湊かなえ著  『 望郷 』





                 
2013-09-25


作品は、湊かなえ著 『 望郷 』   文藝春秋による。

           

初出 みかんの花 「オール・スイリ」平成22年12月刊行「望郷、白綱島」を改題。
   海の星  「オール読物」平成23年4月号「望郷、海の星」を改題。
   夢の国  「オール・スイリ2012」平成23年12月刊行「望郷、夢の国」を改題。
   雲の糸  「オール読物」平成24年1月号 「望郷、雲の糸」を改題。
   石の十字架 「オール読物」平成24年5月号 「望郷、石の十字架」を改題。
   光の航路  「オール読物」平成24年10月号「望郷、光の航路」を改題。

本書 2013年(平成25年)1月刊行。

湊かなえ:
 
 1973年広島県生まれ。2007年「聖職者」で第29回小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を収録した「告白」でデビュー。この作品が2009年の本屋大賞に輝き、映画化を経て、累計300万部の大ヒットに。2012年、「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。著書に「少女」「贖罪」「境遇」「サファイア」「白ゆき姫殺人事件」「母性」など。
 

物語の概要  

愛すること、憎むこと、赦すこと、そして闘うこと…。島に生まれ育った人々の、島を愛し島を憎む、複雑な心模様が生み出す様々な事件。日本推理作家協会賞短編部門受賞作「海の星」ほか傑作全6編。

主な登場人物:

舞台は瀬戸内海の白網島。30年前本土と島を繋ぐ橋が出来る。
◇みかんの花 姉が島を出て行った本当の理由。

わたし

(わたしと3つ年上)

父は町役場勤務であったが、交通事故でなくなる。
母はミカン畑の世話をしていたが、認知症に。
姉は高校卒業前、イジメにあい男と駆け落ちし島を出て行った。作家になりデビュー20周年。25年間音沙汰ナシであったが、白網島市の閉幕式に出席のため帰ってきた。

宮下邦和 姉に2回も振られ、今は別の女性と結婚。
◇海の星 失踪した父の真相。

わたし(浜崎洋平)

息子 太一(小1)

小6の時、父は夕食後タバコを買いにと家を出て帰らず。
島での生活は母と二人の貧乏暮らし、父の捜索ポスターを電柱に貼る。真野美咲から父のことで話したいことがあると。

真野美咲
父 

わたしとは高校時代、島での同級生。
父親は漁師。

◇夢の国 東京ドリームランドに行くことを夢見ていたのが実現、はたして‘自由’は手に入った?

私(夢都子)
夫 平川
娘 奈波
(7歳)

子供の頃はおばあちゃん(「屋敷の奥さま」)が許してくれなくて夢の東京ディズニーランドに行けなかった。
祖母が亡くなったが、身体の弱い平川の母親の面倒を・・・。

父方の祖母 田山

「屋敷の奥さま」と呼ばれる昔気質の権力を持つ。
私の父親は実権を持たない跡取り息子。母と私は使用人に過ぎず。

◇雲の糸 島にいた時は皆から仕打ちを受けていたのに、有名になったら皆が手を差し伸べ出来る限りの援助をしたという。

黒崎ヒロタカ
(本名 磯貝宏高)
母 

今最も注目される若手アーティスト。白網島出身。人殺しの息子と言われ、島を出て努力して今日を築く。母親を人質に取られていると感じていたが・・・。
父をあやめた母は出所後、港フェリーの清掃員として働いている。

的場裕也 宏高と同級性。家は鉄工所を経営、来月創業50周年を迎え、記念パーティーを計画、黒崎ヒロタカを特別ゲストとして招待。
◇石の十字架 台風で浸水し家に閉じこめられた時、娘の志穂に昔話を聞かせる。救助されたのは親友(?)のおかげ。

千晶
娘 志穂

小学校5年生の時白網島に転校してくる。70数年ぶりの台風の夜、川が氾濫し家に閉じこめられる。
吉本めぐみ

小学校時、クラスでなじめなかっためぐみと友達に。ふたりで白網山登山で石に彫られた十字架を見つける。
なにか秘密を抱えているめぐみに放った言葉がナイフに・・・。

◇光の航路 イジメに対する親の反発にどう向かう?
大崎航(わたる)

小学校の教師。5年間F市での勤務から、昨年生まれ故郷のに白網島赴任。イジメの加害者の母親の反発に悩んでいる。
父親は10歳の時に亡くなったが、中学校の教師。

畑野忠彦 航の父の大崎先生の教え子。心から尊敬しているそのわけは・・・。


読後感:

 瀬戸内海の白網島に関わりのある人々の悲しくもあり、深刻であったり、憎しみであったり、どちらとも責められない物語であったりとそれぞれう〜んとうなりたくなるような短編作品である。
 島というところが外の世界と孤立していることで住みよい所と感じたり、外に出て行きたいと感じたり、それぞれの事情で思うところがあろう。

 なかでも「海の星」と「みかんの花」が特に印象的である。
「海の星」は父親の失踪、残された家族は貧しい生活を続けながらも、父親が帰ってくるのを待ちわびる。知らないおっさんが何かと支えに。そして同級の真野美咲が話があると告げる話がやるせない。

「みかんの花」は島を出て行った姉、認知症の母親の行為。二人の間の秘密がやるせない。本の表題が「望郷」とあるが、そう、特にこういう白網島のような所を故郷に持つとなおさら「望郷」と言う言葉の持つ雰囲気が醸し出す寂寥感に胸を打たれる。
「光の航路」もイジメに関する対応としてのひとつの光りになればと。


  

余談:
 
 
舞台が同じ瀬戸内海の一つの島“白網島”という共通項で短編を綴ったという作品。なにかこういう短編作品を書いてみたいなあと思わせてくれる作品だった。時に今年の芥川賞、直木賞の発表があり、なおさらそんな気を起こさせた。出来ればいいなあ。
 

背景画は本書のカバー表紙を利用して。

                    

                          

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