三上延 『江ノ島西浦写真館』



              2019-12-25


(作品は、三上延著 『江ノ島西浦写真館』    光文社による。)
                  
          

 初出  第一話のみ「ジャーロ」54号掲載。
     第二話、第三話、第四話、エピローグは書き下ろし。

 本書 2015年(平成27年)12月刊行。

 三上延:
(本書による)  

 1971年生まれ。神奈川県出身。古書店勤務を経て、「ダーク・バイオレッツ」で第8回電撃小説大賞第3次選考を通過し、2002年に同作でデビュー。2011年に発表した、古書にまつわる謎を解いていくビブリオミステリ「ビブリオ古書道の事件手帳」がベストセラーになる。主な著書に「シャドウテイカー」シリーズ、「偽りのドラグーン」シリーズ、「ビブリア古書道の事件手帳」シリーズなど。本作が初の単行本となる。

主な登場人物:

[江ノ島西浦写真館]関係者
桂木繭(かつらぎ・まゆ) 大学を出て就職。
桂木奈々美 繭の母親。小説家で横浜のタワーマンションを仕事場に。
西浦富士子 繭の祖母。100年続く「江ノ島西浦写真館」の最後の館主。江ノ島で生まれここから離れたことなし。去年の秋亡くなり、繭が遺品の整理を手伝うことに。
滋田(しげた) 富士子から「江ノ島西浦写真館」の建物を管理や世話を頼まれ、二階に住む。日中はすぐそこの旅館で働く。
白い猫 西浦写真館で祖母が飼っていたらしい猫、名前は<ルナ>。飼い主以外なつかない。
[第一話]

真島秋孝
 (まじま・あきたか)
祖父 昌和
(まさかず)
祖母

医大生、繭より1つ年上。江ノ島にある別荘に数日前から祖母と滞在。祖父の注文した写真を受け取りたかったが閉館で途方に暮れていた。遺品の手伝い申し出る。
・祖父昌和 半年前他界。
・祖母 かなり進行している認知症。昔この写真館で働いていた。
 孫の秋孝を夫の昌和と認識している。

[第二話]
高坂秋穂(こうさか) 繭の大学の同じ写真学科の先輩。仲良しだったが、4年前にある事件をきっかけに縁を切った。
永野瑠衣(ながの・るい) 宗教団体が管理する離島生まれで、世間と隔絶された生活を送ってきた彼。かけ離れた容姿で芸能人に。繭の幼馴染み。しかし繭の撮った写真が元で彼の人生を狂わしてしまい消息を絶つ。
[第三話]

立川研司
妻 陽子

江ノ島仲見世通りで土産物屋を経営。
・陽子 5年前結婚、研司の6歳年上。研司からの結婚指輪は、西浦写真館にあった銀塊を叔父の修と研司がだまって借用してのものだった。

(おさむ) 研司の叔父(父親の弟)。西浦写真館で働いていたことがある。
[第四話]
真島遼平

真島秋孝の父親。秋孝に対し冷ややか。妻とは15年前離婚している。
・家政婦 瀬野

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 閉館する写真館に残された「未渡し写真」。館主の孫・繭は、癒えない心の傷を抱きながら写真の謎を追うが…。「ビブリア古書堂の事件手帖」の三上延が描く、ビターであたたかな青春ミステリ。

読後感:

 祖母が他界して、祖母のやっていた「江ノ島西浦写真館」に遺品の整理を手伝いに来た桂木繭が、未渡しで残された写真の数々に謎を絡ませ
「第一話」は4枚の写真と3枚のネガの存在の謎を解き明かす。その繭は4年前の事件を機に、カメラから遠ざかることになった苦しい過去に悩まされている。

「第二話」では遺品の手伝いを申し出た真島秋孝の誘いで、その忌まわしい事件を明かすことに。特殊な生い立ちの永野瑠衣のフォトを瑠衣の了解を経ずに限定メンバーのSNSに上げ、取り消したが時既に遅く、世間に知られることとなり、瑠衣の逆鱗に触れ、瑠衣は姿を消してしまう。そのフォトを流布させた犯人捜しで高坂秋穂と縁を切ることに。学生時代の繭の浮いた姿がそこにあったことを思い知る。

「第三話」では土産物屋の研司と叔父修の西浦写真館での銀塊を黙って借用したことによる借用書にまつわる恥ずかしい出来事。
 研司は、秋孝のフォトと実際にあった印象から別人ではと繭に。

「第四話」では未渡しの写真を携え、真島宅を訪ねた繭が、違和感の真相を悟り、西浦写真館で真島家の謎を指摘、真島秋孝の驚くべき真実を解き明かす。
 そして繭を悩ませていた永野瑠衣との対面を果たす。
 伏線に飼い主以外身体を触らせない白い雌猫<ルナ>の存在が最後に効いてくる。
 ビターであたたかな青春ミステリーとの評が素直に納得。


余談:

 エピローグから第一話の江ノ島の描写を読んでいると昔江ノ島付近を車で通ったことがあるせいか、情景が頭の中で再現するようで描写のうまさを感じた。作家さんによってそんな風に感じる作品は読んでいてワクワクする。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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