小杉健治著 『父からの手紙』





             2014-07-25

(作品は、小杉健治著 『父からの手紙』  NHK出版による。)

         

 本書 2003年(平成15年)7月刊行。

 小杉健治:(本書より)
 
 昭和22年、東京都生まれ。昭和58年「原島弁護士の処置」でオール読物推理小説新人賞を受賞し作家活動に入る。昭和63年「絆」で日本推理作家協会賞、平成2年「土俵を走る殺意」で吉川英治文学新人賞をそれぞれ受賞。他の著書に「それぞれの断崖」「灰の男」「残照」「父と子の旅路」などがある。


主な登場人物

阿久津麻美子
弟 伸吾
父親 伸吉
(旧姓 竹村)
母親

山部製作所の苦難を救うため高樹龍一との結婚を承諾することに伸吾は猛反対。高樹が殺されて伸吾に容疑がかかり、無実を証明することに奔走する。そして父親の行方も気かがり。
・伸吾は高樹の事務所でバイト、公認会計士を目指している。
・父親は“阿久津テーラー”に住み込みで働き、後婿養子に入り継ぐ。10年前母親と離婚、姿を消し、麻美子と伸吾の誕生日には手紙をよこす。
・母親は山部親子の支えにして二人を育てているがやがて病に伏せることに。山部の父親との仲は好い。

山部信勝
父親

麻美子がお兄ちゃんと慕っている。早くに母親を亡くし父親との二人暮らし。自分の夢を諦め父親の仕事を手伝う。
・父親は麻美子の父と同郷の親友。集団就職で上野に出てきて金型を作る“山部製作所”を興す。

秋山圭一
兄 和夫
義姉(兄嫁)みどり
父親
母親(先妻)和夫の実母
母親(後妻)圭一の実母

複雑な家庭環境の人間。腹違いの兄が“秋山電器店”を継ぐことになり、兄嫁(義姉)に好意を持っているため23歳の時家を飛び出す。犬塚殺害で9年間刑務所暮らし後出所してくる。
・和夫はみどりに男の影を見、焼身自殺(?)。
・みどりは夫の死後、香田の実家に戻り子どもを産み、男と会っているところを圭一に見られる。

歌子 秋山圭一とかっては同棲していたが、圭一が9年の刑務所生活に入って、出所半年前に面会に来なくなる。
広瀬茉莉 伸吾の恋人。

高樹龍一
部下 浅香純也

コンサルタント会社“シュプール”の社長。二度の結婚、最初の奥さんは自殺、二番目の奥さんはウツ病で入院。
麻美子との結婚に執着している。
浅香は高樹より2つ年上、忠実な部下の役目を果たしているように見えるも・・・。

野上知世
姉 知津子

赤坂の割烹料理店の若女将。高樹の10年来の恋人。
犬塚義明 所轄署捜査課の刑事、警部補。悪徳警察官の噂。
田辺昇 国会議員小原善次郎の秘書。

物語の概要
(図書館の紹介記事より)

父さんはいつも君たちのことを見守っている…。失踪した父から誕生日のたびに途絶えることなく送られてくる手紙。そこに隠された意外な真相。家族を救おうとする娘の献身的な姿から描く、揺るぎなき家族の絆。

読後感

  阿久津麻美子と秋山圭一の立場での話が短い間隔で交互に展開する。その中に父親の離婚後の時間経緯、あの事件(野上知世と高樹の死)との時間経過、 等々合間にそれらが入り込んできて頭の整理が大変。麻美子は弟伸吾の無実証明の為と自分の父親が犯人ではないかとの狭間で苦しむ。
 
 方世話になった山部家が不況で立ちゆかなくなっている、さらに山部の父親の自殺でお兄ちゃんと慕っていた信勝が壊れていくようでそちらも気掛かり。

 方や秋山圭一の複雑な家庭環境、腹違いの兄が妻の不貞にノイローゼに陥り、焼身自殺(?)か側に男がいて他殺(?)の疑惑も。密かに慕っていた義姉に対する不貞疑惑、同棲していた歌子が刑務所空けまで待っていてくれると思っていたのに姿を消してその真実探しにと。

 平行で進んでいた事柄が次第に交叉していく過程が精細に描写される。緻密で複雑でともすると盛り上がりに欠けるが落ち着いて読んでいるとなかなかおもしろい。

 ドラマにもなったようだが、“家族の絆”の物語と表現されるが、確かにそう言う感触はあるが、そんなにも心に響いてこないのは? 
 個々の場面は繊細に描写されているのだが、読者にジンと響いてこないのはちょっと複雑すぎる展開が災いしているのでは?
 果たして毎誕生日に送られてきた手紙の真相、野上知世、高樹龍一殺しの伸吾の容疑は晴れるのか、圭一に犬飼刑事を殺害させたという最後に発した言葉は何だったのか。慕っていた山部信勝は立ち直れるのか等々盛りだくさんの謎がラストへと展開していく。

  

余談:

 著者の作品で読んだのが本作品の前に刊行された「絆」、後に刊行されたのが「家族」であり、新しいところでは沢木検事シリーズという所。内容的にも緻密な物が多いのではと。
 時代を経た作風を感じるのも読書の楽しみである。 

背景画は、文庫本における「父からの手紙」(光文社文庫)の表紙。

                    

                          

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