小杉健治著 『公訴取消し』、
            『宿命』

       
(沢木検事シリーズ)



 

              2010-04-25



 (作品は、小杉健治著 『公訴取消し』、『宿命』  双葉社による。)

           
  

『公訴取消し』
 2004年5月刊行

『宿命』
  初出 「小説推理」2007年1月号から5月号に連載。
 2007年7月刊行。

 

 小杉健治:

 1947年東京都生まれ。データベース会社に勤務のかたわら執筆した「原島弁護士の処置」でオール読物推理小説新人賞、「土俵を走る殺意」で第11回吉川英治文学新人賞、「絆」で第41回日本推理作家協会賞長編賞を受賞。法廷ミステリー、時代物など幅広いジャンルで活躍中。


  

主な登場人物:

『公訴取消し』

沢木正夫
(妻 貴子)

東京地検の検事、 高松地検から東京に来て5年。妻の貴子は4年前理不尽な死を遂げ、未だに犯人も殺された理由も分からない。

岩田清彦
妻 香澄

司法研修時代の同期、沢木の親友。2年前地下鉄北千住駅のホームから転落死。事故死とされる。

朝川恭次郎
別れた妻 英子
息子 恭一(22歳)

弁護士、数多くの冤罪事件を扱ってきた人権派弁護士。少年事件も扱う。事件に没頭し、息子の恭一が引き籠もりなっていることを英子から相談され、忸怩たる思い。刈谷努の当番弁護士として動き出す。

刈谷努(21歳) 久能十一郎殺害犯として逮捕されるが、無罪を主張していたがアリバイについては相手に迷惑がかかると拒否。少年時代の不遇の環境から少年院帰り。森島社長の熱意が届いているのか?

森島
娘 美紀(高校生)

森島製作所の社長。若い頃の経験から刈谷努の身を引き受け更正させるに熱心。腹痛を訴え、大倉総合病院で胆石症の手術をしたが術後の経過優れず死亡。家族は民事訴訟を起こす。

久能十一郎
娘婿 孝之

久能興産社長、62歳。娘婿の孝之と帰宅後、孝之が何者かに呼び出された直後に殺される。家族(妻、娘、孫)は軽井沢別荘にいて留守。業務内容は金融業で消費者や事業者に融資をしている。
土岐万治 本業は医療ジャーナリスト。久能社長と親しいらしい。
柳田節雄 二部上場の営業課長。

財部(たからべ)元検事
娘 優子

沢木の先輩、今は退官しているが、ときどき沢木は訪ねている。
国松検察事務次官 沢木検事の女房役。

『宿命』

沢木正夫
(妻 貴子)

6年前高松地検から東京に呼び戻されはや6年、5年前妻の貴子が殺傷されて未解決のまま今度の事件を取り調べる。被疑者の砂堀美紀の取り調べ時「検事さんは、高松にいたことがありますか」という言葉に引っかかる。
妻の貴子は不幸せな過去を持つ風で、高松時代に結婚。

砂堀美紀 新宿のクラブ“エトワール”のホステス、30歳。北川英輝殺人事件の被疑者。早くから北川英輝の殺人を自供しているが誰かを庇っていると沢木検事は感じる。

北川英輝

マンションで殺害される、33歳。砂堀美紀とは5年前スナック“ひでこ”で一緒にアルバイトしていた。“エトワール”で美紀に再会し、その後よく出入りしている。
角野秀子 スナック“ひでこ”のママ。北川や美紀と親しい間柄。末期癌で入院する。
栗林浩一 クラブ“エトワール”の客42歳。美紀と秘密の関係だったかも。
財部(たからべ)元検事
娘 優子
沢木の先輩元検事。沢木正夫と懇意にしている。貴子が亡くなり娘の優子が沢木を慕っていることを知っている。
国松検察事務次官 沢木検事の女房役。
西尾警部補 北川英輝殺人事件の捜査を担当する警視庁捜査一課の警部補38歳。沢木検事の見方に関心を示し、単独捜査に乗り出す。
磯井仁警部補 “おとしのイソジン”の異名をもつ警部補。

小説の概要:

『公訴取消し』:

 涙を心で受け止めてください…。医療過誤の闇を抉る事件に、警察・検察のメンツが絡み、話はエキサイティングに展開していく。検事・沢木正夫シリーズ、書き下ろし長編の第1弾。

『宿命』

 恋人殺しの被疑者として地検に現れた女。女は素直に犯行を自供し、動機も十分納得できる。しかし、女の自白に疑念を抱いた検事・沢木は事件の再捜査を始める…。「父からの手紙」の著者が描く感動の人間ドラマ。


読後感
 

『宿命』

「家族」を読んで後、この沢木検事シリーズの最新作(?)に当たるこの作品を読むと全然趣を異にしていると感じる。 これはミステリー作品というか謎を求めてどうなるのかという興味に引き込まれ、先の「家族」で感じた人間の生き様という風なものを求めると肩すかしを食らう。 とはいえ砂堀美紀という女性のかたくなに自分が殺人を犯したと主張するその理由が沢木検事の生い立ち、妻貴子の生い立ちが重要な要素であることが後半検事の取り調べや警察の捜査で明らかにされていく筋書きはなかなか引き込まれる。

 この作品を読んでから果たしてこの沢木検事のシリーズを読み始めることがどんなものかと思いながら、読んでみたいとも思う。


『公訴取消し』

 なかなか推理小説として、裁判ものとして面白い作品である。 先に沢木検事シリーズの第3弾「宿命」を読んでいたため、沢木と妻の貴子の事件のことは分かっているのでなるほどと思いながら読めたのは良かったかも。謎のままだと不完全燃焼になるかも。

 検事側の立場だけでなく、弁護士側の立場からも記述されるため事件の全容が客観的に見られるのもおもしろい。 刈谷努の何かを隠しているその謎は単に無頼から来るものでなく、森島社長の気持ち、娘の美紀がお兄ちゃんと呼んで慕っていたことが果たして刈谷の心に影響を及ぼしていたのか? 意外な顛末が待っている。

  

余談:

 最近感ずるに読書の際の自分の心理状態が影響するところが大であることを思う。何も心に動揺をきたすものがなく穏やかな気持ちで読書が出来るのが一番幸せと・・・。

 

 背景画は、本書の内表紙を利用して。

                    

                          

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