湊かなえ著 『物語のおわり』








              2018-10-25

(作品は、湊かなえ著 『物語のおわり』    朝日新聞出版による。)
          
  初出 「小説トリッパー」2012年春季号〜2014年春季号に連載。
     
単行本化にあたり加筆修正。
  本書 2014年(平成26年)10月刊行。

 湊かなえ:
(本書より)
 
 1973年広島県生まれ。2007年、第29回小説推理新人賞を「殉職者」で受賞。08年受賞作を収録する「告白」を刊行。同作が08年週刊文春ミステリーベスト10第1位。第6回本屋大賞を受賞する。12年「望郷、海の星」で第65回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。その他の著書に「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「白ゆき姫殺人事件」「母性」「望郷」「高校入試」「豆の上で眠る」「山女日記」がある。     

主な登場人物:

『空の彼方』
絵美<わたし> 深い山間の盆地小さな町のパン屋の娘。ハムさんに読んでもらいたくて小説を書く。未完の作品「空の彼方」の行く末が次々と人の手に渡って、渡された人は・・・?
小野道代 絵美の同級生の一人。推理作家の松木流星宅にお手伝い兼弟子入り。絵美の小説を見せ、絵美を弟子として招き入れたいと伝えてくる。
ハムさん パン屋の常連客の中の一人。絵美のレジのミスをきっかけに親しく、結婚の約束まで。
『過去へ未来へ』
智子<わたし> 結婚して2年、お腹の中には赤ん坊、35歳。父と同じ直腸がんを宣告されたが、お腹の中にはすでに新しい命が。フェリーで先に北海道へ。
隆一(りゅういち) 夫、建設会社に勤める、38歳。北海道で落ち合うことに。
萌ちゃん 日本海つばさフェリーで知り会った中学生くらいの女の子。智子は萌ちゃんから、松下流星の話の流れで、姉からもらったという「空の彼方」の小説を渡される。
『花咲く丘』
柏木拓真<僕> カメラマンの夢を諦め、夢との決別のため北海道を訪れる。そこで身重の女性と出会い、車に乗せ写真を撮る手伝いを。別れる際美瑛の駅で紙袋を渡される。
智子 身重の体で夫との落ち合う間に写真を。
『ワインディング・ロード』
芝田綾子<わたし> 書くことを諦め、テレビ番組の制作会社に内定。大学生最後の夏北海道を自転車で。剛生と付き合っていたが、生き方に差が認められ別れる。22歳。
清水剛生(たけお) 本気で作家を目指している。白樺文学賞を通過せずに作家になる何の価値もないと。
柏木拓真 綾子は、北海道で拓真に出会い「空の彼方」の原稿を渡される。
『時を超えて』

木水 <俺>
娘 美湖

相棒のスズキのKATANA(オンロードタイプ)で霧の摩周湖で芝田綾子と出会う。
・娘の美湖は短大卒業後アメリカに行って特殊造形を学びたいと。そんな娘に俺は手を上げた。
芝田綾子 自転車に乗った女の子。
『湖上の花火』
あかね 証券会社の営業。札幌での恩師を囲む会に出席、一泊余分に休みを取り洞爺湖のホテルに、42歳。木水からメッセージと「空の彼方」という預かり物が届く。
椚田修(くぬきだおさむ) あかねが大学3年の時バイクでシナリオハンティングの彼と出会い遠距離恋愛に。
木水 バイクで盆休み利用して湖巡りの男性。既婚者。
『街の灯り』
大学時代の仲間たち

北海道の大学の4年間、「清風荘」で同じ釜の飯を食った仲間。清原の退職記念パーティーで再会。
・私 佐伯 高校の非常勤講師。
・松木敏郎 二度結婚、不動産屋経営。今は相談役。
・千川守 大手文房具メーカーに就職。
・清原征四郎 経済学部の教授を定年退職。清原の伯父は東京の出版社勤務。

私=佐伯
妻 
息子夫婦

息子夫婦との二世帯住宅に。清原から、教え子から預かったと短編小説を受け取る。
・妻はパン屋を経営。”すずらん君”と渾名。
・息子夫婦と娘
秀樹 船乗りひと月に片手で数えられるほどしか帰ってこない。
亜紀さん 妻の店で働いている。
娘 萌 中学2年生。いじめに加わってはいないが、不登校に。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 妊娠3か月で癌が発覚した智子、プロカメラマンになる夢をあきらめようとする拓真…。人生の岐路に立たされた人々が北海道へ。そこで手渡された紙の束。「未完の物語」を手にした時、新たな人生の歯車が動き出す。     

読後感:

「空の彼方」で設定された完結していない短編小説を巡り、続く章ではその小説をつなぎとして登場人物がつないでいく連作ものとなっている。そしてそれぞれのシチュエーションで未完部分の結末を自分なりに見定め自分の生き方を決めていく。

<過去へ未来へ>では身重の智子が夫の隆一と北海道で落ち合う約束で、小さい時に家族でフェリーで北海道に向かった思い出をなぞるように向かう。船上での中学生らしき女の子との会話の流れでその短編小説を渡される。小説の中の絵美の決断する際、父親と同じ大腸がんを宣告された自分の状態を考えた時、もしこんな状態であったらと考える中、生みたい、そしてこの子の成長ぶりをみたい、生きたい、死にたくないと決断する。

<過去へ未来へ>に出てきた萌ちゃん、なんとなく意味深な様子であったが、<街の灯り>で再び登場してきた。そして<空の彼方>の絵美とハムさんのその後もそうだったのかと。

<街の灯り>から、<旅路の果て>では、<空の彼方>の結末が明らかに。そして孫の萌を介して萌の不登校の理由、その対処の方向を暗示している。
 その間に挿入されていたいくつかの章は読者に色んな考え方を提起しているようだ。
 

余談:

 物語の中に出てくる北海道の様子は、初めて北海道ツアーに参加した時の情景を再現しているようで懐かしくそして実際にその場にいるがごとくに思え、楽しめた。
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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