万城目学著 『バベル九朔』
 

 

 

              2016-07-25



(作品は、万城目学著 『バベル九朔』  角川書店による。)

           
 
 初出  「文芸カドカワ」2015年5月号〜2016年3月号
 本書  2016年(平成28年)3月刊行。

 万城目学(まきめ まなぶ):(本書より)

1976年大阪府生まれ。京都大学法学部卒。化学繊維会社勤務を経て、雑居ビルの管理人を務めながら小説家を目指す。2006年に第4回ボイルドエッグ新人賞を受賞した「鴨川ホルモー」でデビュー。その他の著書に「鹿男あをによし」「ホルモー六景」「プリンセス・トヨトミ」「かのこちゃんとマドレーヌ夫人」「偉大なる、しゅららぼん」「とっぴんばらりの風太郎」「悟浄出立」等、エッセイ集に「ザ・万歩計」「ザ・万遊記」「ザ・万字固め」がある。

主な登場人物:


九朔満大(27歳)
(みつひろ)
<俺>

テナントビル「バベル九朔」の管理人、5階に住む。オーナー(三津子)の一人息子としてビルの管理人を務める傍ら、作家を目指して小説を書く日々。
<俺>には絵の中の扉を介してバベルの塔に入れる能力が備わっているらしい。

祖父と娘三人

祖父 満男 五階建ての商業ビルを建てた。俺が2歳の夏、脳卒中で世を去った。一方で影の存在のバベルの塔をコントロールしている。
・長女 初恵おばさん ミシンの部品工場の女社長。
・次女 富二子 保険の代理店。
・三女 三津子 バベルを受け継ぐ。

バベルの住人
(現実の世界)

・地下一階 「SNACK ハンター」千加子ママ 70歳近い。
・一階   「レコ一」 レコード屋。店長は痩せぎすな長髪男、30歳くらい。
・二階   「清酒会議」(和風居酒屋)双見くん、25歳。
・三階   「ギャラリー 密」密村オーナー
・四階   「ホーク・アイ・エージェンシー」四条さん、探偵事務所。口ひげ、中年体形の40代後半位。

謎のカラス女 敵なのか、味方なのか不明な大きなサングラス(外したときの目はカラスの目玉のよう)、黒装束。私たちは太陽の使いと。
謎の少女

九朔満男の娘(九朔初恵)。影として九朔満男が作ったバベルの塔に引き込まれ、55年間閉じ込められて現実の世界には戻れない。
<俺>を塔に引き入れるよう???

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

作家志望の俺が管理人を務める雑居ビル「バベル九朔」では、近頃、奇妙な事件が頻発。ある絵に触れた瞬間、なぜか俺は見知らぬ湖にいて…。万城目ワールド10周年。新たな幕開けを告げる、最強の「奇書」誕生。

読後感
  

 謎だらけの小説。現実に住むバベルと謎に包まれたバベル。どうも現実の5階建ての雑居ビル(「バベル九朔」)と虚構の世界にある大九朔(九朔満男)が作ったというバベルが絵の中の扉を通して入れる(しかも入れる人間?は限られている)らしい。その虚構のバベルの塔を破壊して消滅させようとする勢力と存続させようとする勢力の戦いなのか?

 その虚構のバベルの塔に入る鍵となる人物、それが俺のようだ。そして俺がその虚構の塔に引き込まれ不思議な世界を体験する万城目ワールドが展開されると言うことか。

 時に25年前に脳卒中で死んだ祖父九朔満男が現れること自体謎、それもその筈。影でしかないため他人の姿で現れるか、電話を使って声で指示したりささやいたりと。そして悲しいことに少女は虚構のバベルの塔に55年間閉じ込められた祖父の娘九朔初恵の影とは。
 果たしてラスト、俺は現実の世界に戻れたのか?

 作家を目指して3年間かけて書き上げた作品のタイトルはまだ決めなかったけれど夢の中ではサイン会の場面が。そこに現れた四条さんがささやく言葉をつぶやくか、夢の中に入り込んでこれる人物もまたワールドの中の出来事と、読者の頭の中は混乱しきり。
 
 いったい万城目学ぶという作家はどういう作家なのか。著書の題名を見ても普通じゃ考えられない。やはり尋常でない思想の持ち主らしい。
 結局分かろうとして最後まで読んでしまったが、やはりよく理解できなかった。「奇書」「奇書」「奇書」だ。

  

余談1:

カルロス・ルイス・サフォンの「風の影」、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」を思い起こさせる。  

余談2:

 たまたま同じ時期に「時の罠」(文春文庫)を読んでいたら万城目学の短編作品が載っていた。表題は「トシ&シュン」。これもチョット変わった表現で説明に窮するが、その中で彼と彼女の恋人?がお互い相手のやりたがっている物(彼は小説家を目指している。彼女は役者を目指している)に励んでいるが応募しても上手くいかない。そんな相手に自分の提案を受け入れることを条件に最後の挑戦を提案する。その条件設定にカラスが白いビニール袋を落とすエピソードが登場。まさに「バベル九朔」に登場するカラスと何故か同様のシチュエーションにこの作家カラス好き?

背景画は、清流をテーマに。(自然いっぱいの素材集より)

                    

                          

戻る