三浦しをん 『エレジーは流れない』



              2021-12-25


(作品は、三浦しをん著 『エレジーは流れない』    双葉社による。)
                  
          

 初出 「小説推理」2019年11月号〜2020年6月号。書籍化にあたり、加筆・修正。
 
本書 2021年(令和3年)4月刊行。

 三浦しをん
(本書より)

 1976年東京都生まれ。2000年「格闘する者に〇」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で直木賞、12年「舟を編む」で本屋大賞を受賞。15年「あの家に暮らす四人の女」で織田作之助賞、18年刊行の「ののはな通信」で島清恋愛文学賞と河合隼雄物語賞、「愛なき世界」で日本植物学会特別賞を受賞した。他の小説に「ロマンス小説の七日間」「風が強く吹いている」「光」などがあり、エッセイや共著も多数ある。

主な登場人物:

穂積怜
母親 寿絵
(としえ)

餅湯高校二年C組の学生。数あわせで入る幽霊美術部員。
怜には母親が二人いる。赤ん坊の頃、桜台の家で伊都子に育てられた。誰が産んだか怜は知らない。
・寿絵 餅湯町の餅湯温泉駅前商店街で「お土産 ほづみ」を営む、40前。慎ましく二人暮らし。デリカシーというものを解さない。

佐藤竜人(りゅうじん)

干物店の息子。怜と同じ二年C組の幼なじみ。野球部。
心身共に打たれ強い。怜のこといつもさり気なく気遣ってくれる。

丸山和樹(かずき)

喫茶店「喫茶ぱらいそ」の息子。怜の幼なじみ。美術部の部長。おとなしい性格でやや影が薄い。

森川心平(しんぺい)

二年B組サッカー部。怜と小学校からの友人。
生命力が強い。竜人と心平通じ合う。
・妹 菜花(なばな) 小学5年生。
・父親 大手電機メーカー勤務。ここ2年ほど、博多支店勤務。

藤島翔太(しょうた) 二年A組。 元湯町で「藤島旅館」の跡取り息子。大人(たいじん)の風格。
秋野愛美(まなみ)

心平と同じクラス。元湯町の旅館の娘。藤島とは親戚筋。
竜人の彼女。

新田朋香(ともか) 秋野愛美の友人。
光岡伊都子(いとこ) 桜台の豪邸(伊都子の父親の代から所有する光岡家の別荘)で、毎月の第三週のあいだ餅湯と東京を日々往復。やり手の女社長。怜の母親。50代後半。怜はその一週間、桜台の家で過ごす。
武藤慎一

桜台の家の居候で、まかない他一切を担当している。
「社長のツバメ」とも。気くばりの人。

関口太郎 高校二年C組(怜のクラス)の担任の先生。日本史担当。怜に大学進学を勧める。
山本喜美香(きみか) 高校二年B組(心平のクラス)の担任の先生。心平の留年防止に奮闘する。
岩倉重吾 アーケードに現れた40代前半の黒いコートの男。怜に似ている。
黒田 怜たちが高校二年生の修学旅行で唐津城に行ったとき、唐津の高校生と対峙したとき争い、結局仲直りした相手。又会おうと餅湯に訪ねてきた。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 山と海に囲まれた餅湯町。餅湯温泉を抱え、団体旅行客で賑わっていたかつての面影はとうにない。のどかでさびれた街に暮らす高校2年生の怜は、複雑な家庭の事情、迫り来る進路選択、自由な友人たちに振り回され、悩み多き日々を送っていたが…。

読後感:

 海のある餅湯(もちゆ)町と山のある温泉地元湯町は仲が悪いが、高校は餅湯町に有り、高校二年生のクラスには、穂積怜、佐藤竜人、丸山和樹、森川心平、藤島翔太がいる。餅湯温泉駅前商店街に暮らす怜は「お土産 ほづみ」で母親の寿絵とふたり交代で店番を。佐藤竜人は「干物店」を手伝っている。丸山(マルちゃん)は「喫茶店 ぱらいそ」の息子。特に竜人やマルちゃんは何かと怜の店を手伝ったり、気遣ってくれている。
 
 彼ら五人の高校生たちの日常の出来事が展開する青春ものである。
 中でも穂積怜には二人の母親が存在し、父親がいないことに不安を抱いていて、怜はそのわけを知らない。毎月第三週は桜台の豪邸に出向いて暮らすことになっていて、その謎が判るのに時間が掛かる。
 怜にとっては餅湯商店街の「お土産 ほづみ」の寿絵が母親の認識、桜台の伊都子のことは「お母さん」と呼んでいる。アーケードに現れた黒いコートの男を見たことを話したことから、真相を話してくれたのは伊都子。

 怜にとって、高校生時代の生き方は悩み多いことでいっぱい。特に進路については、学業はいい怜には、大学進学を勧められるも、寿絵に相談するのは毎日の暮らしぶりを考えたら言いづらい。竜人や心平の自由奔放に生きている姿を見ると、自分の性格を恨んでしまう。
 マルちゃんが美大に進もうとの考えも、心平の手先の器用さで同じく美大に進もうかなの言葉に、嫉妬を覚えたと、怜に自分の卑しさに嫌気がさしたと悩みを告げる姿に、励ます怜。
 竜人が愛美といちゃつく姿に、人を愛したり出来るのかと思ってしまう怜。

 そんな怜も仲間たちや周囲の人たちに励まされ、囲まれながら悩んだり、励まされたり、仲間を励ましたりして夢を追いかけ成長していく。


余談:

 本の題名の「エレジー」とは:
 哀歌の意味。親しい人の死、ひいてはこの世のはかなさを悲しみ嘆く詩。従って「エレジーは流れない」とあるごとく、小説のラストに、花火大会を終え客足が増え、餅湯温泉街に流れるテーマソングに、“哀しい歌
(エレジー)よりはこっちのほうが餅湯の町には似合うもんなと思いながら、令は埃をかぶった紙袋を振るった”とあった。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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