小池真理子著  『恋』





                    2014-02-25



 (作品は、小池真理子著 『 恋 』    早川書房による。)

          

 本書 1995年(平成)10月刊行。

 小池真理子:(本書より)

 1952年、東京生まれ。成蹊大学文学部卒。編集者、フリー・ライターを経て78年に「知的悪女のすすめ」を発表、ベストセラーを記録する。85年、初のミステリ長編「あなたから逃れられない」を発表してからは、心理サスペンスの新しい書き手として注目を浴びる。89年には「妻の女友達」で第42回日本推理作家協会賞(短編部門)。
 本書は3年ぶりの書き下ろし長編で、代表作「無伴奏」と通底するコンセプトで書かれた官能的な犯罪小説である。本書は96年第114回直木賞の受賞作品。

主な登場人物:

矢野布美子(私)
(フミコ)

東京の私立大学に通う仙台の出身の学生。アルバイトに別の大学助教授の仕事を手伝うことに。

片瀬信太郎
妻 雛子

S大学の文学部助教授。官能小説“”の訳本を作成するためアルバイト学生を捜し、布美子を雇う。
妻の雛子は父親(二階堂忠志)が元子爵の長女。夫妻の関係は倒錯したもので、布美子を含めた三人の奇妙な関係がその後の事件に発展することに・・・。

唐木俊夫 ある新左翼系セクトの活動家。貧乏で矢野布美子のアパートに入り込み一緒に暮らしていたが、大規模デモで逮捕され、留置された後、人が変わったように出ていく。
大久保勝也 軽井沢で“信濃電機”で派遣社員として働く若者。別荘で雛子に会ってから二人は恋に落ちる。
鵜飼三津彦 ノンフィクション作家。1972年2月28日に起きた連合赤軍浅間山荘事件と同じ時、陰に隠れるようにして起きた矢野布美子の猟銃による射殺した事件。彼女が犯した犯罪に関するノンフィクションを書くつもりでいた。

物語の概要:
(図書館の紹介文より)

連合赤軍が浅間山荘事件を起こし、日本国中を震撼させた1972年冬―当時学生だった矢野布美子は、大学助教授の片瀬信太郎と妻の雛子の優雅で奔放な魅力に心奪われ、彼ら二人との倒錯した恋にのめりこんでいた。だが幸福な三角関係も崩壊する時が訪れ、嫉妬と激情の果てに恐るべき事件が…。名作『無伴奏』から五年―官能とデカダン、乾いた虚無感が全篇に漂う、著者入魂のバロック的犯罪サスペンス。

読後感:

 読んでいると昔読んだ村上春樹の「ノルウェーの森」に似たときに感じたようなことを感じながらの読書となり、また読み出す直前にテレビドラマで本作品を放映していて少し観たところで辞めてしまった時のことが印象に残る。
 こういう作品は映像で見ると役者の印象がどうしてもまさってしまって見たくなくなる。小説では自らの想像で演出できるのでずっと好ましいから。

 ちょっと理解できない片瀬夫妻と矢野布美子の倒錯した関係、でも所々では各々の人物の心情が理解できるところであり、次第にあの日の事件が起こりうる可能性を予感させる。
 単なる官能恋愛小説ではなく、この先起こりうるようなサスペンス含んだ展開に、やはり読まずにはいられない出来はさすが直木賞作品。
 選評を是非見たくなる。
 
 雛子の大久保勝也に対する恋が、男が現れた瞬間突然変化し、それを見る信太郎がいままでの信太郎ではなく反応してしまう。布美子も毛嫌いするように感じてしまう。その後の雛子と信太郎の関係、布美子と信太郎の関係、雛子に対する布美子の汚らしいと感じる感情が次第にあの事件へと進行していく。そんな中、布美子の昔の学生時代の唐木の死の知らせに慟哭する布美子。

 雛子の愛は肉体ではなく精神の愛との言い分には雛子にとっての解釈かも知れないが、あかされる雛子と信太郎の秘密、それを男があっさりと知ってしまっていることも布美子にとって我慢できなかったようにも思える。

  
余談:
 

 
作品を読みながら人の感情、考え方、価値観などそれぞれひとによってさまざまで、そんな中で世の中で課題になることにどのような方策で臨むのか、判断は難しいだろうとつくづく思ってしまう。多数決だけで解決できるとも思えないし、相手の立場によっても感情が対立することもあるし、対中国、対韓国の課題にしても自分だけの考えで動いていたら世の中うまくいかないのにとそんなことまでも思い至ってしまった。
 背景画は、同名のTBSのテレビドラマの1場面から。