三浦しをん著      

    『仏果を得ず』





             
2012-07-25


(作品は、三浦しをん著『仏果を得ず』  双葉社による。)

                
 
 

 初出 「小説推理」06年8月号から07年3月号まで連載された作品に加筆、訂正を加える。
 本書 2007年(平成19年)11月刊行。

 
 

 三浦しをん :

 1976年、東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。2000年、長編小説「格闘する者に〇」でデビュー。06年「まほろ駅前多田便利軒」で第135回直木賞受賞。小説作品に「月魚」「私が語りはじめた彼は」「むかしのはなし」など、エッセイ集に「三四郎はそれから門を出た」など著書多数。

主な登場人物と概要

笹本健大夫
(たけるたゆう)

文楽の世界に入って10年。銀大夫の弟子として芸に、恋に悩み多い。文楽研修所出身。

鷺澤兎一郎
(さぎさわといちろう)

どこか影のある兎一郎、銀大夫より健とのコンビを請われ、次第に心が通じ合うように。
大夫

・笹本銀大夫 健の師匠、人間国宝。欲望に忠実に奔放に生きる。
 奥さん:福子
・幸大夫 健の兄弟子。文楽研修所出身。
・若竹砂大夫 銀大夫のライバル。
・若竹青大夫 砂大夫の弟子。文楽研修所で健と同期。

三味線ひき

・鷺澤蝶二 兎一郎の師匠、人間国宝。
・亀治 兎一郎の兄弟子(30代後半)。
・兎一郎

人形使い

・檜竹(ひだけ)東吾 人間国宝。
・十吾 弟子、健より2歳年下の若い人形使い。

岡田真智
娘 ミラちゃん

ミラちゃん 大阪新津小学校で健が指導している義太夫を勉強している子。
真智はその母親。健が一目惚れする。

藤根先生 大阪新津小学校のミラちゃんの担任。
小野寺誠二

健の友人、大阪でラブホ“ラブリー・パペット”の店長。
隣の寺の息子。健に宿として一室を提供している。


物語の概要:図書館の紹介より

  伝統芸能・文楽で大夫をする健が、人間国宝の師匠・銀大夫や変わり者の三味線弾き・兎一郎に鍛えられながら、芸に恋に悩み、成長していく姿を追った傑作青春小説。直木賞作家が描く、伝統芸能の世界。 

読後感:

 文楽が話題の中心にあって、中学時代に鑑賞で見たおぼえがあるぐらい、それにしても各章の表題にある作品の物語の内容を知るにつけ、文楽に対するというか、その内容のことを知れたこと、その人物の心情を理解することの大事さが、語る大夫の芸にとって大切であることを改めて知ることが出来た。伝統芸能という分野のことを多少でも知れたことが、今回の読書で新たな経験として得るところがあった。

 さて、健
(たける)を巡る兎一朗との芸のこと、誠二との友情、岡田真智との恋、幼いミラちゃんとの友情(?)、銀大夫師匠他の文楽の仲間達の指導、感化など青春小説という言葉だけでは表せない内容を読みつぐなかで、今まで読んだ作品とはまた別の世界を体感でき、いい想い出になった。

 余談:

  本の表題の「仏果を得ず」のいわれはどこから来たのかと思っていた。
 忠義を描くのではなく、忠義に翻弄される人の、苦しみと葛藤を描いた『仮名手本忠臣蔵』の深淵にひそむ真実を、健大夫と三味線の兎一郎、人形の十吾が伝えたその中の言葉。
「思へば思へばこの金は、縞の財布の紫摩黄金。仏果を得よ」云々。
 伝統の芸術について関心を呼び起こされた。

文楽は三業(太夫、三味線、人形使い)が三位一体となって醸し出す芸術である。背景画は物語の主役が太夫であるので、太夫の姿を国立劇場の文楽東京公演から拝借して。

                    

                          

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