湊かなえ著 『 往復書簡 』





               
2012-10-25




   (作品は、湊かなえ著 『 往復書簡 』   幻冬舎による。)

            

 初出 「十年後の卒業文集」(「パピルス」Vol.27〜28)
      「二十年後の宿題」(「パピルス」Vol.29〜30)
      「十五年後の補習」(書き下ろし)

 本書 2010年(平成22年)9月刊行。

湊かなえ:
 
 
1973年広島県生まれ。 武庫川女子大学家政学部卒。 2005年第2回BS-i新人脚本賞で佳作入選。2007年第35回創作ラジオドラマ大賞を受賞。 同年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。
 

物語の展開図書館の紹介文より 

   高校卒業以来10年ぶりに放送部の同級生が集まった地元での結婚式。1人だけ欠けた千秋は行方不明。5年前の「事故」の真実を知りたい悦子は、事故現場にいた2人に手紙を送る…。書簡のみで綴られた連作ミステリ。

主な登場人物:

<十年後の卒業文集> 高校時代の放送部の同級生を巡る人間模様と事件の真相に迫る。手紙のやりとりから見えてくるものは・・・?
高倉悦子 卒業後東京の大学に進学、結婚して海外に。
谷口あずみ<アズ> 高校時代は一番悦子と一緒の時間長かった。
山崎静香 頭もいいし、器用。どちらかといえば全部補佐的役割が多かった。
千秋 5年前の夏のプチ同窓会後、松月山の願掛けのあとの下りで転んで顔を20針縫う怪我。浩一に別れのメッセージを残し行方不明に。事故か故意か、悦子が真相を究明するためアズ、静香との手紙のやりとりをするが・・・。
男子放送部メンバー

・浩一 10年後静香との結婚式に放送部のメンバーを招待。 ムードメーカーの浩一は高校時代、千秋との仲が認められていたのに・・・。
・良太 高校時代は悦子と付き合っていたが、卒業後は自然消滅。
・文哉 事件とかそういうの好き。

<二十年後の宿題> 定年退職をした小学校の教師が、20年前の事故に遭遇した生徒達の今の状況を会って調べて欲しいと・・・。
竹沢真智子 38年間の小学校教員で今年3月で定年退職。心残りは“あの事故”のこと。その時に遭遇した6人の生徒達の心の傷が残っていないか心配し、大場に会って欲しいと依頼する。
大場敦史

竹沢先生は小学2年生の時の担任で、その後もコンタクト。
今は地元の小学校の教師をしていて8年。

赤松山に落ち葉拾いに参加した六人の生徒達

・河合真穂 事件のあった当日の様子を語る。
・津田武之 参加したのは、当時は貧しく声を掛けられたピクニック計画と。川遊び組の事故発生の報告者。
・根元沙織 事故の現場を実際に見て竹沢先生の行動に不信感を抱く。
・古岡辰弥 仲直りピクニック計画は俺と利恵のせい、良隆が溺れ、先生のダンナが亡くなったのも俺のせいと。
・生田良隆 事故でおぼれかけて助かった生徒。
・藤井利恵 私のせいで先生のご主人亡くなった、自分は結婚なんかして幸せになっちゃいけないのではと悩んでいる。

<十五年後の補習> 国際ボランティアで海外に出た純一と、結婚を考えていた万里子とのやりとりで、15年前の事件の真相があきらかに。
永田純一

30歳を目前にして、万里子の誕生日に密かに計画していた国際ボランティアで2年間の赴任を伝える。
万里子とは中学生の頃からの付き合い。

谷口万里子 純一との結婚申し込みを期待していたが。15年前、友だちのいじめの仲裁に飛び込んだことをきっかけに、焼死事件が起き、その時の欠落した記憶のこともすっかり忘れてしまっていたのに・・・。
友だち

中学時代、純一とは家も近く二人とも仲が良かった。
・一樹 アウトドア派でクラスのリーダー的存在。
・康孝 華奢で本ばかり読んでいる。一樹を疎ましく思っている。


読後感:
 
 3篇の作品いずれも手紙のやりとりだけで物語を構成しているという、やや趣を異なる作品である。しかもミステリ仕立ての筋書きで、事件、事故の真相、そして心情を述べさせてより物事の本質に迫ろうとする。
 
 印象に深かったのは三篇ともよかったけれど、<十年後の卒業文集>が途中に謎めいたやりとりがあったけれど、最後にそれらが伏線となって意外な展開になっていて、やられたという感じ。

<十五年後の補習>ではお互い結婚を考えてもいい年頃なのに、国際ボランティアに2年間赴任することを決めた純一と、残って待つ万里子の、メールや携帯ではなく、手紙でやりとりする姿が手紙の良さを改めて考えさせられたりとほほえましかったが、その実、イジメとその背景にまつわる恐ろしいことが秘められていたなんて。
 数学と理科の教師として出向き、5x0=0を現地の人にどのように教えるか、その実際の問題として足し算と引き算だけで人生を考えられるとしてきた万里子が、純一とのやりとりで理解できることに。
 なかなかこの湊かなえという作家の問題提議はこちらの胸にぐさっと短刀を突き出すところがある。
 いずれの篇も、心理の綾が織りなす行き違いとか、表面上、見かけ上と本当の姿のギャップがありそれが深く関わっている点、よく考えないといけないと。

  

余談:

 最近は手紙なんていうのがほとんどが携帯とか、メールで済まされるなか、やはり手紙で自筆でペンなり毛筆で書かれたものを貰ったら嬉しいだろうなあと思う。
 そんなことを夢見つつ、せっせと毛筆の練習をこれからも続けていこうと改めて思った。

背景画は本書の裏表紙のイメージ画を利用。

                    

                          

戻る