s


久坂部羊著 『 祝葬 』 











                  
2022-10-25

(作品は、久坂部羊著 『 祝葬 』           講談社による。)

             

初出  祝葬        「メフィスト」2009年VOL.1
        真令子       「メフィスト」2015年VOL.3
    ミンナ死ヌノダ   「メフィスト」2016年VOL.2
    希望の御旗     「メフィスト」2016年VOL.3
    忌寿        「メフィスト」2017年VOL.2
本書  2018年(平成30年)2月刊行。

久坂部羊(くさかべ・よう)(本書による)

 1955年大阪府生まれ。小説家・医師。大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部附属病院にて外科および麻酔科を研修。その後、大阪府立成人病センターーで麻酔科、神戸掖済会(えきさいかい)病院で一般外科、在外公館で医務官として勤務。同人誌「VIKING」での活動を経て、「廃用身」(幻冬舎)で2003年に作家デビュー。
 近著に「院長選挙」(幻冬舎)、「カネと共に去りぬ」(新潮社)がある。

 主な登場人物:
[土岐記念病院]関係者

初代医院長 土岐騏一朗 創始者、当初は土岐病院。
二代目   土岐伊織 土岐記念病院に改称。24年間院長。
三代目   土岐長門(伊織が院長時、副院長)1年ほど。
四代〜五代目 外部から院長を招く。
六代目   土岐冬司
(とうじ)。全国で有数のがん医療センターに。

土岐佑介
父親 冬司
(とうじ)
母親 信美
(のぶみ)
兄 信介

大学時代の佑介は虚無的というか冷めているというか。
卒業後神経内科の医局に。
親友の手島に「君が僕の葬式に来てくれるようになったら、その時は僕を祝福してくれ」と。37歳で亡くなる。
・信介 土岐一族の早死に対し、91歳でも生存。

土岐伊織
妻 真令子
(まれこ)
息子 冬司
(とうじ)

佑介の祖父。曾祖父の騏一朗とは別の意味で問題ある人。登山で滑落死、52歳。
・真令子 伊織の愛情に支配されていたが・・・。
川島芳美とは親密な関係で、何でも相談していたが・・・。

土岐冬司
妻 信美

49歳で胃がんで亡くなる。優秀かつ努力家で大学に嫌気さし、土岐記念病院に就職、がん医療センターに変貌させる。
早期発見(検診)と全摘術を主義に。
・妻の信美 夫に献身的。夫の考えに心酔。

土岐覚馬(かくま)
父親 長門
(ながと)
母親 

土岐記念病院でなく東京の都立病院で10年間消化器内科医、その後下諏訪の湖畔に小さなクリニック開業。医師会に入る。
・長門は伊織の弟 院長1年足らずで風呂で溺死、50歳。

土岐騏一朗(きいちろう)
妻 フサ

佑介の曾祖父(おじいさん)。土岐病院の創始者。
問題ある行動の持ち主。評価は二分。肝硬変で亡くなる、55歳。

手島崇(てじま・たかし)
妻 貴子
(たかこ)

土岐佑介の親友。東陵(とうりょう)大学医学部の同期生。
結婚して佑介を招いたとき、「土岐の一族は早死の運命。どうせ長生きしないから結婚しない」と。

志村響子

貴子と共に看護師。佑介の彼女、28歳。
ネットで堂々と死と戯れている。

川島芳美(よしみ)

土岐伊織は従兄。彼の母(フサ)と私の母は姉妹。伊織はわたしより5歳年上。伊織に恋しているも、伊織の結婚相手は上条真令子。伊織が登山で滑落時、私と一緒に登山中のこと。

是枝一太
祖父 甚一

信濃中央医師会の会長。
・祖父の甚一は“中興の祖”と言われ、医師会に入らない土岐騏一朗を面白くなく思っていた。

 物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
 
「もし、君が僕の葬式に来てくれるようなことになったら、そのときは祝福してくれ」。自分の死を暗示するような言葉を遺し、37歳の若さで死んだ医師・土岐佑介。医師家系に生まれた彼は、自分たち一族には「早死にの呪い」がかけられていると語っていた…。
 
 読後感:

 土岐一族は代々医者を輩出しているが、どうも土岐家は早死にする傾向があった。最も若くして亡くなったのは土岐佑介。37歳で亡くなる。その死の真相は「祝葬」に。

 佑介の祖父土岐伊織の死(享年52歳)に関しては、妻真令子
(まれこ)に対する愛情の異常さ、伊織を恋する川島芳美(よしみ)と真令子の親密な関係とが相まって、おぞましい結末が待っていた。その真相は「真令子」に。

 土岐記念病院と関係することなく下諏訪の湖畔に小さなクリニックを開業する土岐覚馬
(かくま)は、土岐記念病院の創始者土岐騏一朗に対する評価が。
 一方、土岐病院の創始者に対する評価が二分していることで、どんな医師だったかを調べる。また、土岐家の医師たちの早死にのことを知る。「ミンナ死ヌノダ」に。

「希望の御旗」では、信美
(のぶみ)は土岐冬司と結婚し、信介と佑介を出産、でも同時に冬司の母真令子の死、冬司の叔父長門の死に当たっていた。
 冬司の主義、“がんは早期発見、全摘出で患者を救うことが医者の使命”と。頑張ってがんを克服する旨から、自身のがん発症に対し、治療の苦しさの限界から「治療を辞めたい」と言うも、信美は冬司の主義を貫くように叱咤。その結果は・・・。

「忌寿」では、佑介の親友手島崇
(たかし)(88歳)は検診センターの名誉院長として、長生きするもあちこちに不具合を抱えながらも、患者とのやりとりをしている。
 土岐家の早死にの中で、佑介の兄信介が長生きしていることから、そのわけを知りたく尋ねる。果たしてそこで見た姿に・・・。

 本作品、土岐一族の生い立ちから、家族模様を描写しているが、医療のあり方に対する考え方の問題を提示している。果たして医者の仕事は患者の病に対してどこまで治療をするのがベストなのか、患者の意思はどこまで取り入れられるのか。
 治療をしないことが患者やその家族の幸せにつながるのか。大きな問題を含んでいる。


余談:

 自分ももう十分な年になったので、検診も受けず、病気にかかったときも、進んで治療を受けるようなことは御免被ると考える。
 早く自然死が出来るようになればいいと考えるが、世の中にはそれを悪用しようとする輩が出てくることから、なかなか実現できないのだろうが。
 

 

                    

                          

戻る