多数。

主な登場人物と概要

<シンプリーヘブン> 繭の部屋に晃生と3年ぶりに姿を現した写真家の並木の3人での生活が・。
<心身> もうすぐ死ぬという木暮の古くからの友人を見舞いに行って「俺ぁもうだめだ」「かあちゃんにセックスを断られた」と言われて・・・。
<柱の実り> 美禰は小田急線世田谷代田駅のホームの柱に奇妙なものを認める。やくざな前田とミネ(大型犬)を通して奇妙な関係が・・・。
<黒い飲み物> 最近夫の入れるコーヒーは泥の味がする。佐伯の夫は夜中そっと抜け出して・・。繭と浮気を突きとめに・・。
<穴> 「ああん、ああん」の発生源が気になってやがて下の階の女子学生の部屋をのぞき見することに夢中・・・。
<ピース> 不妊症と分かった光子は、友人の亜季が赤ん坊を預けられ、その可愛さに「神さまって、ほんとに不公平で意地悪だ」と。木暮荘の住人たちの肌の温もりが伝わってくる一篇。
<嘘の味> 繭を諦めきれない並木が、シンプリーヘブンを買いに来る客との共同生活から再び決意を取り戻して・・・。
☆木暮荘の住人 木暮荘:木造2階建ての古くて隣の部屋の音も筒抜けの安普請だが手入れの行き届いたアパート。附近は静かな住宅街で、荘の前は広い庭になっている。
坂田繭(26歳) (203号住人)高校卒業後、専門学校のデザイン科を出て“フラワーショップさえき”に勤めてバイト時代を含めて8年。
神崎 (201号住人)中ぐらいの規模の外食産業に勤めたばかり。安月給の仕事も苦情やトラブル処理ばかりのため、税理士の資格取得に向け独学中。
光子

(102号の住人)派手な感じの女子大生。交際相手を頻繁に部屋に引き入れている。
・亜季 光子の女友達。臨月。
・葵 光子の女友達。

木暮
飼い犬 ジョン

(101号に住む)大家。娘夫婦が転勤の都合で家に転がり込んできて手狭になり、妻宅からひとり木暮荘に中型犬のジョンと住む。
瀬戸並木 以前付き合っていたがふいに姿を消して3年、突然繭の前に姿を現し、繭を惑わす写真家。
伊藤晃生(あきお) 半年前から繭と付き合っている。小さな企画会社に勤める。

佐伯

表参道にある“フラワーショップさえき”の女主人、その店の奥は夫の経営する喫茶店が併設されている。
峰岸美禰(みね) 住宅街の犬の美容院“トリミングハウス プティ・キャン”に勤務。
前田五郎 やくざ風の男。舎弟が付き添っている。大型犬のミネを飼っている。
北原虹子(30歳位) 毎週火曜日“フラワーショップさえき”にシンプリーベンを5本買いに来る客。

物語の概要:図書館の紹介より
 
 小田急線・世田谷代田駅から徒歩5分、築ウン十年。安普請だが、人肌のぬくもりと、心地よいつながりがあるアパート。一見平穏に見える木暮荘の日常。しかし…。うまい、深い、面白い、三拍子揃った会心作。

読後感:

 各編の間は小暮荘の住人が関わった連作のように構成されていて、全く違った話でないため読む方としても安心感がある。
 なかでも「シンプリーヘブン」と「ピース」が三浦しをんらしさが表れていて後味の残るところであった。
「シンプリーヘブン」では繭と昔付き合っていて姿を消した男(並木)が突然現れ、今付き合って結婚も考えている伊藤晃生との間で、晃生と並木と繭が仲良く川の字になって寝る中で繭の複雑な揺れ動く心情がなんともよく伝わってくる。

「ピース」では不妊症の光子が臨月で、相手の男との間で現実を見ない何とも頼りない姿に自分の身の不幸を思い知らされる。が、預けられた赤ん坊の可愛さ、いとおしさに亜季がこのまま戻ってこなければいいのにと思ってしまう。
 そんな様子の光子を、二階の神崎が見て同情しているのか、その後どうなるのかわからないがこのシーンも切なさが後にじーんと残る。
 
 そして最後の「嘘の味」では「シンプリーヘブン」に登場の瀬戸並木が、潔く伊藤晃生に繭を譲って出ていったが、海外に行かずに、北原虹子との居候生活から決心をして海外に旅立つラストは、木暮荘にまつわる色々な人生のラストに相応しい結末のつけ方だったようだ。

 余談:

 三浦しをん作品には「まほろ駅前多田便利軒」のイメージがあり、この作品にもあんな肌の温もりを期待していたが、ちょっと違ってはいたが、すごく現実的で人間の底辺の世界が展開していて、これはこれであったかみを感じる作品であった。 

背景画には木暮荘に匹敵する古いアパートのフォトを考えたが、何か古ぼけて暗いイメージになってしまうので、本作品中にも出てくる犬の美容院をイメージとして採用。

                    

                          

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