水上 勉著 『山の暮れに』



                  
2012-08-25



(作品は、新編水上勉全集第15巻 山の暮れに 中央公論社による。)


            

 初出 1989年2月から1989年12月「毎日新聞」朝刊。
    1990年5月毎日新聞社刊。
 本書 1996年(平成8年)11月刊行。

 水上勉:(ネット情報より)(本名みずかみ、ペンネーム みなかみ)

 1919年(大正8年)福井県生まれ、立命館大学国文科中退。
 少年時代に禅寺の侍者を体験する。戦後、宇野浩二に師事する。
1959(昭和34)年『霧と影』を発表し本格的な作家活動に入る。1960年『海の牙』で探偵作家クラブ賞、1961年『雁の寺』で直木賞、1971年『宇野浩二伝』で菊池寛賞、1975年『一休』で谷崎賞、1977年『寺泊』で川端賞、1983年『良寛』で毎日芸術賞を受賞する。『金閣炎上』『ブンナよ、木からおりてこい』『土を喰う日々』など著書多数。

主な登場人物:

藤堂伊作
(父親 久助)
(兄  藤作)
(妻  時枝)
長女 雪江
   息子 達之
次女 松江
長男 誠市

14歳で京都に丁稚奉公に、その後生命保険の勧誘員を務め、69歳でひとり若狭のカナゴダニに戻って田舎暮らしを始める。妻の時枝には3年前に先立たれる。
父親は木挽き職人であった。兄はフィリピンで戦死。
雪江は離婚し、枚方に息子の達之と暮らしている。
松江は未婚を通すつもりで京都にいる。
誠市は岐阜で、3児をもうけ自動車の販売会社に勤務。

金何平(キムハピョン)
城戸瀧子

伊作の隣に住む在日韓国人。戦後返る所がなく若狭に住み着き、戦争未亡人の城戸瀧子の求めに応じて農作業を手伝い、瀧子と仲むつまじく暮らす。

真田信夫
栗林律子(50歳位)
黒井カズコ(30代)

京都修学院の陶芸家。伊作の赤土を待つ陶芸家がふえた。
栗林律子:真田が指導している陶芸教室のメンバー。
黒井カズコ:伊作の所から出る赤い土を使っての陶芸に打ち込むため伊作の元に通うことに。


物語の概要:
 図書館の紹介より

自然や動物との共存を断ち切って自らの繁栄のみを追い求めてきた人間たち。若狭で土を掘る老人と孫の交流を通して、いま一番大切なものは何かを問いかける長篇小説。
 いつのまにか姿を消した亀や蛍。失ってきた美しいものの象徴ともいえる生きものたち。その復活に情熱を傾ける老人の姿に強い明日への希望を託した根源的な愛の物語。

読後感:

 69歳で故郷の若狭に返ってきて、残りの人生をひとり赤土掘りをする。この地に溝川を引き、亀やフナの住む池を作るのを夢見る。孫の達也と交流しながら、自然の大切さを語っていく伊作の姿は、昔の小さい頃の自然環境を思い出させるに十分である。

 そういえば昔小さい頃、住んでいた西宮は、綺麗な川が流れ、田圃にも小さな生き物が沢山いたなあとなつかしさが甦ってくる。
 そして語られている今の姿(今と比べて20数年ほど前)が、ちっとも変わらずに、植林の問題、山の動物が里に出てきて危害を加えること、渡り鳥が少なくなっていることなど。
 そしてその当時若狭に原発の3号、4号の増設で人口以上の人たちが働きに来ていて、賑わっていた時代を映しているのがなんとも皮肉なことである。
 作品の中では随所に自然を大切にすることの必要性、そして人の生き方を示唆する表現が出ていて著者の主張が共感を呼ぶ。

印象に残った所:

 越後の良寛さんの言葉:

「災難にあうときは災難にあうがよい、死ぬるときは、死ぬがよく、これは災難をのがるる妙法にて候」・・・
「とにもかくにも、風変わりなお方で、坊さまでありながら寺に住むのさえきらわれて、山の中腹の破れ屋にひとり住いして、天気がつづけば、鉢をもって麓の農家の門に立って米を乞い、鉢がいっぱいになると、子供らとかくれんぼしたり、手鞠つきをしたりしてあそび暮らしてなさった。・・・七十をこえて病気にかかられて、山の庵を出て素封家の木小舎にうつりなさったが、ある日、越後の長岡に大地震があって、たくさんの人が死に、家が焼けた。財産を失って呆然と立ちつくす人々を見て、友人に出した手紙の中で、そのようなことを書かれたんです。災難にあうときにはあうがよい、病気にかかるときははかかるがよい、死ぬときは死ぬがよい、そう思い決めていることが、災難や病気や死をのがれる妙法だといわれた。」

   


余談:
 作家水上勉作品を読みたくなった。というのも新聞を見ていて子供達への読書の勧めのようなことで「越前竹人形」の寸評が載っていた。そこで文字が大きくて読みやすいものを探していたら、この新編水上勉全集があり、手に取った。このあと、第1巻「その橋まで」、第八巻「父と子」を読んでいこうと思っている。

 

       背景画は作品の中に出てくる女郎蜘蛛の巣をイメージして。                        

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