道尾秀介著 『向日葵の咲かない夏』、
『シャドウ』
 
             2011-11-25

(作品は、 道尾秀介著向日葵の咲かない夏(新潮社)、『シャドウ』(東京創元社)による。)

            

向日葵の咲かない夏

 本書 2005年11月刊行 書き下ろし作品。

 『シャドウ』

 本書 2006年9月刊行 書き下ろし作品。

道尾秀介:
 1975年東京生まれ。 2004年「背の眼」で第五回ホラーサスペンス大賞受賞し、デビュー。 07年「シャドウ」で本格ミステリ大賞受賞。 09年「カラスの親指」で日本推理作家協会賞受賞。 その他「龍神の雨」、「向日葵の咲かない夏」、「ソロモンの犬」、「鬼の跫音」など。 ミステリー、ホラー、文芸などのジャンルを超えた作品は、毎回、圧巻の筆力で読者を思いも寄らない光景へと導き、大きな注目を集めている。

物語の概要と主な登場人物:

向日葵の咲かない夏
 小学校を休んだS君の家に寄った僕は、彼が家の中で首を吊っているのを発見する。だが、先生と警察が駆け付けると、なぜか死体は消えていた。混乱する僕の前に、今度はS君の生まれ変わりと称するモノが現れ…。

ミチオ(摩耶道夫)
妹 ミカ
お母さん
お父さん

あの事件が起きた夏、小学4年生。一瞬のことであるが教室の窓際の席にいる僕は、S君が風に乗って窓の外を横切っているのを見た。
ミカはその時3歳。事件のちょうど1年後4歳でなくなった。
お母さんはミカには優しいが、僕には嘘つき、馬鹿と嫌っている。お父さんはお母さんに頭が上がらない。

S君
お母さん 美津江
飼い犬 ダイキチ

ミチオと同じクラス。友達もなく、お母さんとの二人暮らし。
あの日首つり状態をミチオに目撃されるも、警察が行った時は姿がなかった。

岩村先生 ミチオの担任の先生。
古瀬泰造 Sク君の家とはヌギ林の対岸に住むお爺さん。毎朝8時に百葉箱のデータを取得するバイトをしている。あの日の目撃者。
トコお婆さん 近所に住んでいる仲良しのお婆さん。
刑事

・谷尾刑事
・竹梨刑事


『シャドウ』
 凰介の母がこの世を去り、父とふたりだけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母が自殺した。不穏な空気に胸を痛める小学生の凰介をよそに、悲劇は進行してゆく。企みに満ちた本格ミステリの傑作登場。

我茂(がもう)洋一郎
妻 咲枝
息子 鳳介
(おうすけ)
伯母 原野房江
 (咲枝の姉)

相模医科大の大学院卒後付属の大学病院勤務、44歳。
咲枝と恵も洋一郎たちが院生の3年目に大学に入ってくる。
咲枝は一時都内の小学校のスクールカウンセラーをやっていたことがある。3年前癌が再発し、亡くなる。
鳳介は小学5年生。

水城(みずしろ)
妻 恵
娘 亜紀

我茂洋一郎と同じ大学時代からの付き合い。院生後研究員として勤務、45歳。
恵は保険のセールスをしている。
亜紀も鳳介と同じ小学校の5年生、クラスは別。

田地宗平 現職の相模医科大学病院の精神科医、洋一郎や水城は教え子。
竹内絵美 我茂洋一郎や水城と同級生。今は精神科医として相模医科大学病院に勤務。
  

感読後感:

向日葵の咲かない夏

 本作品は2004年、「背の眼」で第五回ホラーサスペンス大賞・特別賞を受賞してデビューした後の受賞第一作となるもので、ホラーと本格ミステリが高度に癒合した独特の世界観が高く評価された流れをくむものだった。
 著者の作品は2010年の 「光媒の花」 で初めて手にした後の次ぎに読んだのであるが、何となく 「光媒の花」の印象が残っていて雰囲気としてはなるほどと感じさせるものが感じられた。

 しかししかし、読み進んでいる内にミチオ、S君、お爺さんと会話の中での話に嘘が交じっているため、何が真実か判らなくなってくる (こう言うのは読んでいて非常に困る) のと、この世の者でない世界のごっちゃな世界の話になってきてまじめに読めなくなってしまう。 心理描写の話にもなっていてミステリーとしてもおもしろいのだが、頭が混乱してきてなじめなくなってきてしまった。
「背の眼」 なる作品がどのようなものであるのか、読みたくもあるのだが。

『シャドウ』

 精神科医の人物が出てくると何となく不安な展開が想像される。 しかも死人が身近な人間の二人もあり、そのうちの一人が自殺となるとなお一層である。 一体誰が正常なのか洋一郎、水城、さらに亜紀の不可思議な言動、行動にぞくっとしてくる。

 後で振り返ってみるといろんな伏線が敷き詰められていてなるほどと思わされるが、なかでも小学5年生の鳳介のたくましさが最後にきて光っている感じである。
 まずまずのハッピーエンドになって気持ちも落ち着いて読み終えることが出来た。

印象に残る表現:

『向日葵の咲かない夏』
「人は死んだらどうなるの」と僕の質問にお父さんが答える話:

「――人は死ぬと身体から魂が抜け出て、その魂は、この世とあの世の間でうろうろ迷うんだ。 その迷っている期間のことを、何だ ・・・ 中有(ちゅうゆう)って呼ぶらしい。 つまり魂が、あの世とこの世の中間にあるわけだ」 ・・・

「中有の状態にある魂には、七日ごとに、生まれ変わるチャンスがめぐってくる。 最初の七日目で駄目だったら、つぎの七日目、それでも駄目だったら、またつぎの七日目、ってな」 ・・・

「そう、一週間ごと。 それぞれのチャンスで、生まれ変わる人もいれば、そうでない人もいる」 ・・・

「何回目に生まれ変わるのかは、人によって違うんだけど、それでも七かける七――つまり四十九日目には、みんな必ず何かに生まれ変わることができるんだと。 まあ、宗派によって考え方は違うんだろうけどな」
   
余談1:
 死んだ後生まれ変わるという仏教思想について、作品の中でお父さんがミチオに話しているのがわかりやすいので印象に残る表現のところに記録しておいた。
余談2:

 精神科の病気の話が出てくるので参考までに記録しておく。
“ 都合性腹痛炎 ” たとえば、学校で掃除を言いつけられそうになった時、 『いや、ちょつとお腹が痛くて ・・・ 』 なんて言う。
 それが、人の心の中で、無意識に起こってしまう場合がある。 生きていくうちに、何かにつまずいて、どうしようもなくなったとき ―― 人は、自分でも意識しないうちに、そこから逃げ出そうとすることがある。 病名でいうと、統合失調症 ―― 以前は精神分裂症と呼ばれていた病気。

        背景画は作品中のクヌギ林の公園をイメージして。                       

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