熊谷達也著
        『邂逅の森』






                   
2013-07-25


 (作品は、熊谷達也著 『邂逅の森』    文藝春秋による。)

               


本書 2004年(平成16年)1 月刊行。

熊谷達也:(本書より)

 1958年、宮城県仙台市生まれ。東京電機大学理工学部数理学科卒業。中学校教員、保険代理店業を経て、97年「ウエンカムイの爪」で第10回小説すばる新人賞を受賞して作家デビュー。2000年、凶悪犯罪の陰に見え隠れするニホンオオカミを追った「漂泊の牙」で第19回新田次郎賞受賞。著書に「まほろばの疾風」「山背郷」「マイホームタウン」がある。東北地方に伝わる伝承や民話をベースにした作品群は、民俗学会からも注目されている。 

主な登場人物:

松橋富治
父親 冨左衛門
母親 テル
兄 冨雄

秋田県荒瀬村打当(うっとう)集落に生を受ける。今年(大正3年)25歳、鉄砲の腕には自信のあるマタギ(猟を生業にする)。
鈴木善次郎

善之助狩猟組の頭領。
打当の狩猟組には六之丞、伊之介、善之助、斎兵衛の4つの組がある。頭領はそれに相応しい人間がなるならわし。

忠助 六之丞組の若衆。富治の同級。片岡長兵衛の家の下働きの経験有り。

片岡文枝
父親 長蔵

比立内集落の地主長兵衛(屋号)のひとり娘。
富治、文枝と隠れて逢い引き、孕ませる。
文枝の人生はやがて富治にも・・・。

小太郎
姉 イク

山形県大鳥鉱山での富治の弟分。雪崩で九死に一命を得た小太郎は村(八戸和)に帰る。
姉のイクはいわく有りの女。やがて富治と関係が・・・。



物語の概要: 図書館の紹介文より

「家に帰って、妻の手を握りたい」。熊に足を喰われ、朦朧とする意識の中で富治はそのことだけを考えた。奔放に生きてきた富治を巨大熊に向かわせたものは何か。俊英がおくる感動の物語。

読後感:

 この作品、以前に一度手にして早々と投了していた。マタギという行動、描写になじめなかったからだ。それが何年経ったが、色んな作品を読んで、再び直木賞作品と言うことでどんなところが良かったんだろうとの思いで再び手にすることに。

 最初の章を乗り越えてからは物語の中に引き込まれていった。
 松橋富治というマタギの一人の男の人生を活写したと言っても。若い頃のクマ狩りの模様、小作の倅ながら村の地主の一人娘に手を出し、両親にも苦渋を与え村を追い出されることに。村を出て阿仁鉱山での採鉱夫暮らしでマタギを諦め、別の興味を見出しはしても、晴れて友子衆となり、山形県の大鳥鉱山に移り住んで弟分(小太郎)を持つようになると、昔のマタギの腕がうずく。

 小太郎の姉イクと富治の間、富治と文枝の間、それとは別に狩猟組の頭領のこと、沢田喜三郎との関係、富治とヌシの死闘、山の神への崇拝と様々な展開に、マタギという職業?に打ち込める思いが根底に、人生の生き様を形作っている富治の哲学がうらやましい。
 文枝とイクの生き様、子供を思う母親の姿もこれまた見事と言うしかない。
 やはり読んで良かったと思える作品であった。

 

余談:
 
 直木賞の専攻評がやはり気になって調べてみた。どんな点に注目しているのか。
・「骨太だが無器用で、新しさなどはどこにもない。それでも、心を打つ物語の力があった。欠点も未熟も散見するが、私は第一にこの作品を推した。物語の力こそが、いま小説に求められているものだ」(北方謙三らしい見方だなあ)
・「力わざである。骨太の作品である。」(阿刀田高)
・「読後の感動は強く、本作品を推すについて、私にためらいはなかった。巨きな存在感のある作品で、しかも〈力〉とともに〈情感〉も濃く、つややかだ。」(田辺聖子)
・「活字を追うにつれ強引に物語の世界に連れ込まれた。」「洗練された初恋の女性の描き方は感心しないが、遊女上がりの女房が魅力的だ。この小説は、素朴な人間ほどリアリティがある。」(林真理子)
・「狩りを生涯の仕事にした一人の男の人生を、揺るぎのない筆致で堂々と書き切った秀作である。」(井上ひさし)

              背景画は秋田県打当にあるマタギ小屋より。(打当温泉のHPより)             

戻る