皆川博子著 『双頭のバビロン』






 

              2012-08-25

 (作品は、皆川博子著 『双頭のバビロン』  東京創元社による。)

              
  

  初出 ミステリーズVol.30(2008.8)からVol.43(2010.10)
 本書 2012年(平成23年)4月刊行。
 

 皆川博子:

1930年京城生まれ。東京女子大学外国科中退。72年、児童文学長編「海と十字架」でデビュー。ミステリーから幻想小説、時代小説など幅広いジャンルにわたり活躍を続ける。

73年「アルカディアの夏」で第20回小説現代新人賞を受賞。85年「壁・旅芝居殺人事件」で第38回日本推理作家協会賞長編賞、86年「恋紅」で第95回直木賞、90年「薔薇忌」で第3回柴田錬三郎賞、98年「死の泉」で第32回吉川英治文学賞をそれぞれ受賞。

  

主な登場人物:


グリースバッハ家 母方のオーストリアの貴族の家柄のユダヤ人。帝王切開で生まれた私たち(ゲオルクとユリアン)は癒着の双生児であったが、4歳の時手術で切り離され、ゲオルクは存在する者、ユリアンは存在しない者としてはなされる。ゲオルクはグリースバッハ家に養子として迎えられ、一方ユリアンはヴァルターによって閉ざされた城壁の中で教育され育つ。
◇ゲオルク側

ゲオルク・グリースバッハ
(私)

20歳の時、ある女性を巡る決闘でグリースバッハ家から放逐され、ブルーノの紹介で新大陸に活路を開くべくニューヨークに渡る。ハリウッドで脚本、監督で名声を馳せる。
「双頭のバビロン」の脚本を手がける。

ブルーノ グリースバッハ家で娘達に乗馬を教えていた。末娘のドリスと結婚、息子にグリースバッハ家の跡目を継がせるため養子のゲオルクを廃嫡して放逐を計画。
エーゴン・リーヴェン ゲオルクが自伝を著すため口述筆記者として採用、他に色々才能があるため、チーフ助監督に。上海で生まれ、物心ついてボヘミアに。私生児。
プラネット(映画会社)

ハリウッドでは一流会社のパラマウントに追いつこうと二流の映画会社。
・ケネス・ギルバート 制作部総支配人、宣伝の大家。
・メイベル・ロウ 重役陣で唯一の女性。脚本家兼フィルム編集者。ファイナル・カットの権限を持つ。

パウル・ツェレ
アデーラ

旧大陸から新大陸に。アデーラと結婚(当時17歳と15歳)、メイベル・ロウに見出される。
◇ユリアン側
ユリアン(私)

ヴァルターに従い、ボヘミアの<芸術家の家>でツヴェンゲルと共に厳しい躾と教育を施される。
ユリアンにはヴァルターとツヴェンゲルが支え。
<芸術家の家>:狂人を収容する院。

ヴァルター・クッシュ 父親が創始の<芸術家の家>を引き継ぐ。ヴァルタ家はボヘミアの貴族。特殊な双子の一人であったユリアンの精神感応、自動書記の能力開発に関心。ユリアンの支え人。
ツヴェンゲル

グイド・マン神父と暮らすユリアンとは1つ年下の男。小人と天使の間に生まれたという謎に包まれた人物。
ユリアンとの深い繋がりがあるものの・・・。

ウォーレン・アンドリュース ハリウッドの映画監督。ゲオルクがエキストラの初仕事で監督に意識とめられ、端役プラス助監督に。その後も手助けを受けることに。
上海での登場人物

・杜月笙 南京政府陸海空軍少将参議。巨大な暗黒組織青幇の頭目 黄金栄のナンバーツウ。
・呉 上海の映画会社の副支配人、華人。
・ドナルド・マクヒュー アメリカ領事館の書記官

(補足)状況を把握するために年代を掲げておく。
・1892年 ゲオルクとユリアン癒着の双生児として生まれる。
       4歳の時二人は分離され、ゲオルクは存在、ユリアンは非存としてヴァルター先生の<芸術の家>に隔離された状態で育てられる。
・1912年−1914年 欧州の大戦。
・1912年の時、ゲオルクが新大陸に渡る。

物語の概要:図書館の紹介より

 上海とハリウッド。東西の頽廃都市を盤面とした光と影の双生児を巡る、複雑怪奇な運命の遊戯…。万華鏡の如き光彩を放つミステリ巨編。あらゆる小説の頂点を極めた女王のすべてがここにある。

 
読後感
 

 まさにミステリアスな小説である。そしてなかなか取っつきにくい感のある作品である。「冬の旅人」を読んで全体としておもしろみを抱いたことがあったので、この作家の作品に期待を持っていたので読み進むことが出来た。

 癒着の双生児であったこと、映画界の話題がストーリーの根幹をなしていることなどでいまいちなじめなかった。
 さらに、私が章の中で誰なのかよく分からなかった(癒着双生児の内、ゲオルクが表としてのゲオルクと、人目のつかない存在として育てられた裏としてのユリアンのふたり)ことで困惑してしまったが、その辺の事情が分かって次第に内容が理解できるようになった。

 映画作りのエピソードなどが語られ、やがて本の題の「双頭のバビロン」が出てくるようになり・・・
 さらに年代の感覚に混迷の感があり、1892年に誕生したことから描写される年齢を押さえておかないと話が先にあって、後で当時の詳細が判るような展開が多々出てくるため非常に戸惑ってしまう。さらに先に出てきたことが嘘だったりするものだから、益々ミステリー!って感じである。
 語られる内容には歴史事象としても興味のあることもあり、なかなか複雑な印象の作品である。
 ラストの上海でのいざこざの後、主役達の結末はこれまたミステリアスな展開で幕を閉じた。

 映画作りのことに関しては「タイタニック」の諸々、映画の挙行面からの思惑側と映画の作り手側の要求とのギャップ、延々と取り集めたフィルムの内仕上がりで切りつめられて出来上がった作品は監督の思いとは別の、挙行上の判断で仕上がってしまう状況、そのあたりは表現されている通りと思われる。
 でも長らく映画に関心のなくなっている自分にとっては遠い世界の話のようで・・・

 

余談:

 この作品を理解するにはあらかじめ人物の相関図を理解し、ある程度のストーリーを理解してから読んだ方がおもしろいミステリーではないだろうかとさえ思った。でもどんな風になるのかはやっぱり記述できなかった。皆川博子作家生活40周年の記念出版というこで力の入った作品であることは違いないが、ちょっと一般受けする作品かな?と思ったりしている。

 

 背景画は、本書の装丁フォトを利用して。

                    

                          

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