丸山正樹 『 漂う子 』



              2020-11-25


(作品は、丸山正樹著 『 漂う子 』      河出書房新社による。)
                  
          

 本書 2016年(平成28年)10月刊行。書き下ろし作品。

 丸山正樹:
(本書より)  

 1961年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部演劇科卒業。広告代理店でのアルバイトを経て、フリーランスのシナリオライターとして、官公庁の広報・啓発ビデオから、エイガ、オリジナルビデオ、テレビドラマ、ドキュメンタリー、舞台などの脚本を手掛ける。2011年「デフ・ヴォイス」(第18回松本清張賞最終候補作)で小説家デビュー。2015年、同作が『デフ・ヴォイス 法廷の手話通訳士』として文庫化(文春文庫)され、話題となる。本作が二作目の長編。

主な登場人物:

二村直(なお)
父親 秀人
(ひでと)
母親 範子
(のりこ)
兄 正人(没)
兄嫁 貴子
(たかこ)
姪っ子 聖美
(きよみ)

フリーのカメラマン。中学生の頃から父親と折り合い悪く家を出て独り暮らし。祥子と付き合っているが、祥子が妊娠して、子供を欲していないと思っている直は、結婚を言い出せないでいる、31歳。
・秀人 中学校の教師一筋だった。
・範子 兄嫁とはあまりいい関係でない。
・正人 進行性のガンで没。3回忌を迎える。
・貴子 元の姓に戻す届けを出す。職場では旧姓のままだった。
    都内市立高校の英語の教師。
・聖美 聖美(小6)は二村のままで、都内の私立中学に進学。

森久保芳雄
妻 香織
息子 トモカズ(2歳)

二人共二村直と学生時代からの友人関係。結婚しても学生時代のまままのスタイル。

相野祥子
(あいの・しょうこ)
母親 雅美
(まさみ)

直が付き合っている女性、35歳。小学4年生の学年主任。
生徒の沙智から相談を受けたが、父親が連れ去り、居所不明で悩んで直に相談する。
両親は群馬で年金暮らし、祥子は一人っ子。

栢本(かやもと)沙智
父親 伸雄
(のぶお)
母親 真帆(離婚)

祥子の担任の生徒、両親は離婚、父親が親権を持ち、事情でしばらく休ませる旨の連絡があるも、その後沙智を連れて居所不明児童に。
・真帆 父親がクビを2年近く隠していて自己破産、離婚後再婚している。

澤田 野上と写真学校の同期。カメラマンはやめ、コーディネーターみたいな男。直に仕事の依頼がきたがその内容に断ると・・。
羽田

児童相談所勤務の女性職員、係長、児童福祉司の肩書きを持つ。
河原が子供(6歳)の時、虐待で児相に保護されたときの担当者。

河原たけし

市内(名古屋)の「NPOこどもの家」のGRチームリーダー。
子どもの人権救済活動を専門にやっている。

シバリ
<富岡悟志
(さとし)

河原と同じ「情緒障害児短期治療施設」に通っていた河原の後輩。
奄美大島出身、戸籍もなく、奄美の言葉で“シバリ”とは「小便」って意味でそのまま使っている。
・「待機所」の仲間たち 援助交際の現場にいるJKたち。
  うさこ/しおり/ゆか/りえ たち

ナナ
父親

東京から<サチコ>と名乗っていたらしい、親子で行方をくらましている人物。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 恋人の教え子・紗智を探すことになった直。少女の背後に広がる「居所不明児童」という社会の闇を知るなかで、彼は自らの過去に対峙し、未来への決断を迫られる。子どもを巡る実情を描く社会派ミステリ。

読後感:

 悲しい話であると共に、現在の話にも繋がる課題でもある。
 一つは、子供が虐待を受け、両親が離婚して親権のある方に引き取られた子供が、どんな風に扱われているか。しかも親が離職などしてどうやって暮らしていけるのか。さらには、その日が過ごせなくて親子が流れ流れてさまよっているなど。

 この物語は、ひとつはこの流れ流れている親子が、実は相野祥子という小学4年生の学年主任でもあり、児童に相談されて救えなかった栢本(かやもと)沙智ではないかと、付き合っている二村直に相談、直が探し出そうと名古屋に飛び込んで活動する話でもある。

 もうひとつは、親になること、子供を持つことに不安を持つ二村直の葛藤の物語でもある。
 名古屋にその親子がいるのではないかと向かった直が出会うのは、児相の職員(羽田)や、過去に羽田に保護されて今はNPOで子供の人権救済活動をしている河原という人物を通し、援助交際をしているグループの女の子達との交流、そしてシバリの行動など、その体験から感じ取って、自身の考えを昇華させていく物語でもある。

 登場する人物達の生い立ちは何ともやるせないものであるが、でも読み終えてなにか清々しい思いがわき上がってきて、考えさせられるものがあった。


余談:

 話の内容から、ともすれば暗くなりがちであるが、祥子にかかってきた「先生?」をベースに沙智ではないかと、その存在を求めて二村直が探しに出向く展開は、ミステリアスなものでもあり、果たしてそれらしき親子が沙智であったのか、結末は読んでのお楽しみである。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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