道尾秀介著 『笑うハーレキン』



              2018-06-25



(作品は、道尾秀介著 『笑うハーレキン』    中央公論新社による。)

          

 
 初出 「読売新聞」夕刊(2012年1月4日〜10月27日)
   本書 2013年(平成25年)1月刊行。

 道尾秀介:
(本書より)
 
 1975年、東京都出身。2004年「背の眼」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。07年「シャドウ」で本格ミステリ大賞、09年「ガラスの親指」で日本推理作家協会賞を受賞。10年「龍神の雨」で大藪春彦賞、「光媒の花」で山本周五郎賞を受賞する。11年「月と蟹」で直木賞を受賞。近著に「カササギたちの四季」「水の柩」「光」「ノエル」などがある。小説表現の可能性を追求しつづけ、多彩な作品で読者の熱い支持を得ている。
      

主な登場人物:

<ホームレスの仲間>
東口太一(40歳)
元妻 智恵
息子 笙太
(しょうた)
(没)
東口家具が倒産、ホームレスになって2年、荒川のスクラップ置き場に。
スクラップトラックで家具の製作と修理で日銭を稼いでいる。
《疫病神》がちょくちょく出現する。
・妻とは 笙太の死後離婚。
・笙太 
ジジタキ 長年警備の派遣会社に世話になっている。読書が趣味。ブルーシートの小屋の一つに住む。
チューさん
奥さん トキコさん
東口より少し年上、釣が趣味。奥さんと廃品回収をしている。
モクさん
犬 サンタ
50代半ば、若い頃に肺の手術、星や月に詳しい。
短足の雌犬で赤毛の雑種犬を飼っている。
橋本 スクラップ工場経営していたが10年近く前つぶれる。アパート経営をしていて、一室をホームレスの仲間に提供している。
芹沢 橋本のアパートの住人で、ホームレスの一室の隣に住む。
二人の小学生がいるシングルマザー。
西木奈々恵 謎の若い女。東口に弟子入りを申し込み住み着く。それまでは親の家を書き置き一枚残し外国を放浪していたと言う。木之宮多恵は祖母と言う。生まれつき右脚が悪い。
木之宮多恵 東口に古い箪笥の修理を依頼してくる。引出に古い写真が出てきて、写っているのは自分だと奈々恵は言うが・・・。
伊澤 イザワ商事の社長。東口のトウロ・ファーニチャーの得意先。
イザワ商事の計画倒産で東口会社も倒産に追い込まれる。その後智恵と結婚、新しい会社を設立している。
謎の依頼人 祖父の家の造りつけの大きな棚の修理依頼先。
・老人 小柄で70過ぎの主。
・器口
(うつわぐち) 仮の名前、50代半ば。
・スカ 東口を屋敷に導いた運転手。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
全てを失った家具職人と家なき仲間たち。「アイツ」の正体を見破り、ここから這い上がれ…。読売新聞連載時から大反響。一歩を踏みだす大きな勇気をくれる、感動エンターテインメント。

読後感:

 荒川土手でのホームレスに仲間入りした主人公の東口、家具職人として経営の会社が得意先のイザワ商事の計画倒産で自社も倒産。おんぼろトラックの中で弟子にして欲しいと押しかけてきた謎の若い女性とホームレス仲間の共同生活ぶりが展開する。
 でもそれぞれの生き様は複雑である。東口の前に現れる《疫病神》はそんな東口の心の内を見透かすように批評めいたことを言ったり、問いかけたりする。ラスト近くその《疫病神》は実は・・・であったことが明かされるが。

 さらに謎の若い女性にまつわる悩みも次第に明かされる。ホームレスのジジタキさんの死、東口にきた大きな補修依頼にまつわる奇妙な出来事、橋本の素性とミステリーとも言える展開で読者は引き込まれてしまう。
 しかし、そればかりでなく社会の底辺で生きている人間に同情されたり、哀れみを受けたりすることに耐えられない、いつまでもまっとうな人間でありたいと思う気持ちが東口にもジジタキさんもモクさんにもあったということにしんみり。

 そして別れた奥さんが井澤と結婚し、子供までもうけて幸せそうな姿を見て悶々とし、《疫病神》に「あの男に負けたままでいいのか」と。屈辱に満ちた東口が井澤の居る居酒屋に変装して乗り込むシーンに涙してしまう。
 
余談:

 判らなかった表題の“ハーレキン”という言葉が奈々恵と東口の会話の中に出ている。
 「東口さん。ピエロ恐怖症って知っていますか?」
 ・・・
 「いつも顔は笑っていて、面白おかしい動きをしてみせるけれど、あんまりふざけすぎてしまっては相手を怒らせてしまいます。だからピエロたちは、常に微妙なラインをしっかりと見極めて道化を演じていたらしいです。顔は笑っているのに、化粧の下は、じつはシリアスなんです」
 ・・・
 「あれはピエロではなく、ハーレキンだそうですよ」
 「道化師か」
 「一説だと、ハーレキンの顔に涙のマークを描くとピエロになるようです。本当かどうかわかりませんが、みんなに馬鹿にされながら人を笑わせているけれど、じつは悲しみを抱いている、という意味だとか。」

  

背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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