道尾秀介著 『貘の檻』



              2018-04-25


(作品は、道尾秀介著 『貘の檻』    新潮社による。)

           

 
 本書 2014年(平成26年)4月刊行。 

 道尾秀介:
(本書より)

 1975年、東京都出身。2004年「背の眼」でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家としてデビュー。07年「シャドウ」で本格ミステリ大賞、09年「ガラスの親指」で日本推理作家協会賞を受賞。10年「龍神の雨」で大藪春彦賞、「光媒の花」で山本周五郎賞を受賞する。11年「月と蟹」で直木賞を受賞。「向日葵の咲かない夏」(新潮文庫版)はミリオンセラーに。独特の世界観で小説表現の可能性を追求し、ジャンルを超越した作品を次々に発表している。近著に「ノエル」「笑うハーレキン」「鏡の花」などがある。    

主な登場人物:

大槙辰男
<主人公 私>
母親 とき子

1年前に離婚。今は東京のマンションに母のとき子と二人暮らし。父親石塚充蔵が組合長檜場宗悟殺しの容疑から姿を消した後、母と私(当時小学生)は母の実家深垣山の麓に移り、父の籍から抜け母の旧姓大槙に。
長野県の寒村O村出身。悪夢に唸らされるあの化け物が私を苦しめる。

大槙智代
息子 俊也

別れた妻。
・俊也 子どもは母親に引き取られていて、毎月第4日曜日が面会日。

石塚充蔵(没) 大槙辰男の父親。O村では猟師だったが怪我をして1年以上前に辞める。狩猟の腕が優れそれなりの生活が出来ていた。曾木美禰子の滑落事故では土砂に埋もれていた美禰子を助けた。

檜場宗悟
妻 以津子

O村での二大資産家の一つ。山奥で宗悟の死体が発見される。
・妻の以津子は、石塚充蔵の葬儀の際、辰男たちに嫌みを放つ。

三ツ森塔士(とうじ)
親 玄勝
兄 尊充
(たかみつ)
兄嫁 公恵
(きみえ)

小諸市の内科医院の開業医。O村出身。三ツ森家はO村では檜場家と二大資産家。辰男たちが村を去るとき等様々に援助の手をさしのべる。
・父親は厳格、信州紬の着物を何着も購入していたが・・・。
・兄は現職の議員。

曾木美禰子(みねこ) 三ツ森の6歳上。三ツ森とは幼い頃から仲良し。O村の小学校の教師だったが、滑落事故で顔を損傷、教師を辞め家に閉じこもる。生活のため信州紬を織り村を売りに廻るも・・。石塚充蔵が亡くなった頃行方不明に。
彩根(あやね) カメラを撮るのが趣味であちこちを巡って写真を撮りながら郷土史の勉強。いつか本を出したいと。
長野県警の刑事

・谷尾  普通教えてくれない状況を私に教えてくれる。
・竹梨

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 あの女が私の眼前で死んだ。かつて父親が犯した殺人に関わった女が、今なぜ。真相を探る私を襲う異様な出来事。真実は「悪夢」の中に隠されている…。幻惑の極致に誘う、待望の書下ろし超本格ミステリー。 

読後感:

 私が、別れた息子と最後に会い、死のうと思いホームに。反対のホームに32年前行方不明になった美禰子が私を見たと思ったら、入ってきた電車に飛び込んだ。私が想定していた方法で死んだ。
 衝撃的な情景描写から始まった物語は、どうして?の思いから、たまたま預けられた息子の俊也を連れてO村にやってきて32年前の村で起きた事、そして現実に起こる事件の真相を探る物語が展開する。
 途中、悪夢に出てくる不可解な描写がいかにも著者らしい所と感じる。

 村の繁栄の歴史、合併の話に衰退の時代の変化も感じながら、三ツ森塔士と美禰子の関係、父の充蔵と美禰子の関係、彩根の存在の真意?俊也を拉致した犯人は?はたまた私の不安な状態を醸し出している原因は?となかなかミステリアスな展開に読者は引き込まれていく。

 5月2日三ツ森六郎実充
(さねみつ)が新田を拓くため穴堰(アナゼキ 水を通す為の水路)を作り繁栄させた事を祝って祭る六郎忌に起きるラストのシーンでは色んな出来事の真相描写がなされ、嘘と誤解とが物事を複雑にし、悲しい結果となっていたことが・・。
 
 最後に息子の俊也に「お父さんを、助けてくれるか――」に「お母さんに、僕が話すよ」の言葉が温かい気持ちにさせてくれほっとした。
 
余談:

 面白い内容があった。古い集合写真を見て私が見ている方角を彩根が推論する箇所。周囲の景色は空と向日葵と遠景の木立以外何も写っていない。それを説明している箇所。

「向日葵がほら、みんなカメラに顔を向けてますでしょう。・・・
 植物が感じるのは青い光なんです。それ以外は光として認識しません。一方で夕陽がどうして赤く見えるかというと、空気中で青い光が吸収されるからですよね。だから夕陽は、我々には眩しく感じられますけど、植物にとっては光じゃないわけです。」・・・
「つまり、夕日が射す西側は、向日葵にとっては暗い方向なので、花はみんな東を向いて咲くわけです。あなたはその向日葵の向きに対して、左側に顔を向けているから――」
「北を見ている」
 
背景画は、森・木をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

           
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