小池真理子
      『沈黙の人』 
 



              2013-12-25

(作品は、小池真理子著 『沈黙の人』   文藝春秋による。)

               

 初出 「オール読物」2011年4月号〜9月号。
    2011年11月号〜2012年6月号。
 本書 2012年(平成24年)11月刊行。
 
 小池真理子:(本書より)

 1952年、東京生まれ。89年「妻の女友達」で第42回日本推理作家協会賞(短編部門)、96年「恋」で第114回直木賞、98年「欲望」で第5回島清恋愛文学賞、2006年「虹の彼方」で第19回柴田錬三郎賞、「無花果の森」で2011年文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞。「望みは何と訊かれたら」「ストロベリー・フィールズ」「東京アクアリウム」「存在の美しい哀しみ」「二重生活」など著書多数。

物語の概要:

幼い頃に家を出て、新しい家族を持った父が晩年難病を患い、最期は口を利くこともできず亡くなった。遺された手紙や短歌から見えてくる、後妻家族との相剋、秘めたる恋…。生と死、家族を問い直す入魂の感動作。

主な登場人物:

三國衿子
(えりこ)
母 久子
(父 泰造)

三國泰造の先妻(久子)の娘。7歳の時父と母は離婚。大学を卒業後出版社に就職、編集者として活動。
泰造は衿子のことを一番に可愛がっている。
久子:泰造と別れるも夫の悪口も言わず万事明るく控えめに生きてきた人。

三國泰造
妻 華代
長女 可奈子
次女 千佳

7−8年前からパーキンソン病を発症し進行、「さくらホーム」に入所。妻は見舞いにも来ず、娘たちが時たま訪れる。
娘たち:お嬢様育ちで共に結婚をしている。

小松日出子 三國泰造とは歌友。短歌をきっかけに泰造との手紙のやりとりをしている。
鶴見ちえ子

泰造の病が進行、すくみ脚もひどく言葉も満足に発せない状態で、仙台のちえ子のもとにひとりで出かけ3日間を過ごす。
泰造が仙台支店に単身赴任していた時に知り合う。


読後感


 
この作品は秋雨の日に静に部屋で読むのに相応しい本ではないか。人生の先も見え心穏やかに読んでいると、書かれている父(泰造)と母(久子)の人生。そして自分(衿子)の人生について振り返り、どんな人生であったのかと後悔と切ないような現実を思ったりしている姿に、今の自分が果たしてどうなのかと思いを巡らさせられる。

 父の生き方は、板橋での久子と私との楽しかった生活、華代に溺れてからの家庭。華代との家庭は心安らかな場所ではなく、別れて残した衿子に対する愛情を増長させている。
 そんな中、パーキンソン病を発症し、意のままに動いたり、話したり手紙を書いたりすることができなくなり、次第に沈黙の世界に閉じこもるように。

 一方で短歌を通しての小松日出子との心の友ともいう付き合い。さらには仙台の鶴見ちえ子との付き合い方はどんな気持ちでの付き合いだったのだろうか。病になり、最後の力を振り絞って会いに行くほどの気持ちとは。それらの気持ちを衿子は聞き出すこともなく、父が残した手紙の数々、さくらホームから転送されてくる手紙類によって初めて小松日出子や鶴見ちえ子の存在を知る。

 手紙を読むこと、小松日出子に会うこと、そして華代と住んでいた住まいを尋ねたり通して父のことを知る。そして父から捨てられたのに悪口を言うことなく、父から貰ったアメジストの指輪を常に肌身離さずいる母の心情を思いはかる。その母も認知症になり、手を煩わせる存在となり、施設に入院させざるを得なくなる。そのことを聞かされたパーキンソン病を煩い、もはや三重苦の父は苦悶しなかせら泣き叫ぼうとする表情は人生を象徴しているようでいかばかりか。
 

 

余談:


 
この作品を読んでいると自分の人生のことを思わざるを得なくなる。
 自分の人生が幸せだったかどうかは死ぬ間際に、その時がどうであったかによって判断するのかなあと。

背景画は、作品の中に出てくる3階建ての介護付き有料老人ホームをイメージして。

                    

                          

戻る