物語の展開:
ある中学校で担任の先生の4歳の娘が学校のプールに浮かんで死んでいた。警察では事故死と判断されたが、担任の教師の追求と告白、関係した二人の中学生の行動と、その後のクラスの成り行き、家庭の様子などを世の中の風潮と批判共々織り交ぜ、各章で告白者が代わりながらことの真相を推理小説風に展開していく。
主な登場人物:
森口悠子 |
1年B組の担任。 中学教師になって八年、シングルマザーで愛美(まなみ)4歳をなくす。 父親はHIV感染者の「世直しやんちゃ先生」、結局結婚はせず。あの事件の真相を終業式の日生徒達に話し辞職する。しかも恐ろしいことをたくらんで・・・。 |
寺田良輝
(通称 ウェルテル)
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森口悠子の後任できた新人教師。 2年B組の担任。 先入観を持たないためと森口先生の調書に目を通さず、登校拒否の下村直樹のことは自分に任せなさいと母親にいい、その行動が思いがけない結果に発展していく。 |
渡辺修哉 |
1年B組、2年B組の生徒。 優等生、蔭で一目置かれる存在。 ニューマシンの開発に没頭、頭はよい。 みんなは馬鹿だとさげすみ友達は少なく、自らが遠ざけている感じ。 離婚した頭のいい母親に対し、自分の方を振り向かせたくて仕方がない。 |
下村直樹 |
1年B組、2年B組の生徒。 人なつっこい生徒。 あの事件後、修哉への対抗心と、森口教師の復讐に死ぬ恐怖で、2年になって登校せず、家に引きこもり、次第に変容していく。 |
北原美月 |
1年B組の委員長、直樹の家の近くに住む。 直樹に好意を持っていた。ウェルテルの行為に対し反感を抱いているところあり。 |
読後感:
最初の書き出しから少し面食らう。 今までの小説と違うのである。 会話の形でなく、一人語りで相手の言葉だけが「」で挿入されている。 しかも生徒達に向かってしゃべっているのである。
章の中での主人公(語り手)は章によって語る立場の人が異なり、違った切り口で話はつながっていく。この手法は見方がそれぞれの立場で異なり、奥行きを膨らませることになる。 また、その主人公が誰であるのかすぐには分からない章があるのも意図してのことか?
話の内容は非常に難しいものを含んでいて、果たしてどのような解決方法があるのか悩んでしまうものであり、現実問題としてあり得ることであることがぞっとして背筋が寒くなる内容でもある。 そう思っていたのは聖職者、殉教者、慈愛者のところまで、その後の当人の告白では事件を起こした背景と共に、ずいぶん恐ろしいことが暴露されてくる。 こんな教師がいていいのか?
著者のデビュー作であることもとても興味深い。
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