道尾秀介著 『月と蟹』
   





             
2012-06-25


(作品は、 道尾秀介著 月と蟹     文藝春秋による。)


           
 

初出 「別冊文藝春秋」2009年11月号から2010年7月号
本書 2010年(平成22年)9月刊行。

道尾秀介:
 1975年東京生まれ。 2004年「背の眼」で第五回ホラーサスペンス大賞受賞し、デビュー。 07年「シャドウ」で本格ミステリ大賞受賞。 09年「カラスの親指」で日本推理作家協会賞受賞。 その他「龍神の雨」、「向日葵の咲かない夏」、「ソロモンの犬」、「鬼の跫音」など。 ミステリー、ホラー、文芸などのジャンルを超えた作品は、毎回、圧巻の筆力で読者を思いも寄らない光景へと導き、大きな注目を集めている。

主に登場人物:

利根慎一(主人公)
母親 純江
(すみえ)
祖父 昭三
父親 政直(没)

小学4年生。鎌倉市の近くに、父親が東京の商事会社倒産で移ってくる。同じ境遇の春也と仲がよい。
祖父昭三:10年前しらす漁で自身の操縦する船の事故で女性(鳴海の母親)を死なせ、自身も片足を失う。
母親の純江:パートに出て昭三の年金とで暮らしを支える。誰かと付き合っている様子を慎一は気づく。

富永春也

利根慎一の同じクラス。やはり転校組。両親から痣とか食事を抜かされるとかの迫害を受けているようなところがありそう。
慎一と山の岩場に秘密の場所をつくり海で捕まえたヤドカリなどを飼っている。

葉山鳴海
父親 
母親 (没)

利根慎一と同じクラス、友達のいない慎一に声を掛けてくる。
父親は硝子メーカーの部長。
父親が付き合っている女性が慎一の母親ではないかと鳴海が気をもんで・・・。

物語の概要: 図書館の紹介文より

  やり場のない心を抱えた子どもたちが始めた、ヤドカリを神様に見立てるささやかな儀式。やがてねじれた祈りは大人に、そして少年たち自身に不穏なハサミを振り上げる。子どもたちの切実な心が胸に迫る傑作。

感読後感:

 主人公の利根慎一の心を通して語られる物語。女友達の鳴海との仄かな気持ち、春也と友達でありながら、鳴海が春也と心を通じ合わせると、それに対するやっかみ、母親が鳴海の父親との交際を密かに疑い、自分に知られないよう行動していることに対して複雑な思いを抱く。

少年時代の複雑でいて割り切れない気持ちが、色んな面を感じてどう行動していいのか分からない状態、そんな心情がそこかしこに表現されていて、なんと少年の気持ちの難しいことか。

祖父が起こした海の事故で鳴海の母親が巻き込まれて亡くなり、祖父も片足を切断する大怪我をし、びっこで生きている姿、そしてその死亡させてしまった家の娘(鳴海)と仲良くなって、さらに自分の母親が、春海の父親と交際をしているらしいと気づく。

三人(慎一と春也と鳴海)での秘密の山の上の神事の場所、そこで行うヤドカリの飼育とヤドカミ様への願いの神事と、その結果の実現が本当なのか、意図して行われたものなのか、また学校で慎一に届けられる鳴海との関係を揶揄する手紙、その犯人は誰なのか、ミステリアスな展開も読者を惹きつける。

また、同じ転校組の春也と仲良くなるも、春也が何か家庭内でいじめを受けているらしいことに気がつく。まわりで起きる出来事は慎一にとって心を砕く出来事ばかり。

 次第に三人を取り巻く環境が変化していく中で、最後の神事でどういう結果へと導かれるのか? 不穏でいて少年の切ない気持ちがひしひしと伝わる展開に引き込まれてしまった。 

   
余談:
 
 道尾秀介という作家の作品を幾つか読んでみて、普通でない感覚を持ってしまうのは尋常であるせいか?ちょっと理解に苦しむような感覚の持ち主に引かれる所もある。

         背景画は作品中にあるヤドカリをイメージとして利用。                      

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