読後感:
天智天皇(中大兄皇子)、天武天皇(大海人皇子)、藤原鎌足、不比等、額田王など歴史上の名前は知っているが、どういう時代で、どういう関連があるのかといったことは忘れてしまっている。そんなこともあって当時の歴史を知る上で非常におもしろく読めた。
それにしても、昔は一夫多妻、妃として中大兄皇子などは娘の4人も大海人皇子に与え、伊賀の采女(うぬめ)に生ませた大友皇子を新天皇に据えるなど、自分の家の将来を誰に託すかは大きなかけであった。
歴史小説ということで、書記やその他の資料の矛盾点や著者の解釈が所々に挿入されていて、史実との違いなども分かり、歴史好きな人にとっては、好ましい読み物といえる。この小説は大変な長編で、講談社の日本歴史文学館の最初に位置するものにこれがあり、文字が普通の単行本と同じく、大きくて読みやすいので、大変有り難かった。
さて、物語のおもしろさというか、小説という意味で見た場合、少し気になることがある。少し前、黒岩重吾のエッセイ「とっておきの手紙」(2004年刊行
たちばな出版)を読んだ時に感じたのだけれど、そのエッセイの場合、文章の調子がすごく固いという感じを受けた。著者は全身麻痺の難病で三年間の入院生活(治るのかどうかも判らず前途を考えるとどうなるのか不安の状態であろうことは容易に想像出来る)、さらに入院中の株の大暴落で大きな借金を抱え込み、これまた何故自分だけこんな目に遭うのかという、死を思わずにはいられない心境であったそうだ。生き続けられた理由は何だったのかと思わずにはいられない。
そんな苦しい体験を通しての文筆業であるから、それが文章に表れているのだろうと・・・
そんな感じが、この小説を読んでいても感じてしまう。やはり著者その人の姿が映し出されると言うことであろう。
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