マーガレット・ミッチェル著
         『風と共に去りぬ』 (その2)



                   
2012-02-25


(作品は、マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』(大久保康雄/竹内道之助訳)
新潮社による。


              

 本書 1993年2月刊行

 マーガレット・ミッチェル:

 1900年ジョージア州アトランタで生まれる。 幼年期に南北戦争を生き抜いた母方の親類の影響を大きく受ける。ワシントン女学院を卒業、その後医学を志し、スミス女子大学に入学。 母親が病死したため学業を諦めアトランタに戻る。 アトランタ ・ ジャーナルに入社し日曜版のコラム執筆者として6年ほど勤める。 骨折で3年ほど松葉杖生活、ものを書いてみようと、父や兄の集めた資料をもとに南北戦争の発端から再建時代までのことを描く。 しかし日の目を見ることなかったが、偶然の機会から大出版社に拾い上げられることに。

物語の大筋: 図書館の紹介文より

 輝くような美貌と炎のように激しい気性のスカーレットは、アシュレにいちずに思いを寄せているが、彼は心優しいメラニーと結婚。 スカーレットはそれへの腹いせに愛してもいないメラニーの兄と結婚。そして南北戦争では南軍が敗北し、スカーレットはわずか十六歳で未亡人に…。 一族を飢えから救うために手段を選ばぬスカーレットを陰に日向に支えるレット。 二つの強烈な個性は、互いに反発しあうが、スカーレットの打算から二人は結婚。 穏やかな生活が訪れるかと思われたが、愛娘の死を契機に運命は暗転し、レットへの真実の愛に目覚めたとき、レットはスカーレットから去っていった…。 南北戦争を背景に展開する一大ロマン。

主な登場人物:

<タラ>

オハラ家
父親 ジェラルド・オハラ
母親 エレン
長女 スカーレット
妹 キャリーン
(キャロライン・アイリン)
妹 スエレン
(スーザン・エリナー)
召使い マミー
従僕 ポーク
(妻 ディルシー、娘 プリシー御者 トビー

ジョージア州北部、タラの大農園を営む。

・ジェラルド:家柄も富もなく21歳の時アメリカに渡ってきたアイルランド出身
、60歳、小男で強情で心臓が強く激発しやすい男。
・エレン:従兄のフィリップ・ロビヤールが彼女の人生から消えてしまったためサヴァナを去り28歳年上のオハラと結婚、32歳。
・スカーレット:父親に似てわがままで見栄坊で強情な娘。見たところ愛らしく、魅力的で明るい陽気な令嬢。16歳。
・マミー:好奇心旺盛な大柄な老女、アフリカ人。

タールトン家

オハラ家と親密交際。
父親 ジェームズ・タールトン母親
スチュアート、ブレント、ボイド、トム
へティ、カミラ、ランダ、ベッチー

ウィルクス家
父親 ジョン・ウィルクス
  アシュレ・ウイルクス
娘 インディア
(20歳)
  ハニー・ウィルクス

オハラ家と親密交際。
トウェルヴ・オークスにある。親切で、いんぎんな家。

・アシュレ メラニーと結婚。スカーレットが愛するひと。一人書物や音楽に親しみ、詩を作ったりすることを愛する。

フォンティン家

オハラ家と親密交際。ミモザ屋敷。医師。
夫妻、アレックス、トニー、サリー

カルバート家

オハラ家と親密交際。
息子レイフォード、ケード、妹キャスリン

スラッタリー家

貧乏白人
トム・スラッタリー、娘エミー
<アトランタ>

ハミルトン家
チャールズ・ハミルトン
(没)
スカーレット夫人
息子 ウェード・ハンプトン
ピティパット叔母
メラニー
ヘンリー伯父

夫のチャールズが病死しチャールズの実家に子供を連れてタラを離れ暫く身を寄せる。
ピティ叔母とメラニーの二人で暮らしている。
兄のヘンリー伯父とピティ叔母は気が合わずに別に住んでいる。

・メラニー 夫のアシュレが戦場に出ている。外見はきゃしゃでネズミのような貧弱な女。しかし優しい中に凛とした強い面を隠し持っている。

レッド・バトラー

チャールストン生まれ、士官学校から追放され、結婚相手から逃れ社交界からも締め出される。北部で暫く過ごし、南部にやってくる無頼漢。スカーレットに興味を抱く。

ウェード スカーレットとチャールズ・ハミルトンとのあいだに生まれた男の子。
エラ・ロレーナ スカーレットとフランク・ケネディとのあいだに生まれた女の子。
ボニー スカーレットとレット・バトラーのあいだに生まれた女の子。
ボオ メラニーとアシュレとのあいだに生まれた男の子。

 補足:アンダーバーの人物は注目の人物。

読後感:

第四部、五部:(1866年から戦後の再建時代の73年まで)ジョージア州アトランタ舞台 

 「風と共に去りぬ」がこんなにおもしろい作品であったとは知らなかった。 南北戦争の歴史のことも知りたかったけれど、それも一般市民の側から見たところからよけいにどんな状況にあったかを知ることも出来た。

 登場するスカーレットとレット・バトラーのお互い似通った素直になれない性格、強情で皮肉な言動でお互いが理解できなくすれ違う。 そしてスカーレットが愛しているアシュレに対する思いと、アシュレを心底愛するメラニーに対してスカーレットが当初は死んでしまえばと思いながらも、アシュレにメラニーを頼むと言われてメラニーと赤ん坊の面倒を見るスカーレット。 一方メラニーはスカーレットに、赤ん坊も共に死ぬのを命がけで助けられ、タラでも食べ物もなく、貧しい中をスカーレットの力で助けられている恩を忘れず、スカーレットを心から愛しているというメラニーという女性。 メラニーの外見からは想像できない真に強く優しい性質で周りの人の信頼を勝ち取っていくところから知らず知らずスカーレットもメラニーのことを大切な人と理解するも手遅れで・・・。

 レットとアシュレは同じような人間でありながら、住む世界が違うことで二人も悩む。
 そんな四すくみのような人間関係に加え、スカーレットの母親のエレンの存在、アイルランド育ちの父親のジェラルドの豪放磊落な人間の魅力。

 人間模様の面白さの他に、三人の男性と結婚し、何度となく地獄に堕ちながらも、力強く前向きに立ち上がっていくスカーレットの姿は素晴らしいの一言に尽きる。 勇気を与えられる。

 メラニーが死に、スカーレットにとって何が正しかったのかを知ることになってレットから痛烈なる言葉を受けることになるシーンで、スカーレットはこどもであること、そしてこどもであることを願っていたレットの心中が胸を打つ。

印象的な言葉: 

メラニーが死に、はじめてスカーレットにとってメラニーが大切な人であったことに気づく、そしてアシュレのことを愛してはいなかったこと、レットのことを初めて愛していたと感じてレットに愛を告白しようとしたときにレットから返された吐露:

 今までどれほどスカーレットを愛していたか。
「おれの愛はさめてしまったんだ」 ・・・
「きみは、(アシュレのことを)うまく愛するふりをしてきたのか――ずっと今夜まで。 ・・・
 おれはきみを愛していた。 だが、それを、きみに知らせることができなかつた。 きみは、きみを愛する人間にたいしては、じつに残酷だからね、スカーレット。 きみは、その愛をとりあげて、鞭のように、それをその人の頭の上でふりまわす女だ」 ・・・

「結婚したときも、きみがおれを愛していないことを知っていた。 おれはアシュレのことも知っていた。 だが、おれは愚かにも、やがておれを愛させることができると思った。・・・
 結婚して、きみを守り、きみを幸福にするものなら、なんでも思うようにやらせてやりたかった――ちょうどボニーをかわいがったのとおなじように。 きみは苦闘の最中だったからね、スカーレット。 ・・・・

 おれは、きみをこどものように遊ばせておきたかったんだ。 ――きみはこどもだった。 勇敢な、おびえた、強情なこどもだった。 いまだって、まだきみはこどもだ。 こどもでなければ、あんなわがままな残酷なことができるはずがない」 ・・・
「おれたちが似合いの人間だということは明らかだ。・・・

 アシュレのことは、やがてきみの心から消えるだろうと思った。 ところが ・・・ できるだけのことはこころみたが、なんの効果もなかった。 それでもおれは、やはりきみを愛しつづけたよ。 ・・・
 いつも――きみにはアシュレがついてまわった。 そのため、おれは気が狂いそうだった。」
 ・・・
「だが、あのころはボニーがいた。 だから、万事が終わったわけではないと思った。 おれは、ボニーをきみと考えたかった。 つまり戦争や貧乏でそこなわれない以前の少女にかえったきみと考えたかったのだ。 あの子は、きみとそっくりだった。 とてもわがままで、勇気があって、快活で、元気だった。 だからおれは、あの子をかわいがり、甘やかすことができたんだ――ほんとうは、あのように、きみを愛したかったんだ。 あの子は、きみとちがっておれを愛してくれた。 きみがうけようとしなかった愛を、あの子にあたえることができたのは、しあわせだったと思う ――あの子が死ぬのといっしょに、おれはなにもかもうしなった」


   


余談:

 この作品の作者ミッチェルはこの長編作品をただ一作だけを残して夭折したという。 誕生のいきさつにも運命が感じられ、作品の内容、誕生のいきさつなんかを知ると惜しい人だったなあと。

背景画は映画「風と共に去りぬ」の一場面(?)から。

                               

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