印象に残る場面:
◇ 宗易が武野紹鴎(じょうおう)の門を叩いたときの話
「16才の時に、既に宗易が茶会をひらいたとの評判を聞いておる。その評判はおそらく貴方には害にこそなれ、なんの益にもならなかったであろうな。ここでは、まず庭の掃除からやってもらおう。それでもよろしいかな」と宗易自身の最も誇りとしているところを紹鴎は衝いた。そのあと「露地の掃除を」とちり一つ、木の葉一枚落ちていない場所に案内される。宗易は内心狼狽した。(掃除したばかりのあとを掃除せよとは、一体いかなることか)紹鴎が常々言っていると伝え聞いた言葉が浮かんだ。
「連歌は、枯れかじけて寒かれと言うが、茶の湯も、結局このようでなければならぬ。侘び数寄でなければならぬ」また、茶道の先達村田珠光の言葉も思い出した。「月も、雲間のなきはいやにて候」
宗易は、竹箒を置いて、木に寄った。秋とはいえ、まだ、落葉にはやや早い季節である。宗易は力をこめて銀杏の木をゆすった。その四、五枚が午後の日に輝きながら、ひらひらと舞い落ちた。
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