幸田真音著
        『日銀券』







                   
2010-12-25



 (作品は、幸田真音著 『日銀券』 新潮社による。)

         

初出 「週刊新潮」2003年8月から2004年9月に連載。
本書 2004年10月刊行

幸田真音:

 1951年、滋賀県生まれ。米国系銀行や証券会社での債券ディーラーや外国債券セールスなどを経て、1995年「ザ・ヘッジ 回避」を上梓(じょうし)し、作家に転身。「偽造証券」「日本国債」「マネー・ハッキング」「代行返上」など多くの作品がある。

 

主な登場人物:

中井昭夫(61歳)
妻 敬子(没)
息子 和弘
息子の嫁 由佳

東亜大学の学者先生。 国際経済学の研究一筋。 世間の評価は理論派、市場からの信認がもっとも厚いとも。やや執行部寄りではあるが、理屈に合わなければ反対もすると。
息子の和弘は新聞社勤務、今年経済部(金融関係は扱わない)に。
息子夫婦は庭の離れに住む。

芦川笙子(しょうこ)
(39歳)

邦銀出身、東都大学院で国際金融を専門、教鞭を執り、半年ばかり英国に。 新たに日銀副総裁に英国から帰国して就任。 新しい風を巻き起こす。 独身、一度短いが結婚歴あり、子供なし。
日銀政策決定会合の9人のメンバー

・総裁 真山康弘(日銀出身)
・副総裁二人 高見秀一(財務省出)、芦川笙子(邦銀出身)
・ボードメンバー(6人)
 笹本四郎 任期の5年目の最古参
 渋谷栄三(67歳)財閥系の旭日商事出身、4年目。
 谷村晃
 中井昭夫 新任
 二宮太一郎
 宮崎遼子(56歳)大学教授出身、激しい好き嫌いをあえて隠そうとしない。笙子に対して冷たい態度。

三上健一
部下 坂井敏道

金融機関相互の資金の貸し借りを行う短資株式会社で、資金営業部一筋の部長。
社長の遠縁に当たる坂井が移動してきたのに対し、育てることに熱心。(育てるときの解説で読者にも理解出来るようにしている。)

カウフマン博士(70歳) ニューヨークに本拠を置く大手投資銀行に籍を置き、以来金融畑一筋に生きてきた著名な経済学者。日銀政策決定会合のボードメンバーに笹本四郎の後任として入ってくる。


物語の概要: 図書館の紹介文より
 (上巻)
 暴れる市場をいかに飼いならすか…。量的緩和を巡る暗闘の中、美貌の日銀副総裁・笙子は空前絶後の秘策を打った。日銀奥の院に徹底取材、その政策決定を通して国際市場の動向を予見する経済小説。
(下巻)
 米国債が格下げされた。狙われているのは日本市場なのか。ディーリング・ルームのモニターは沈黙し、暴落の扉が開いた…。明日にも起こりうる金融危機をシミュレートし、その突破口を提言した話題騒然の経済小説。


読後感:

 土曜日の朝ラジオの文化放送で幸田真音(まいん)の“Main’s Room.  It’s main”という番組を目覚めているとき聞いている。たまたま作家の阿刀田高の時だったか、経済問題を題材としている作品の取材活動の話を聞き、幸田真音の作品を読んでみたくなった。
 
 株を少々やり始めて8年ほど、次第に見る世界を広げては来ているが、最近はグローバル世界になってきてアメリカだけでなく、ヨーロッパ、アジア諸国の動きまで見据えていかないと先がどうなるのか判らない世の中になっている。国債や債券市場のことも知りたくなってここいらで経済小説も読んでみようと思い立つ。

「日銀券」という作品、魅惑の女性の登場や、ミステリー調、恋愛小説調のこともあり、経済用語の解説、今の世の中の動きにもマッチし、興味津々で読む。
 日銀の金融政策決定会合の仕組みや、それに携わる審議委員間の動きなど今後も現実の動きにも関心が湧き、大正解である。
 作品の話の中身は内緒にしておこう・・・。

 それにしてもゼロ金利の量的緩和政策が続く中、いつ緩和策の転換が起こることになるかは関心事であり、その将来予測を暗示するかのような物語の展開は興味深い。
 ただ、後半になって今まで解説がなされていたのがその後判らない用語が出てきて内容が理解出来なくなったり、ミステリー調も立ち消えの感があり、一寸拍子抜けの感をぬぐえなかったのは残念である。



   


余談:
 経済小説もなかすなかいいもの。ラジオで作家の人間性がどういう人かとかど、どういう考えの持ち主かを知って作品を読むと一層楽しみが増えるのも事実。

                  背景画は日本銀行本店の建物。             

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