湊かなえ著 『母性』



                  
2013-06-25



(作品は、湊かなえ 『母性』 新潮社による。)


             

 
 本書 2012年(平成24年)10月刊行。 書き下ろし作品

 湊かなえ:(本書より)

 1973年広島県生まれ。2007年に「聖職者」で小説推理新人賞を受賞。翌年、同作を収録した「告白」でデビュー。この作品が2009年の本屋大賞に輝き、映画化を経て、累計300万部の大ヒットに。2012年、「望郷、海の星」で日本推理作家協会賞短編部門を受賞。著書に「少女」「贖罪」「境遇」「サファイア」など。

主な登場人物:

母 (私)
夫 田所哲史
(サトシ)
娘 清佳
(サヤカ)
(わたし)
おばあちゃん
(私の母)

短大卒、Y市に戻り繊維会社に勤務。絵画教室で田所と知り合い結婚。娘を生み、田所家で用意された高台の家に住む。(私の)母に愛されて育ち、大好きな母。私は子供にもその愛を与えようと・・・。
台風の夜の不幸で(私の)母は亡くなり、田所の屋敷で住むことに。

田所家の人達
義父
義母
息子 哲史
妹 憲子
  子供 英紀
(4歳)
妹 律子

厳格な父親、暴力を振るう父親に殴られて育つ哲史は、心の奥にしまい込んで絵には暗い色が。母(私)との結婚で色を見出し赤い薔薇の絵を描く。義父と義母の口論は絶えず、義母は母親(私)に対し小間使いのように扱う。
娘(清佳
わたし)は母(私)を庇うため義母にも激しく対峙する。母の愛を得たく願うも、母親は理解してくれていない。

佐々木仁美(ヒトミ) 東京の女子大卒で役場に勤務。田所と同級生で、私に「絶対に苦労するから結婚はやめておいた方がよい(偏屈なお父さんと口うるさいお母さんがいるから、あなたみたいなお嬢さんは気がおかしくなるに決まっていると)」と忠告。

中谷亨(トオル)
妹 春菜
(2つ年下)

高一の時にわたしの付き合っている男性。わたしのことを「おまえの言っていることは正しいけど、情がない。遊びのない人間」と。

中峰敏子
姉 彰子

自分も子供を失ったことがあるおおらかで優しいひと。婦人会の手芸教室に私を誘ってくれる。
姉の彰子は姓名判断をし、私のことを“純潔と情熱を併せ持つ赤い薔薇のような人”、夫のことは“深い湖のような人”、娘(わたし)のことは“燃えたぎる炎のような人”と評する。


物語の概要:
 図書館の紹介より

母と娘。2種類の女性。美しい家。暗闇の中で求めていた無償の愛、温もり。ないけれどある、あるけれどない。私は母の分身なのだから。母の願いだったから…。それをめぐる母の記録と娘の記憶、あるいは探索の物語。

読後感: 

 市内の県立高校に通う女子生徒(17)が県営住宅の自宅の4階から転落しているのが見つかる。担任教師と先輩の国語の教師のやりとり、そして母親の神父に対する手記による真相の描写、さらに娘(女子高生)の回想の3本柱で、各章の描写がなされていく。

 ちょっと気になるのは、母性の章での女子高生は、母の手記、娘の回想の章での娘なのか? 同じようでもあり、違うようでもあり。

 しかし中にあるのは母親と子どもの愛の形、母性とは何か、親は自分の母親から受けた愛情を存分に受けて仕合わせであったこと、それを自分の子どもにも与えたかったが、子どもに与える前に、自分の母親が不幸な事故でなくなる時の自分の行った行為が、子どもにどのように伝わったのか、果たして大事な母親とそれに対して子どもをどのように感じていたのか。
 
 そしてまた、母性というのは全ての女性に備わっているものなのか、自分が愛されることの方を、子供に与えるよりもより求めている人間であったのか。しかしあれだけひどく扱われていた義母が年を負い、夫にも、子供達にも去られて、頼るのは嫁だけと判った時に母親はどうするのか。
 
 母親の側から、娘の側から展開する描写を通して思うのは、子供は母親の愛情を切望しているのに、理解してもらえない、母親は子供にこうあって欲しいと望んでいるのに、逆の結果を引き起こしてしまう。そして父親への期待に父親が応えないこと。
 やはり家族の中のコミュニケーション、本音で話し合っていたらもう少し違った展開になっていたのではと感じてしまう作品であった。

   


余談:
 
“無償の愛”ということ、親と子の間、家族の間、このことを改めて考えてしまう。親として子供には愛情一杯に育ててやらないと・・。子供はそれを感じて真っ直ぐに生きられるのだ。今の世の中、こんなでいいのか? 

       背景画は作品の中に出てくる、田所家に同居する前の幸せであった高台の家をイメージして。                        

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