小杉健治著  『 絆 』 







                   
2010-05-25



(作品は、小杉健治著 『 絆 』 (集英社) による。)

           
 


 1987年(昭和62年)6月刊行。

 

小杉健治:
 
 1947年東京都生まれ。データベース会社に勤務のかたわら執筆した「原島弁護士の処置」でオール読物推理小説新人賞、「土俵を走る殺意」で第11回吉川英治文学新人賞、「絆」で第41回日本推理作家協会賞長編賞を受賞。法廷ミステリー、時代物など幅広いジャンルで活躍中。


◇ 主な登場人物

新聞記者(司法記者)。
原島保弁護士 弁護ミスをしたことで弁護士活動を辞めていたが、水木弁護士の説得を受け弁護を引き受ける。無実を主張する。

弓丘奈緒子
(旧姓 市橋)

夫の勇一殺しの被告人。器量よしの優しい女性、43歳。近くの工場で働く行員と恋仲であったが、弓丘勇一と結婚。
父親は工場経営、母親は小学校の教諭をしていた。

市橋寛吉
市橋晴彦

奈緒子の実弟、寛吉は軽度の知恵遅れ者、
晴彦は大蔵省の役人。

夫 弓丘勇一
娘 美砂子

弓丘産業の社長、被害者。芸者の玉恵(本名中尾日出子)を愛人とし被告人の不倫を理由に離婚話があった。
美砂子、高校3年生。自分は父親の子ではない?と疑う。


読後感:

 この作品も裁判もの。ただし語り手(私)が新聞記者の司法記者というのが特異なところ。 しかも私は小さい頃被告人の奈緒子のすぐ近くに住んでいて中学生の頃の憧れの存在であったし、弟の寛吉とはおぼれかけた時に助けられたという仲でもあったため、殺人を起こしたなんて信じられないし、裁判の行方が気になるところであった。
 ということで、裁判の行方を私という立場から客観的に見ているところがみそである。

 そして裁判の進め方がどのようなものであるかを知るのもドラマなどを見るのに参考になる。とはいえ内容は被告人が自白し、犯行を認めているにもかかわらず、弁護人は無罪を主張するという異例の状態で裁判が進行していく。

 ある事件から弁護士活動を辞めていた原島弁護士が当初弁護を担当していた水木弁護士が途中で辞退し、原島弁護士にバトンタッチしたというところからも何か訳がありそうだし、どのようにして無実をはらしていくのか興味の湧くところであった。
 
 さて裁判が進行する中、私の家庭事情にも妻が流産を経験して後やっと妊娠の知らせが入ったが、妊娠初期に風疹にかかっていたため、障害を持った子が生まれる可能性があることから産むか産まないかの決断を迫られるという波乱が伴っている。しかも被告人の弓丘奈緒子の弟に精神薄弱の寛吉をめぐり、奈緒子の結婚、両親が亡くなった後将来の面倒を誰が見るのかが問題となる。事件にはそんなこともからんできて推理劇の中にも非常に大きな問題を提議されていて、考えさせられるところが多い。


余談:
 裁判員制度も1年を経過、裁判員の精神的負担が問題視されている。メディアの取り上げも減り、このまま次第に定着(?)していくのかも。
刑事物のドラマの視聴率が好調という。若者達の恋物語もイケメンのちゃらちゃらしたものにはちっとも興味がなかったが、刑事物や推理ものにもアクションだけでなく、生活臭のある実感、同情させられるような内容のものがいいという。これも時代を映しているのかなあ。

             背景画は、集英社文庫本の「絆」の表紙を利用。        

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