小林由香 『救いの森』



              2019-12-25


(作品は、小林由香著 『救いの森』    角川春樹事務所による。)
                  
          

 本書 2019年(平成31年)2月刊行。

 小林由香
(本書による)  

 1976年長野県生まれ。2006年第6回伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞で審査員奨励賞、スタッフ賞を受賞。08年第1回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールで審査委員長賞受賞。16年「サイレン」が第69回日本推理作家協会賞短編部門の候補作に選ばれ、連作短編集「ジャッジメント」でデビュー。他の著書に「罪人が祈るとき」がある。

主な登場人物:

[江戸川児童保護署] 児童保護救済法の成立により既存の児童相談所に加え全国に開所。
厚生労働省所管。
長谷川創一 厚生労働省専門職員「児童救命士」。5ヶ月の研修を受け江戸川児童保護署に配属の新人研修生。
新堂敦士(あつし)

先輩の児童救命士、長谷川のパートナー、37歳。
評価は高いがいわくつきの変わり者の噂。新堂からは勤労意欲というものがまったく感じられない。

相田三弥 長谷川と同じ新人研修生。
国木田勝也 先輩の児童救命士、相田のパートナー。眼光鋭く金剛力士像を連想させる。厳格な性格なのに新堂に甘い?。
冴島里加子 署長(アラフォー)。大胆。
鈴木康介(こうすけ) 次長。思慮深い性格。
<第一章> 語らない少年

須藤誠
父親 智之
(ともゆき)
母親 佳代子

桜田小学校での長谷川たちの検査の日、ライフバンドを二度押しし、サイレンを鳴らして何かを訴える。
・父親 神経質そうな人物。
・母親 気が弱そう。

本宮絵里 4年3組の担任教師。20代前半。
<第二章> ギトモサイア
東三条美月(8歳)
父親 栄太
母親 智世
(ともよ)

昔住んでいた慎也の公園でライフバンドを使い長谷川達が出動見つける。
・父親 27歳。美月とは血のつながりなし。主夫役。美月のパパ役になりたいと励んでいるが。
・母親 ECサイトを運営する会社を経営。41歳。2年前離婚し再婚。栄太は優しい人と。

深川警察署

東三条美月の行方不明届けで出動。
・西田 40代前半。落ち着いた雰囲気の男。
・河野(こうの) 20代前半。凜としている。

安土智彦(ともひこ) 安土クリニックの院長の息子。
<第三章> リピーター

椎名涼太
母親 彩華
(あやか)

葉西小学校(マンモス校)6年3組、12歳。母子家庭の転校生。
ライフバンド三度使用で問題視される。
・母親 名の知れた総合商社勤務。しかし母親の実像は・・。

川越孝之介 涼太と同じクラスの仲良し?。正義感強い。
小宮裕二 河川敷に住むホームレス、56歳。涼太と仲が良い。
キヨ 困った児童達に“うまい食堂”を提供する老女。ドアプレートに“救いの森”と。新堂はキヨの息子(里子)。
<第四章> 希望の音
柳原麗華 「暴力児童救命士の真相」サイトの管理者。裕福な家庭だが、家庭環境にも問題。中学時代のいじめ問題で担当の児童救命士新堂に逆恨み。
久代琴音 修徳西中学時代柳原麗価と同じクラス。麗華からいじめを受け、自殺。
工藤拓海(たくみ) 東清涼高校1年生、柳原麗華と同じ高校のクラスメイト。麗華と仲が良く、麗華の指示で新堂に嫌がらせのSNS。
須藤誠 <第一章>に登場。
キヨ、涼太 <第三章>に登場。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 命の危険を感じた時に起動させると、児童救命士がかけつける「ライフバンド」。義務教育期間の子どもにその着用が義務づけられた。ある日、新米児童救命士の長谷川はわざと警告音を鳴らす少年と出会う…。社会派サスペンス。

読後感:

「ライフバンド」を腕に着けた児童が危険なり助けを呼ぶために指で押すと児童保護本部にある通信指令センターにつながり、関係する児童保護署に出動指令が出されて児童救命士が駆けつけるという。そこに配属された長谷川創一が先輩パートナーの新堂敦士という風変わりな人物の風変わりな指導を感知しながら色々な児童の保護に奔走する姿が描かれている。

 現在の児童虐待が問題視されている時代にもマッチした内容でもある。
 共通しているのは聞き取りにおいて真実を話しているのかとか、だんまりで語らない相手に対してどうすれば語らせることが出来るのか。
 そして子供は親のことを虐待?されていても、無視されても慕っていて、離れたくない、母親を救いたいという思いがベースにあること。

 相手の心を開かせるのは、新堂が言う「保護児童は強い大人に心を開くわけじゃない。痛みを理解してくれる大人に心を開くんだ」ということ。
 新堂も、また長谷川も過去に苦しむ事情を背負っていたことが次第に明らかにされていく。

 中でも<第三章 リピーター>が心に響いた。転校生の涼太が三度もライフバンドを起動させ、涼太を助けたホームレスが報奨金を受け取る。そのことに関してどうしてそんなことをするのかに病む長谷川。仲の良いという評判がある一方で、仲違いを見せる涼太と孝之介の真相は?。ホームレスの裕二は涼太と仲良しで裏切れないと真相を話さない。長谷川が涼太の心を開かせることが出来るのか。新堂の言葉が光る。


余談:

 それぞれの章の出来事には著者が訴えたいことがちりばめられていてぐっとくることが多い。さらにミステリアスな内容も組み込まれていてぐんぐん読み込んでいかされた。
背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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