三上延 『同潤会代官山アパートメント』



              2021-05-25


(作品は、三上延著 『同潤会代官山アパートメント』     新潮社による。)
                  
          
 
初出    プロローグ 1995  書き下ろし
      月の沙漠を     「yomyom」vol.32
      恵の露       「yomyom」vol.44
      楽園        「yomyom」vol.45
      銀杏の下で     「yomyom」vol.46
      ホワイト・アルバム 「yomyom」vol.47
      この部屋に君と   「yomyom」vol.48
      森の家族      「yomyom」vol.49
      みんなのおうち   「yomyom」vol.50
      エピローグ 1927  書き下ろし

 本書 2019年(平成31年)4月刊行。

 三上延
(みかみ・えん)(本書より)  

 1971年、神奈川県生まれ。大学卒業後、中古レコード店古書店勤務を経て2002年「ダーク・バイオレッツ」でデビュー。2011年古書にまつわるミステリー「ビブリア古書堂の事件手帳」を発表し、ベストセラーシリーズとなる。他の著書に「江ノ島西浦写真館」などがある。 

主な登場人物:

1927年] 月の沙漠を
八重(姉) 実家は茅ヶ崎、一度結婚に失敗、両親は腸チフスで他界、愛子と姉妹のみ。竹井との新居は代官山の駅に近い3階建ての、当時としては近代的なアパートメントの3階に住む。
愛子(妹)(没)

八重とは4つ違いの、誰からも好かれる娘、新しい物に好奇心旺盛。竹井に、姉は無口だけど、優しい人、三人で幸せになろうと。関東大地震で亡くなる。

竹井光生(みつお)

愛子の婚約者、大男で顔はいかついが生真面目な性格。
愛子の計らいで八重と結婚する。

1937年] 恵の露

竹井光生
妻 八重
娘 恵子

貿易会社で働いていたが退職、ドイツに本社のある機械製造会社の東京支社で営業職。
・一人娘の恵子は小学3年生。竹井にも八重にも似ていない。明るい性格は妹の愛子を思わせた。
恵子は(姉のように)杉岡ハナたけでなく、俊平のことも慕っている。

杉岡家
俊平
ハナ

竹井の住む棟の、通りを挟んで向かいの2階建ての棟に住む。
・俊平 赤ん坊の頃関東地震時大火事に巻き込まれ、養子に。
義理の母と上手くいっていない、中学生。
・ハナ 素直で聞き分けがいい、両親と血がつながっているのはハナだけ。肺結核で秋から女学校を休んでいる、14〜15歳。

1947年] 楽園
竹井恵子 三年ぶりに渋谷の映画館で俊平に再会、19歳。「いつか代官山に帰ってきて、必らず、私が待っているから」と預かっていた杉岡の家の鍵を渡す。
杉岡俊平

私立大学を卒業直前、招集されてフィリピンの戦場へ。今年の春ようやく帰国、左手の薬指と小指根元から欠けている。
帰国後吉祥寺の駅前で店を手伝っていると。(ヤミ商売)

1958年] 銀杏の下で

杉岡恵子
夫 俊平
長男 浩太
次男 進

恵子は俊平と結婚、9年経つ。杉岡家のアパートに住む。
八重の下の1,2階に住む佐藤家が引っ越し、杉岡家で買い取る。
・浩太、小2は性格も腰抜けに明るい。
・進 浩太の2つ年下。小柄で祖母(八重)に似ている。

竹井八重
夫 光生

孫を預かっている時、火遊びをする浩太、進を注意、外で高志たちのへび花火遊びに、八重の住む3階から煙が・・、大事に・・。

佐藤高志
弟 直也

代官山のアパートの1階と2階に住んでいた佐藤家の四人兄弟。
浩太や進とよく一緒に遊ぶ。

1968年] ホワイト・アルバム
杉岡進 16歳、ビートルズに目覚め、新しいアルバムを求め渋谷に。チンピラに絡まれ怪我。直也の機転で命拾い。
佐藤直也 進と同い年の幼馴染み。10年前この高校に近い祐天寺の一戸建てに引っ越し。ビートルズの大ファン。新宿で進が補導され、停学処分を受けるきっかけを作った。
上野厚子 直也の従姉、進より三つ年上。ビートルズの筋金入りファン。
1977年] この部屋に君と

竹井浩太
妻 厚子
娘 千夏

浩太、学生時代から交際の厚子と結婚して3年。商社マンとして神戸に住む。
・千夏2歳、幼い頃の恵子似。

竹井光生
八重

光生、77歳。末期の胃癌で八重が側に。一晩の外出許可で代官山アパートの3階の部屋に行きたがる。
1988年] 森の家族
千夏 浩太と上野厚子の娘、中学1年生、13歳。一人で八重を訪ねてきて東京での生活に。神戸での学校に行きたがらず。
再就職先の医学雑誌の出版社で、8年前に出会った菅沼奈央子と結婚することに。千夏の学校での写真から冷水を浴びせられる思い。
八重 夫は10数年前亡くなり、娘の恵子夫婦も神奈川県藤沢に引っ越し、ひ孫の千夏を可愛がる。高所恐怖の八重が、三人で東京タワーに昇りたいと。
1997年] みんなのおうち
杉岡千夏 東京の高校に入学、代官山のアパートに一人暮らし。両親の住む神戸の地震にバイクで向かう。
八重 93歳、骨を折りベッドの生活、さらに肺炎で入院。認知症が高じ生きている者の名前を口にすることなし。


妻 奈央子
娘 友希

千夏は奈央子とは初めて会った時から相性が良く、何でも相談する仲。
・友希 もうすぐ3歳。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 2人はかなしみを乗り越えるために“家族”になった…。昭和と共に誕生し、その終わりとともに解体された同潤会代官山アパート。その一室からはじまった一家の歳月を通して描かれる、時代の激流に翻弄されても決して失われない“家族”の物語。

読後感:

関東大震災(1923年(大正12年)9月1日)及び阪神・淡路大震災(1995年(平成7年)1月17日発生)にも関係する八重と愛子の姉妹だが、愛子は婚約者の竹井光生を遺して関東地震で亡くなる。愛子は誰からも好かれ、活動的な性格で、婚約者には姉のことを無口だが優しい人と言い、三人幸せになると言っていた。

 八重は愛子が亡くなり、「くやしい!」と竹井に告げる。愛子の引き合わせか、八重と光生と結婚することとなり、昭和としては新しい建築の3階建ての代官山アパートでの生活が始まる。
 そしてその二人の子ども、浩太と進がやがて結婚して子をなし、その子どもとの三世代の家族にまつわる物語が八重を中心に展開する。

 子供たちの性格は、八重の無口でなかなか思ったことがすっと言えない性格と、愛子の物怖じせず、ハキハキとした性格の二通りになるようだが、でも進だったり、千恵だったりの行動は年齢が進むにつれてなかなかのものに思えてくる。

 物語は10年おきに、成長し移り変わる時代を背景に家族の営みが描かれていて、世代を通しての話も興味深く、そしていにしえの面影が心に残っている様子は胸に浸みてきて、こういう小説もいいものだとほっこりする。


余談:

 同潤会アパートと言う表現が気になって調べてみた。
 (ウィキペディアより)
 財団法人同潤会が大正時代末期から昭和時代初期にかけて東京・横浜の各地に建設した鉄筋コンクリート造(RC造)集合住宅の総称である。
 同潤会は1923年(大正12年)に発生した関東大震災の復興支援のために設立された団体であり、同潤会アパートは耐久性を高めるべく鉄筋コンクリート構造で建設され、当時としては先進的な設計や装備がなされていた。

 関東大震災では木造家屋が密集した市街地が大きな被害を受けた。東京府と横浜市が震災前に建設した鉄筋ブロック造の集合住宅の事例があり、不燃の集合住宅の必要性自体は震災前から既に認識されており、不燃の鉄筋コンクリート造で住宅を供給することをその目的としていた。近代日本で最初期の鉄筋コンクリート造集合住宅として住宅史・文化史上、貴重な存在であり、居住者への配慮が行き届いたきめ細かな計画などの先見性が評価されている。なお、先行事例としては、1916年以降に建設された軍艦島の集合住宅群がある。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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