まさきとしか 『あの日、君は何をした』



              2021-10-25


(作品は、まさきとしか著 『あの日、君は何をした』    小学館による。)
                  
          

 
本書 2021年(令和3年)6月刊行。書き下ろし作品。

 まさきとしか
(本書より)

 1965年生まれ。北海道札幌市在住。2007年、「散る咲く巡る」で第41回北海道新聞文学賞を受賞。13年、母親の子どもに対する歪んだ愛情を描いた「完璧な母親」(幻冬舎)が刊行され、話題になる。他の著書に「熊金家のひとり娘」「大人になれない」「いちばん悲しい」「ゆりごに聞く」「屑の結晶」などがある。

主な登場人物:

[一部] 2004年

水野いづみ
<旧姓 猿渡
(さわたり)
夫 克夫
(かつお)
娘 沙良
(さら)
息子 大樹
(たいき)

裕福ではないが、平凡な家庭の主婦、42歳。不細工でデブのコンプレックス。肝っ玉母さんに。前林市在。
・夫 家族思いの夫。工務店勤務。
・娘 この春国立大学の教育学部に合格した。
・息子 この春高校に合格。お祝いのその夜、夜中に家を抜け出し自転車に乗り、途中、逃走中の林容疑者を探していたパトカーの警察官が職務質問しようとしたところ逃走、トラックに衝突して死亡。2004年3月24日。

神崎乙女(おとめ) 大学(教育学部)で沙良の友人。クラスは違うが同じ高校出身。

滝岡鞠香(まりか)
村井由樹
(ゆき)

大樹の同級生。
・鞠香 大樹の葬儀の時「どうして大樹君が死ななきゃならないの!」と泣き叫ぶ。テレビでも「どうして大樹君がこんなに責められなきゃいけないのかわかりません」と。
・由樹 鞠香に付き添っていた子。その後「もう鞠香とは友達じゃないです」と。

林竜一

宇都宮女性連続殺人容疑で逮捕され、宇都宮警察署から逃走。
宇都宮市から75キロ離れた前林市で林容疑者の目撃情報あり。

[二部] 2019年(あれから15年後)
田所岳斗(がくと) 警視庁戸恁x察署の新人刑事。三つ矢とペアを組まされる。「変わり者」は苦手。
三ツ矢秀平

警視庁捜査一課殺人犯捜査第5係の刑事、40歳手前。新宿区にある戸恁x察署捜査本部詰め。彼だけがものものしい雰囲気の中、浮き上がって見え、“変わり者”と評されている。
宇都宮女性連続殺人事件に関わり、世間では水野大樹が犯人と噂されたが、どうして少年が命を落とさなければならなかったか判らないと今も悩んでいる。

百井辰彦(ももい)
妻 野々子
<旧姓 乾
(いぬい)
息子 凜太

殺された小峰と同じ会社の企画制作部、34歳。重要参考人として手配されるも、行方不明。西東京市ひばりが丘のマンション住まい。
・野々子 2年半前に結婚、30歳。性格はおっとり、素直でおとなしい。夫婦仲は良さそう? 凜太を産んだ後もIT企業にウェブデザイナーとして勤務。辰彦の母親は、夫が行方不明、しかも犯人扱いされていることを知らせてこなかったことに腹を立てる。
・凜太 1歳9ヶ月。

百井智惠
夫 祐造

百井辰彦の母親、64歳。実家は埼玉県川口市。
・父親 68歳。

乾瑶子(いぬい・ようこ) 百井野々子の母親、54歳。前林市在。野々子とは友達親子と三ツ矢に話す。父親の死後、夜の仕事で野々子を育てる。
松本 百井野々子が住むマンションの1階に住む住人。コンビニエンスストアに勤めている。
小峰朱里(あかり) 百井辰彦と同じ広告代理店の営業部勤務、24歳。新宿区中井の自宅アパートで後頭部殴られ、紐状のもので首を絞められ殺害される。
加瀬明日香 百井辰彦の不倫相手。半年ほど前広告代理店を退職している。
(りょう)

野々子の母親(乾瑶子)が連れてきた父親。スポーツクラブで夜勤。
高校に合格した野々子のお祝いと、その夜母親がいない時に・・・。

岳斗の先輩刑事、40歳。15年前の宇都宮女性連続殺人事件にかり出され、逃げた林を追いかける方にかり出されていた。
林を逮捕したのは三ツ矢と。

加賀山

地域課の刑事。警察学校時代、岳斗は職場実習で世話になった。
三ツ矢の知られざる秘密を聞かされる。

福永

行方不明の捜索を支援するNPO法人「ポラリス」の代表理事。
元埼玉県警の警察官。

草薙雅美(まさみ) 「ポラリス」に婚約者の失踪願いに来た太った女。当時生命保険会社勤務。警察は何もしてくれないと。
佐藤宏太(こうた) 草薙雅美の婚約者、34歳。2004年3月25日夜から失踪。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 平凡な主婦・水野いづみの生活は、息子が連続殺人事件の容疑者に間違われて事故死したことによって、一変する。15年後、新宿区で若い女性が殺害され、重要参考人である不倫相手の百井辰彦が行方不明に。無関係な2つの事件をつなぐ鍵は…。

読後感:

「一部」では、2004年宇都宮警察所から逃亡した殺人犯林竜一が、前林市で目撃された情報がある中、水野家の大樹が夜中抜けだし、自転車を乗っていた中、パトカーの警察官の職務質問に対して逃走、トラックに衝突して死亡した。母親のいづみは、世間の大樹への批判と大樹喪失のショックから次第に精神状態が不安定になっていき、家庭崩壊への道に進んでいく。

 一方、[二部]は2019年と、2004年から15年後に新宿区のアパートで起きた小峰朱里が絞殺された事件が起きる。そして捜査本部に招集された「変わり者」と評される三ツ矢秀平と、新人の田所岳斗のペアが担当する。犯人は同じ会社の百井辰彦が参考人とされるも、自宅のマンションにたどり着く前まで、防犯カメラに捕らえられていたが、その後の足取りは不明。

 一部と二部で、話はつながらないことから、別の物語かと思っていたら、そうではなかった。
 ふたつの家庭内(水野家と百井家)の、愛する人間がいなくなったことで、それまでのお互いの感情、喪失感に伴う気持ちの揺らぎ、変化といった複雑なものと、どうして死んでしまったのか、何をしていたのかを知りたいという、ハッキリとした真実を知りたいという望を、残された遺族たちが持っている様が描写される。

 一方、三ツ矢と岳斗の間の、しっくりといかない様子も分かる気がする。三ツ矢もいわくのある経験をしていて、「判らないことや知りたいことにぶつかると、それ以外のことは考えられなくなるのです」と、そして岳斗に「どんどん聞いて下さい」とうながす。

 ところで、水野大樹が何故パトカーから逃げたのか、何をしていたのか、小峰朱里絞殺の犯人は誰なのか、殺人の百井辰彦の行方不明はどうなったのか、さらに遺体が数件発見されたのは誰だったのか。読者は次々に起きる事象に惑わされながら、15年を行ったり来たりしながら戸惑い続けることに。

 本の題「あの日、君は何をした」とあるが、ラストで知ることになる、乾百々子とのやりとりに。


余談:

 解説(千街晶之)で著者の作品の傾向について記されていた。

 親と子。それはこの世にあって、最も宿命的で、最も濃密で、だからこそ最も厄介な人間関係と言えるかも知れない。・・・
 まさきとしかは、そんな親子関係のさまざまな側面を繰り返し描いてきた作家である。と。
 まさに水野家、百井家においての女性のやり取りは作品のメインを占めていた。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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