道尾秀介著 『ノエル』
 





                2015-09-25




   (作品は、道尾秀介著 『ノエル』   新潮社による。)

                  
 

 初出  「光の箱」「Story Seller」(小説新潮5月号別冊、2008年4月発行)
    「暗がりの子供」 「小説新潮」2001年5月号
    「物語の夕暮れ」 「小説新潮」2012年5月号

 本書 2012年(平成24年)9月刊行。
 

  道尾秀介:(本書より)

 1975年、東京都出身。2004年「背の眼」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家デビュー。2007年「シャドウ」で本格ミステリ大賞、2009年「カラスの親指」で日本推理作家協会賞を受賞。201年「龍神の雨」で大藪春彦賞、2010年「光媒の花」で山本周五郎賞を受賞する。
 2011年「月と蟹」で直木賞を受賞。「向日葵の咲かない夏」(新潮文庫版)でミリオンセラーに。独特の世界観で、ジャンルを超越した作品を次々に発表している。近著に「カササギたちの四季」「水の柩」「光」などがある。

物語の概要: 図書館の紹介より

理不尽な暴力を躱(かわ)すために、絵本作りを始めた中学生の男女。最愛の妻を亡くし、生き甲斐を見失った老境の元教師…。それぞれの切ない人生を「物語」が変えていく。切ない人生を繋ぐ、奇跡のチェーン・ストーリー。

主な登場人物:

<光の箱>

正木圭介
(ペンネーム
 卯月圭介)

童話作家。14年前この街を出て、高校時代の3年間同じクラスの富沢から同窓会の案内が届く。中学時代母親と二人暮らしの貧しさを皆からいじめに遭い、葉山弥生との絵本作りに安寧を見いだしていた。
葉山弥生 小学校時代同じクラスの女の子。弥生の家はカメラ店経営。高校卒業後、イラストレーターに。
守谷夏美 弥生とも友達。弥生とは正反対の性格、とても外向的でさばけた性格。しかし故あって引っ越してしまう。その理由とは・・・。
<暗がりの子供>
莉子
父 正孝
母 浩美
祖母

曲がりにくい左脚による歩き方と体型のせいでクラスメートに笑われ、学校へ行くのを嫌がる莉子。
母は赤ん坊を宿し、莉子は母の扱いにも悲しむ。好きな祖母は入院中。
そんな莉子は絵本の物語の世界で真子と恐ろしいことを話し合っている。

<物語の夕暮れ>
与沢昭

おはなし会で妻と二人で本の読み聞かせを行っていたが、3ヶ月前妻に死なれ、ひとりで続けていたが、張り合いをなくしあと3回で辞めることに。
雑誌のインタビュー記事で、昔暮らしていた家に童話作家が住んでいることを知り、手紙を出して・・。そして死のうと。

重森さん

児童館“まつぼっくりクラブ”の事務員。
進藤くん

 読後感

 それぞれの物語には童話作家となった卯月圭介とその妻が作った絵本のはなしが取り込まれていて、現実の世界と物語の世界が融合して夢のような世界が時に展開している。
 
 中でも<物語の夕暮れ>は人生の終わりとも思える老教師の姿が20年前の昔の祭りでのときちゃんとのまじわり、話が胸に迫ってくる。
 最愛の妻を亡くし、生きがいを失った人間、でもおはなし会で子供たちに、昔ときちゃんに話したお話やら、新しく作ったはなしを話し、若い孫に当たるような重森さんたちとのやりとりを通し、そして昔を偲ぶために昔住んでいた家にいま住むという童話作家に奇妙なお願いの手紙を出し、その後自分は死のうと思っている与沢。切ない。

 もうひとつ<光の箱>も、いじめにあって圭介と弥生の絵本作りに活路を見いだしている姿がいい。しかし高校時代になり、夏美という女性の登場で思いがけない展開に。そして謎の夏美の転校。その理由が、同窓会を契機に明かされる。

 <暗がりの子供>も母親のおなかに赤ん坊が宿ったときの子供の反応、父と母の会話に大好きな祖母の扱いにもショックを感じてしまう子供。

 それらを通して最後の<四つのエピローグ>では隠されていた部分の物語、その後の様子などがつむられていて未来を予感させる様子へと。

 
余談:

・題名の「ノエル」の意味が気になる。
フランス語でクリスマスの季節や歌のこと。「誕生」が語源。
・今までも著者の作品のいくつかを読んだが、色んなジャンルの世界を紡ぐ物語に大変興味が湧き、また新しい作品を読みたくなってしまう。

背景画は作品中の祭り囃子風景をイメージして。

                    

                          

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