小林由香著 『ジャッジメント』



              2019-06-25

(作品は、小林由香著 『ジャッジメント』    双葉文庫による。)
                  
          
 
初出 2016年6月単行本刊行。
 本書 2018年(平成30年)8月刊行。

 小林由香
(本書より) 

 1976年長野県生まれ。2006年第6回伊参スタジオ映画祭シナリオ大賞で審査員奨励賞、スタッフ賞を受賞。08年第1回富士山・河口湖映画祭シナリオコンクールで審査委員長賞受賞。11年「ジャッジメント」で第33回小説推理新人賞を受賞。16年連作短編集「ジャッジメント」でデビュー。その他の作品に「罪人が祈るとき」がある。

主な登場人物:

鳥谷文乃(あやの)
<私>

法務省応報監察官。
復讐法の成立により法の権利選択者に旧法と復讐法のいずれを選択するか、権利選択者の世話、復讐法に基づく刑の執行の見届け、報告書の作成などを行う。
・五十嵐英太 監察室本部の部長。
・牧田宗次 鳥谷文乃の同僚。
・相原雅美
(まさみ) 総務部。

<サイレン>

不器用な親子がお互いのことをもっと話し合っていたら。
もしも人の心にサイレンがついていたら、我々はもっと早くわかりあえるだろうか。

堀池剣也
母親 和代

天野朝陽(あさひ 16歳)に対する拉致監禁・暴行・殺人の主犯格、19歳。旧法では懲役18年の実刑判決。
復讐法では未成年であっても年齢に関係なく公平に刑執行。
・和代 義明に対し、土下座して「あの子を許して」と。

天野義明
妻 ユリ子

息子を殺害された父親。復讐法を選択。
・妻のユリ子は体調を崩し入院中。夫は人を殺せるような人ではないと私に。

<ボーダー>  

吉岡エレナ
母親 京子
父親 俊介

祖母吉岡民子に対する凄惨(せいさん)な殺人事件の被告、14歳。法廷で争わず、反省の態度一切認められず。自ら積極的に死刑を希望。旧法では少年院に送致、更生の機会が与えられる。
・母親の京子 母親を殺された怒りから娘に対し極刑を強く望む。・父親の俊介 婿養子だった俊介は浮気を理由に離婚させられる。

祖母 吉岡民子

京子によると、母の言うことは正しかった。
夫俊介との結婚に反対。(ジュエリーデザイナーの夫は会社立ち上げたばかり、収入安定せず)結婚してからは、「あの男は浮気をする」、「保険金を掛けるのはあなたを殺そうとしている」と。

富永葉月

「吉岡エレナの刑の執行を中止してください」と監察本部のエントランスから出てくる職員たちに嘆願書を配っている少女。
エレナと小学校で同じクラス。

<アンカー>
櫛木矢磨斗(くしきやまと)

通り魔事件の犯人。
旧法では精神鑑定で心神喪失、不起訴。

(法の選択権利者)

複数の選択権利者がいた場合は過半数の支持を得た法に決定される。
・久保田航平 医学部に通う大学生の弟を殺害された、26歳。
・川崎景子 専業主婦だった母親(58歳)の一人娘、32歳。
・遠藤武 教師だった婚約者(29歳)を殺された、29歳。

<フェイク>

神宮寺蒔絵
孫 修一
修一の両親 (没)

有名な霊能力者、67歳。修一と二人暮らし。
頭の中のスクリーンに予知あり、廃墟の屋上に向かい、アキラと修一が争っているのを止めようともみ合い、アキラが転落死。
旧法では懲役12年の実刑判決。

前田アキラ
母親 佐和子

修一の「とっておきの秘密」の言葉に激しく腹を立て争う。止めに入った蒔絵ともみ合い屋上から転落。
・母親の佐和子 5年前夫と離婚。一人でアキラを育ててきた。
復讐法を選択したことでバッシングや脅迫を受ける。

<ジャッジメント>

森下隼人

応報執行者の少年、10歳。妹の復讐をしたいと。
「人間が餓死する過程」を本物の人間を使って実験。

森下麻希子
息子 隼人
娘 ミク(没)

受刑者、森下隼人の母親、31歳。DVの夫と離婚し内縁の夫本田隆男と実子と暮らしている。育児放棄し、娘のミクを餓死させた。
旧法では懲役13年。復讐法認められる。

本田隆男 受刑者、フリーターで酒とギャンブルに懲り、子供には無関心。

補足:復讐法 犯罪者から受けた被害内容と同じことを合法的に刑罰として執行できる。
この法の適用が認められた場合、被害者、またはそれに準ずる者は、旧来の法に基づく判決か、あるいは復讐法に則り刑を執行するかを選択できる。
選択期間は判決が出てから3ヶ月。

物語の概要:(図書館の紹介記事より。)

 
20××年、凶悪な犯罪が増加する一方の日本で、新しい法律が生まれた。それが「復讐法」だ。この法律は果たして被害者たちを救えるのか。〈受賞情報〉小説推理新人賞(第33回)              

読後感:

 死刑制度の是非が議論される中、加害者の保護が優先されていることに異議が唱えられ、被害者の無念を救うべく復讐法なる制度が成立した世の中での、その応報監察官なる鳥谷文乃が経験する5つの事例を通し、死刑制度を考えさせる衝撃の作品で、今まで読んだことのない内容に考えさせられることが多い。

 <サイレン>では未成年である残虐無比の加害者に、息子を殺された父親が同じように殺害を加える。が息子と父親の理解度が足りなかった。妻は「息子が死んだのはあなたのせいだ」と父親を責め、自らは体調を崩し入院。加害者の母親は土下座して息子は優しい子だったと許しを請う。その結果は・・・。

 <ボーダー>では14歳の少年が祖母を殺害するという悲惨な事件。自分の母親を殺された母親は、息子は計算高い子で少年院に入っても更生しませんと、自らが応報権利者となり執行者に。執行のやり取りを聞く鳥谷文乃は少年の母親を思う心根を知り、悪いのは誰だったのかが・・・。
 <アンカー>では無差別殺人者に対し、複数の選択権利者がいて、旧法を選択するか、復讐法を選択するかの問題が生じる。複数の選択権利者がいる場合は、過半数の支持を得た法に決定されるルールである。選択期間は3ヶ月。
 選択に三回の面談が行われる様子でそれぞれの事情が描写される。そんな中復讐法を選択することになるも、執行者となる人間の心に変化が生まれる。

 <フェイク>では霊能力者として有名な蒔絵が、屋上で息子の修一と友達のアキラが争っているのを見て、止めようともみ合っていてアキラが落下して死亡。
 アキラの母親が応報権利者として向き合う。
 アキラの母親には相手が有名な霊能力者ということもあり、非難や脅迫が舞い込む中、双方が真実を語り出して裁判での証言と異なる事実が明らかになっていく。執行は殺害時に似た状況下で行われることでそこで起こったのは・・・。

 <ジャッジメント>では10歳の息子が母親と内縁の夫が、妹を餓死させたとして応報執行者となり、二人に餓死するまでの様子を監察することで執行に。
 T日目、二日目と時間が経つにつれ双方のやり取りに加え、応報監察官も交代制でその様子を観察、本部に報告書を作成する。時間が掛かるだけにそこには人間の本性が現れてくる。口数の少なかった少年と鳥谷文乃とのやり取りから少しずつ心を開いていく様子が、そして母親と少年の、どうして妹への虐待が進んでいったのかなどの会話の中に次第に優しさが見えてくる。そして迎えた結果は・・・。
 

余談:

 この作品の前に大門剛明の「雪冤」を読んだが、ここでも、殺人罪で無実の罪で死刑宣告された八木沼慎一が手記に死刑制度について手記を書いていた。すなわち
「死刑を執行する役割は刑務官の方がされています。このことに私は疑問を感じるのです。・・・ この死刑執行を国民の義務とすべきと考えます。具体的には死刑執行ボタンをネット上で国民全員が押すのです。それが無理なら、裁判員制度方式で抽選によって死刑執行人を有権者から選ぶべきです」と。今の死刑執行に関しては考えることが多い。   
  

背景画は、自然いっぱいの素材集がErrorとなって消失してしまったので、背景素材無料のものからに。

           
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