今野敏著 『 朱 夏 』
           






                 
2010-04-25





   (作品は、今野敏著 『 朱夏 』   幻冬舎による。)

                 
      

1998年4月刊行。

今野敏:
 
 
1955年北海道三笠市生まれ。 上智大学在学中の78年「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。 卒業後、レコード会社勤務を経て、執筆に専念。

 

物語の概要 

 刑事の妻が誘拐された。救出の期限は3日。樋口顕42歳―。とびきり無骨で一途な男が突き止めた驚愕の真相とは…?不撓不屈の刑事魂を活写する迫真の書き下ろし本格警察小説。


主な登場人物

樋口顕
妻 恵子
娘 照美

警視庁捜査一課第三強行係係長。新玉川線のたまプラザ駅の近くに住む。いつも人の顔色を見ているような自分の性格に劣等感をもつ。しかし警察内部では人望がある。
妻の恵子は翻訳の下訳のアルバイトをしている。
照美は大学受験生。冬休み友達と三泊四日のスキー旅行に行きたいといいだす。

氏家譲 荻窪署生活安全課の巡査部長。大学時代心理学を学ぶ。樋口に対し「何でもかでも背負い込んでしまう。それで身動きがとれなくなってしまう。自分の中に感情を抑え込んでいるんだよ。それは他人を信用していないからさ」と評す。 
天童隆一 捜査一課第一強行犯係官。(捜査一課の中で課長、理事官に次ぐナンバースリーの立場)
安達弘 代々木署地域課所属、初台の交番に勤務。捜査本部に引き揚げられたことがあり、樋口を手本にしたいと想っている。
大森雅之 高校生風、樋口のアパートの周辺をうろつく不審者として・・・。
城島直己 初台に住む翻訳家。樋口恵子に下訳の仕事を依頼している。


印象に残る表現:

・氏家の言葉  

「仮面をかぶって生活している連中は、人格が未熟で人間関係にも習熟していない場合が多い。 大人になりきれないやつらだ」

・恵子の言葉  

「なんでも出来ると思っている。 自分のやることは何でも許されると信じている。」
「まず第一に兄弟の中で社会性を養う。三人以上が望ましい。三人になると社会が出来る。」

 留学時代に学んだこと:

「アメリカ人は正しいと思ったことを実行するのに躊躇しない。 まずはやってみる。 それがアメリカ人のエネルギーなのだ。 やってみてダメだったら他の手を考える」

・事件解決後。。。。天童の言葉 

「私ら大人が自分たちの生活にもっと自信を持てばいいんだ。 青春なんざ、くそくらえだ。 いいか、青春の次には朱夏が来る」
「朱夏?」
「そう朱色の夏。 燃えるような夏の時代だ。 そして、人は白秋、つまり白い秋を迎え、やがて、玄冬で人生を終える。 玄冬とは黒い冬、死のことだ。 最も充実するのは夏の時代だ。そして、秋には秋の枯れた味わいがある。 青春ばかりがもてはやされるのはおかしい」


  

余談:

 これまで今野敏の作品で竜崎という原理原則を哲学とする自信家タイプの官僚の人間を中心としたものを見てきたが、今回の樋口、氏家のコンビでは自信のなさ、一寸はすっぱな反骨精神の持ち主の主人公達をみることになった。 ただ夫婦の何とも言えない信頼関係、子供の育て方の問題については、共感するところ、うらやましいところは引き続き醸し出されている。


背景画は本書の内表紙を利用して。

                    

                          

戻る