湊かなえ著 『高校入試』
 



 

              2016-05-25



(作品は、湊かなえ著 『高校入試』   角川書店による。)

           
 

 
 本書 2013年(平成25年)6月刊行。
    2013年1月に刊行された「高校入試 シナリオ」を元にした書き下ろし。

 湊かなえ(本書より)

1973年広島県生まれ。2007年に「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を収録した「告白」でデビュー。12年「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。その他の著書に「少女」「贖罪」「花の鎖」「境遇」「サファイア」「白ゆき姫殺人事件」「母性」「望郷」などがある。

主な登場人物:


<県立橘第一高等学校の教師たち>

管理職

・校長 的場一郎
・教頭 上条勝

一般教員(英語以外)

・荻野正夫(情報処理) 一高の今年の入試部長。
・相田清孝(体育) 滝本みどりと付き合っている。春山杏子と同い年。
・滝本みどり(音楽)春山杏子と同い年。
・宮下輝明(美術)15歳年下のかみさん。
・水野文昭(社会)天下の東大卒。一高OB。
・村井祐志(数学)契約職員。採用試験準備中。一高OB。

一般教員(英語担当)

・坂本多恵子 教科主任、生徒指導部長。
・松島崇史
(たかし)村井の担任だった。的場校長に数学の常勤講師として村井を紹介。
・小西俊也  春山杏子の指導教官。三年生の担任。有名私立高校の清煌学院卒。
春山杏子
(きょうこ) 二年B組担当。帰国子女。旅行代理店に就職この県に。教員採用試験合格の初年度。

沢村幸造 同窓会会長。なにかと因縁をつけてねじ込んでくる。
芝田昌子 夫は県議。娘の麻美が一高を受験する。携帯で娘にメールを送りトラブルを引き起こす。
<一高受験生> 試験会場2で受験(水野(責任者)、春山、村井担当)

田辺淳一
兄 光一

弟の淳一は兄の様子を見ていて・・・。
兄の光一は4年前一高を受験、合格の自信があったのに落ち、失意の中私立の楢沢学園に。放送部に入りドキュメンタリー番組で賞を取る。
両親は不仲になり、母は家出、父親も家に帰ること少なく。

芝田麻美 携帯命と、試験時携帯を潜ませたまま受験。途中で鳴り出し失格に発展する大騒ぎとなる・・・?。
松島良隆 松島崇志(英語の教師)の子ども。

沢村翔太
兄 哲也

沢村同窓会会長の子ども。
石川衣里奈

二年B組、春山杏子の担任のクラス。バレー部のマネージャー。
相田清孝(キヨタン 体育教師)といい仲。

寺島俊章(としあき) 熱血教師。修学旅行の時当時大洋ツーリストの春山杏子と初めて出会い、春山杏子と付き合う。
徳原優介 大洋ツーリストの社員。春山杏子の同僚であった。寺島の後輩。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

名門橘第一高校の入試前日、教室の黒板に「入試をぶっつぶす」の貼り紙が見つかり、入試当日、振り回される学校側と思惑を抱えた受験生。謎に充ちた長い1日が始まった…。湊かなえ渾身の書き下ろしミステリ長編。

読後感
  

県で有名な一高の高校入試の当日に起こる”入試をぶっつぶす”という貼り紙に職員一同の受け取り方はまちまち。いよいよ試験が始まり、午前の3科目は何事もなく終了したが、待機組の滝本みどり先生がネットの掲示板を見つけ「なにこれ?」。午後に入りトラブルが次々と発生し混乱状態に発展する。

 めまぐるしく語り手が変わり、12名の先生方の名前、受験生、保護者の名前と位置づけを理解するのに手間取る。主な登場人物の表と関係は別図に掲げられていて理解を助けられるも、上下関係や、経歴など頭の中に入るまで覚え書きのメモ書きがいつにもまして増えていく。
 それにしてもなかなかの緊迫感といい、展開に引き込まれていく。

 主人公は果たして春山杏子なる帰国子女なのか?人物相関図で大きく記されているのでそう思うが・・・。
 現実に教師たちの実態はこんな風に出世を目指したり、ねたみを持ってたり、過去の出身校にこだわったりとしているのだろうか。入試の試験の時のちょっとドジぶりは信じがたいけれど・・。

 ネットに流される入試の実況中継は明らかに関係する教師たちの中犯人がいるのだろうが、それが誰れなのか?第10章の”サクラチル”まで一気に謎のままなだれ込んでいく。湊かなえ作品の渾身の作とも思える。
 校長の何となく達観したような態度も気になるところ。萩野先生と松島先生この二人がツートップ。少しあいだがあいた三位が水野先生かなと滝本みどりが評価する先生方。対応の会話を聞いていると小西先生、宮下先生もいいかなとも。今年管理職試験を受ける坂本先生、松島先生、水野先生の言動も注目。

 春山杏子先生は教職について初年度と言うことで見方も新鮮、活動も溌剌としていて好ましいし、皆に愛されている様子でやはり主人公かな。
 でも果たしてこの結末にどう関わっているのやら。

 

  

余談:

 読んでいる内に宮部みゆきの「ソロモンの偽証」の印象を抱いていた。内容的には異なるが雰囲気が何となく似ている感じを受けたのは自分だけだろうか。
 高校入試が教師たちにとって1年に一度の行事かもしれないが、一方で受験生にとっては人生の行方を大きく左右するものであることを改めて考えさせられる。最近のニュースに見る採点ミスのこと、希望すれば編入を認めるなんて言っているが、そんなもんじゃあすまないことだろう。 

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

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