小林由香 『罪人が祈るとき』



              2020-03-25


(作品は、小林由香著 『罪人が祈るとき』      双葉社による。)
                  
          

 初出 「小生推理」2017年4月号から11月号に連載された「星空の下の罪人」を改題し、加筆修正。
 本書 2018年(平成30年)3月刊行。

 小林由香:
(本書による)  

 1976年長野県生まれ。2006年第6回伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞で審査員奨励賞、スタッフ賞を受賞。08年第1回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールで審査委員長賞受賞。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。16年連作短編集「ジャッジメント」でデビュー。

主な登場人物:

時田祥平(しょうへい)
<僕>
父親 英之
(ひでゆき)
母親 

川崎竜二にいちゃもんをつけられ、月5万を持ってくるよう脅されている。僕が立てた「殺人計画」をペニーと実行することに。
・父は総合商社マン。海外出張多く家に不在がち。職場の同僚杉山エリカと浮気。
・母は父の浮気を感づき、家を出る。

本宮春一(はるいち)
妹 真希

僕の親しい友達。「祥平が危ない目にあったら、今度は俺が絶対に助けるから」と。
・妹 カラオケボックスで暴行され、春一の態度に変化?

川崎竜二 僕の高校の一学年上の先輩で、元不良少年の集団「レッドエル」に所属。前に一人殺していると公言。
箕輪冬人(ふゆと) 僕の高校のクラスメイト。川崎竜二に従順。
荒木田剛(つよし) 僕の高校のクラスメイト。川崎竜二に従順。

ペニー
<ピエロ>

僕が竜二に脅されているとき現れ、竜二を蹴り上げる。
僕の殺人計画ができたら手伝ってあげると。

風見啓介
<俺>
妻 秋絵
息子 茂明

「コントロールライフ」の備品管理室室長(社員はゼロ)、45歳。
茂明の死の真相を捜している。
・茂明 数年前(中学2年生の時)自殺。ノートに「こいつらを呪う」と書き残している。[少年S]
・秋絵 茂明がなくなった後心療内科通い、半年後自ら命を絶つ。

中野直紀 茂明のいじめのひとり?。
二階堂麻美 茂明がいじめに遭っていたと証言し、その後勘違いと翻した女子学生。

篠原大和
兄 正義
(まさよし)

「ホープボール」の屋上から飛び降り自殺した生徒。[少年Y]
秋絵から金をもらい、中野直紀が茂明いじめの犯人と。
・正義 警察官。上司から「使えないクズ」と。拳銃自殺でなくなる。

ハギノ 中野直紀に写真をネタに脅されている女子学生。
アリス ハギノの友達だったが、中野直紀に脅され、ハギノを裏切る。
片桐学 東誠出版ウォッシュ編集部記者。11月6日の呪いの事件を追っている。
秋本大智(たいち) 国選弁護人。
丸山邦明

風見啓介が退社する前、経理部に在籍中の風見啓介に救われたと。「ライフセーブの集い」の中の「風見啓介を救う会」のメンバー。

補足 「十一月六日の呪い」とは「週刊ウオッシュ」八月二十八日号に載った記事。
 当時中学生であった少年Sの自殺。その翌年の同じ十一月六日、Sの母親は息子の後を追うように公園の展望台から身を投げた。母親が自殺した翌年の同じ日、SのクラスメイトだったYが、遺書を残しビルの屋上から投身自殺。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 とある町では、3年連続で同じ日に自殺者が出たため、「11月6日の呪い」と噂されていた。学校でいじめに遭っている少年は、この日に相手を殺して自分も死ぬつもりでいた。そんなある日、公園で出会ったピエロが、殺害を手伝ってくれるという…。

読後感:

「週刊ウォッシュ」の「奇妙な事件簿」のコーナーで取り上げられた「十一月六日の呪い」。
 3年続けて11月6日に自殺が続いた学校でのいじめにまつわる事件、さらに続くいじめに息子の茂明が死ななければいけなかった真相を探ろうとする父親の風見啓介<俺>。

 そして川崎竜二にいじめを受けて助けられたピエロ姿のペニーから、殺害計画をたてたら、手伝ってあげると告げられ、密かに計画を練る時田祥平<僕>。
 <俺>と<僕>の結びつきがからまりながら犯人捜しと殺人が展開する。

 <僕>の殺人計画ができあがり、11月6日に実行したいと考えていたのが、ピエロから「それまで君は生きていられるの?早めようと」。
 そんな中、衝撃のニュースが飛び込んでくる。終盤は裁判とその後の展開となるが、息子と妻を失った風見啓介の心変わり、時田祥平の家庭の崩壊からペニーへの思慕と父親としての思いに突き動かされていく。

 単なるいじめに止まらず、殺人まで犯すような若者が、罪を反省することもなく、さらに続けている人間を見て、殺さずにはいられない親の気持ちが伝わってきて、成し遂げて刑に伏す風見啓介、その桂介を慕う時田祥平の行為が清々しい。


余談:

 先に読んだ「ジャッジメント」がデビュー作、続いて読んだ「救いの森」の前に位置するのが本作品。「救いの森」刊行時のインタビューで
「人生は常にバラ色ではなく、すごく理不尽なことが多いなと思うんです。一所懸命生きてきた人たちが自然災害で傷ついたり、子どもが重い病気にかかったり。子どもに対する虐待も、理不尽なことの一つです。そういうことがなぜ起きるのだろうと思うと、心の中に怒りと悔しさが湧いてきます。その持って行きようのない悔しさが「書きたい」という衝動につながって、書き始めることが多いのです。最終的には自分の主義主張は入れないようにしようと心がけているので、最初に考えたようなストーリー通りに進むことはないのですが。」と。

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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