小杉健治著 『家族』 







                   
2010-04-25



(作品は、小杉健治著 『家族』 (双葉社) による。)

           
 

「小説推理」2008年9月号から2009年1月号に連載。
 2009年5月刊行。

 

小杉健治:
 
 1947年東京都生まれ。データベース会社に勤務のかたわら執筆した「原島弁護士の処置」でオール読物推理小説新人賞、「土俵を走る殺意」で第11回吉川英治文学新人賞、「絆」で第41回日本推理作家協会賞長編賞を受賞。法廷ミステリー、時代物など幅広いジャンルで活躍中。


◇ 主な登場人物

牧田家の家族構成
夫 孝一郎(57歳)
妻 純子(52歳)
子供 駿(高校生)
  真菜(中学生)
祖母 文子(被害者)

牧田孝一郎は自動車部品の製造会社に勤務、後3年で定年を迎える57歳。 温厚で子煩悩、人と争うことを嫌い、気が弱く優しい人間。 ただ文子に対しては別。
妻の純子は寿司の店舗で11時から夕方4時まで働く。
祖母の文子は79歳、数年前に軽い脳梗塞を患い、その後認知症がひどくなってきている。
嫁の純子とは実の母娘のように仲がよかった。

谷口みな子(43歳)
(裁判員のひとり)
認知症の母の介護をもう10年続けている。 母の発病は60歳と若く、そのときみな子は33歳。 幼い頃父に先立たれ、母は一人でみな子を育て、イベントコーデネータの仕事に就く。 結婚を約束した男も去っていき、母の面倒を最後まで見るのは当然と思っているが・・・。

古木田良介
(裁判員のひとり)

会社の合併話があり、良介は合併反対派。丁度合併先企業の役員との話し合いと重なる時期に裁判員の候補にあがる。
妻 淑江(よしえ)、子供 良太(大学1年生)、舞(大学3年生)

七瀬智久
(裁判員のひとり)

人材派遣会社に登録している。 結婚を考える女性が現れ、非正規雇用から抜け出すチャンスとして「ホワイト会計」会社の面接に向かう。 裁判員候補の話はせず。
狩野川弁護士 初めての裁判員制度の裁判に出くわす。 弁護士に成り立ての頃先輩弁護士より「自白事件こそ、気をつけろ」と言われた言葉を思いだし、今回の裁判員制度による“ホームレスによる認知症老女殺人事件”にふと不安を覚える。
室山検事 狩野川弁護士とは司法研修所時代の同期。 成績はいつもトップ。
西原裁判長
三田尻作雄 認知症の牧田文子を殺害した事件の犯人。牧田家に押し入り文子を殺したことを認めている江戸川区の河川敷に住むホームレスの男。30年前に福島の郡山から妻と子らを捨て、女と東京に駆け落ち、その後半年足らずで別れホームレス暮らしに。
露木久男 三田尻作雄と同じ所に住むホームレス仲間。証言台に立ち被告人との知られざる交流を語ることで思わぬ方向に・・。

物語の展開

 ホームレスの男が認知症の老女を殺害したとして逮捕される。男は罪を認め、新裁判員制度での裁判が始まるが…。不朽不滅の家族愛を謳う感動の法廷ミステリー。TBSドラマ「家族」の原作。

読後感:

 この作品は裁判員制度による裁判の様子を認知症の母親が殺害された事件を事例に、どのように行われ、そこに潜む課題がどのようなものであるかを明らかにしたもの。しかも認知症を抱えた家族と本人の悩み、ホームレスに対する世間の偏見、ホームレスになるに至った事情、非正規社員の就職活動といった、今日避けられない種々の課題を盛り込みながら、法廷劇として一気に読ませてしまう力を持った作品である。

 なかでも10年母親の認知症の介護に疲れ切り、裁判員に任命されるたことでつかの間介抱されてほっと感じる谷口ひろ子が、認知症の母親が殺された息子の孝一郎が被告人を見て怒りの表情でなく何か同情ともいえるまなざしで見ていることに違和感を覚え、真実を知りたいと発言する姿に、こんな事が本当に裁判員制度で起きうるのかどうかは疑問だが、拍手喝采と同時に、裁判員制度の大きな問題点を感じてしまった。
 ともあれいつ裁判員候補者に当たるか判らないが、予備知識として非常に参考となった。


印象に残る表現:

 法廷での審議で思いがけない展開になり、審議日程が1日延長されようとする。 その時裁判員の間で反対意見が出た時に谷口みな子が皆に訴えかける言葉:

「私たちはこの三日間で、被告人の三田尻作雄というひとの人生を見てきました。 そのひとが、何をやってどう裁かれるのか、私たちはそれを見届ける義務があると思うのです。 それは、なによりも優先するものではないでしょうか? 私は皆さんといっしょに、被告人の行く末を見届けたいと思います」


余談:
 はたして自分が裁判員になって裁判に臨んだ時、果たして疑問点が発言でき納得できるようなものにすることが出来るのかさっぱり自身がない。でもやはり一度はやってみたいとも思う。

             背景画は、2009年5月にTBS系で放送の裁判員制度ドラマ家族
                  〜あなたは死刑が宣告できますか の場面を利用。 
       

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