今野敏著 『隠蔽捜査』、
            『 果断 』
 (隠蔽捜査2)、
                      『 疑心 』(隠蔽捜査3)





                 
2010-03-25




   (作品は、今野敏著 『隠蔽捜査』、『 果断 』、『 疑心 』 新潮社による。)

                 
        

 「隠蔽捜査」 2005年9月刊行。
  「果断」(隠蔽捜査2)2007年4月刊行。
  「疑心」(隠蔽捜査3)2009年3月刊行。 

今野敏:
 
 
1955年北海道三笠市生まれ。 上智大学在学中の78年「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。 卒業後、レコード会社勤務を経て、執筆に専念。

 

物語の概要 

隠蔽捜査: 
 警察組織を揺るがす大事件に直面したエリート・キャリア。霞ケ関の本庁舎で、キャリアの孤立無援な闘いが始まった。組織を、そして自らを守るため、彼が下した決断とは…。警察小説の新境地を拓く書き下ろし長篇

果断:
 混乱する現場で対立する捜査一課特殊班とSAT。大森署署長に左遷され、現場で指揮する竜崎の決断は? 吉川英治文学新人賞受賞作に続く、シリーズ第二作。

疑心:
 異例の任命で、米大統領訪日の方面警備責任者になった竜崎のもとに、大統領専用機の到着する羽田空港でのテロの情報が…。虚々実々の警備本部で竜崎の心は揺れ動く。あの「果断」に続くシリーズ第3弾登場。


主な登場人物
(共通的に登場する人物中心)

竜崎伸也
妻 冴子
娘 美紀
息子 邦彦

警察庁長官官房総務課課長、東大卒のキャリア組の官僚、46歳。 マスコミ対策その他何でも屋。省内では変人と思われている。 伊丹に対しては幼い頃いじめを受けたことに対し対抗意識を持っている。原理原則に照らし合わせて動く主義。
妻は夫からは「とにかく家のことはおまえに任せてある」「俺は国のことを考える。 おまえは家のことを考えてくれ」といわれる。
娘は大学卒業控え、就職活動中かつ親の勧める相手との結婚に悩んでいる。
息子は一流私立大学合格も、父親の東大以外だめの一言で浪人中。 引きこもりの気。
「隠蔽捜査」の後大森署の署長に降格人事。
「果断」「疑心」では大森署での奮闘。
「疑心」では米大統領訪日の警備で第2方面警備本部長を拝命する。

伊丹俊太郎

警視庁刑事部部長。 竜崎と小学校5年で同級の幼なじみ、竜崎と同期入庁の私立大学卒のキャリア組。 性格は竜崎と相反し、おおらかで陽性、マスコミにも受けがよい。
重要案件は現場で指揮をとる主義。
「隠蔽捜査」以降も留任。


読後感:
 

「隠蔽捜査」

 この作品は殺人事件の犯人捜しが中心でなく、官僚の仕事のやり方、対立、幼なじみの男との対決、家庭の出来事とその対処方法、など特に生き方に対する信念、よりどころといった、迷った時にどう対処するか根本の所を抑えているのがたまらなくいい。 そして有能な官僚とはどういう生き方をすべきかというのを少し格好よすぎるぐらいに痛快に展開、妻の冴子の潔さも格好良く、幼なじみの伊丹の態度も好感が持て、実に面白い作品であった。

「果断」:

 副題に「隠蔽捜査2」とあるように“隠蔽捜査”の第2弾である。大森署に降格人事で異動させられた竜崎が、今度は大森署という所轄での事件にどう対処していくかが展開される。 中頃までは第1弾の「隠蔽捜査」の方が遙かに面白いと思っていたが、立てこもり事件での竜崎が指揮する前線本部と、伊丹が指揮する指揮本部が立ち上がり、SITとSATが関わり合う場面になってくると俄然面白くなってきた。 そして首席監察官の監査の場面になってくると今度はマスコミや首席監察官に対抗するための原因追及のための大森署内の一体感、本庁の伊丹との協力対応、東日新聞の福本部長とのやりとりなど一気に引き込まれていく。
 変人と周囲から見られる竜崎の姿は小気味よく、こんな風に生きられたらどんなにいいかと羨むような・・・。


「疑心」:
 

 副題に「隠蔽捜査3」とあるように“隠蔽捜査”の第3弾である。 大森署に降格人事で異動させられた竜崎が、今度は米国大統領訪日の警備として所轄の署長なのに第2方面警備本部長に任命されたことによる難事件に対処することになる。
 中でも異分子二人(畠山美奈子とエドワード・ハックマン)に悩まされる設定には実に興味がそそられる。

 一気に読んでしまった。 特に畠山美奈子に対する心の動揺はいつかのことが思い起こされる(?)ようでどのように解決するか興味津々というところ。 思いあまって伊丹に心情を吐露しアドバイスを求めてしまうことになる。 唐変木の竜崎の生き方はすがすがしい。
エドワード・ハックマンに対する対処もいかにも竜崎らしい扱いである。
 また一匹狼的戸高刑事の扱いもいよいよ手慣れた感じで小気味よい。 こんなところがこのシリーズの人気の秘密か。



  

余談:

 小説はフィクションで現実離れしたものであるが、家族の話題とか、特に妻とのやりとり、娘とのやりとり、息子とのやりとり、友達との友情といったものが入ってくるとぐんと身近なものになり、なごまされたり勇気を感じたりとなるものである。そんな近しさを感じさせる作品には愛着が湧いてくるものである。この今野敏の作品にもそんなことが含まれていて好ましい理由にもなっているようだ。


背景画は警察庁の庁舎の象徴をイメージして。

                    

                          

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