読後感:
小刻みに、何かことが起こりそうな予感を常に読者に想像させ、引き付けて放さないような展開の仕方がいかにも新聞小説である。そのこともこのエッセイに記されている。
「物語性のみならず、小説自身にかなり重要な問題を持たさなければならない。できるなら毎回、何か読者の心に訴えて行かねばならない。それは何か。作者自身の真実な叫びではないかと私は思った」とある。
小説の中に北海道の雰囲気を醸し出させる樹の名前が色々と出てくる。よく小説の中に樹が情景を表す手段として重要な位置を占めていることがあるが、1年ほど前から樹の名前を調べるようになって、小説の中に樹の名前が出てきてそれを知っているとその情景が思い浮かべられるので非常にうれしい。「氷点」には沢山の樹が出て来て、なかなか知らないものもあるが、何か情景が想像できるような雰囲気が気に入っている。
驚いたことにインターネットには「氷点」に出てくる樹の名前が整理されて載っているのには、やっぱり関心を持つ人もいるのだなあと嬉しくもある。
それだけ著者が拘っていたようだ。
ストローブ松、ドイツトーヒ、ムラヤナ松、落葉松、五葉松、エンジュの木、ナナカマド、ポプラ、カツラ、エルム、ニレ、アカシアの白い花、プラタナス、イチイ、ライラック、アララギ、いぼたの生垣、カエデ、こぶしの花、夾竹桃など
登場人物では、夏枝という女性の性格はごく普通にいるような気がするが、なんとも自己中心でイヤな性格。夫の啓造は村井と夏枝の間を疑い、さらにとんでもない計画(普通ならあり得ないこと)を実行するが、その後反省をしてからはまっとうな親らしい大人の行動をとっている。
印象に残る場面:
◇茅ヶ崎のおじさん(夏枝の父)が陽子に対していう言葉:
「何度も手をかけることだ。そこに愛情が生まれるのだよ。ほうっておいてはいけない。人でも物でも、ほうっていては、持っていた愛情が消えてしまう」
◇相沢の父(佐石の娘である順子を引き取って育てている)の言葉: (続氷点)
「ほうたいを巻いてやれないのなら、他人の傷にふれてはならない」
◇啓造の言葉: (続氷点)
「愛とは感情ではなく、意志である」
|