(作品は、小池真理子著 『死の島』 文藝春秋による。)
初出 オール読物 2016年11月号〜2017年11月号
本書 2018年(平成30年)3月刊行。
小池真理子:(本書より)
1952年東京生まれ。成蹊大学文学部卒業。89年「妻の女友達」で日本推理作家協会賞、96年「恋」で第114回直木賞、2006年「虹の彼方」で柴田錬三郎賞、12年「無花果の森」で芸術選奨文部科学大臣賞、13年「沈黙の人」で吉川英治文学賞を受賞。「無伴奏」「虚無のオペラ」「望みは何と訊かれたら」「ストロベリー・フィールズ」「二重生活」「怪談」「千日のマリア」「感傷的な午後の珈琲」「異形のものたち」等著書多数。 |
主な登場人物:
澤登志夫
元妻 典子
娘 里香
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定年で大手出版社(文秋社)を辞め、東京文芸アカデミー青山教室の講師を4年勤め引退、69歳。66歳の時腎臓を手術して片腎に。今再発して骨転移が分かる。48歳で離婚、今は新百合ヶ丘のマンションに一人暮らし。
・里香 11歳の時、離婚時母親側につき、以降音沙汰なし。
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三枝貴美子
妹 久仁子
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東京のラジオ局勤務でトーク番組のディレクター。登志夫が44歳の時に出会う、6つ年下。その後付き合っていたが、登志夫が離婚してからは付き合いも遠のいていた。
・妹は結婚していて、貴美子が亡くなった時に死を連絡してきた。
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宮島樹里 |
青山教室の生徒、20代。1年ほど前「抹殺」という短編を登志夫に褒められ、登志夫の退任の時挨拶をしてからお近づきになる。冴えない小娘ながら、笑顔が素敵。新百合ヶ丘に近く、あざみ野の父方の叔母章子から長期の留守番を頼まれて一人居る。 |
沼田陽一 |
かって登志夫の部下。現在は文秋社の出版部長。 |
箕輪淳子 |
駅近くの小料理屋「みのわ」の女将。登志夫が時々寄る店。 |
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土屋夫妻 |
佐久の別荘の管理人。夫 進、妻 治子 |
岡本医師 |
登志夫の主治医。 |
木村医師 |
佐久の木村クリニックの院長。 |
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物語の概要:(図書館の紹介記事より。)
文藝編集者として出版社に勤務し、定年を迎えたあとはカルチャースクールで小説を教えていた澤登志夫。女性問題で離婚後は独り暮らしを続けているが、腎臓癌に侵され余命いくばくもないことを知る。人生の幕引きをどうするか。現代を揺さぶる長編小説。
読後感:
末期がんになった主人公澤登志夫がどのように人生を終わらせるか、ある意味ミステリーもどきの展開に身がつまされる。まさに近くにそういう状態の人が居るため、なおさら関心が高かった。自身も痛みのない、迷惑のかからない最後を迎えればと考えているのでなおさらである。
中でも貴美子の生き様が大いに心ひかれた。末期の膵臓がんに冒され、治療を拒否し、緩和ケアのみ受け、全ての計画を事前に立て、それを実行に移す。葬式も拒否。そしてかって交際していた澤にはアルノルト・ベックリンの「死の島」という絵の画集を送る。
ネットで「死の島」を検索してみると5枚の絵が存在して年代によって若干趣が異なるような。
その貴美子の生き方にも触発されたのであろうと思うが、登志夫の死に対する生き様は自分らしさ、自分の意志を貫くことだった。その死に方を決心し、実行に移そうと試みるも、思いがけず挫折しそうになってしまう。さてどうなってしまうのか。興味津々。
また、青山教室の生徒である宮島樹里の存在がもう一つの大きな主題である。樹里の「抹殺」という短編の内実は自分の家族の実話をベースとしたことであった。
宮島樹里が登志夫に対し尊敬の念だけでなく、病のことを知ってなお引きつけられながらも、普段と変わらない様子で接する姿に、登志夫も安堵感からか次第に惹かれながらも、自身の死後に迷惑が掛からないように突き放す様は切ない。 |