北村 薫著  『八月の六日間』 
 






              2014-09-25





(作品は、北村 薫著 『八月の六日間』     角川書店による。)

            

 初出 「九月の五日間」   小説 野生時代     2011年11月号
    「二月の三日間」   小説屋Sari-Sari      2012年7月号
    「十月の五日間」   小説 野生時代     2013年3月号
    「五月の三日間」   小説屋Sari-Sari      2013年8月号
    「八月の六日間」   小説 野生時代     2014年1月号
 本書 2014年(平成26年)5月刊行。
 
 北村 薫:(本書より)
 
 1949年埼玉県生まれ。早稲田大学卒。高校教師として教えるかたわら89年「空飛ぶ馬」でデビュー。91年「夜の蝉」で第44回日本推理作家協会賞、2006年「ニッポン硬貨の謎」で第6回本格ミステリ大賞(評論・研究部門)、09年「鷺と雪」で第141回直木賞を受賞。その他の小説に「覆面作家は二人いる」「スキップ」「冬のオペラ」「いとま申して「童話」の人びと」「飲めば都」など多数。また「謎物語」「ミステリは万華鏡」「書かずにはいられない」などのミステリ評論・詩歌論、エッセイの分野や、アンソロジーの編者としての作品も多数。

物語の概略:

40歳目前、文芸誌の副編集長をしているわたし。仕事に恋愛、人生ちょっぴり不調気味な最近だ。だが初心者ながら登り始めた山々で巡り合った四季の美しさと様々な出逢いに、わたしの心は少しずつ開かれてゆき…。

主な登場人物:

<九月の五日間> 北アルプスの燕岳(ツバクロダケ)で夏の空を背景にした槍が岳を見てしまい、3泊4日の山歩行。
わたし(主人公) 雑誌の副編集長に。山歩き歴3年。一人の山歩きが好き。40手前。
藤原ちゃん 年下の同僚。わたしに山歩きを誘ってくれた女性。
小学校時代の友人 小学校から高校まで一緒の友人。故郷で教員をやっている。
麝香鹿さん 大天井井岳へ向かう途中であった20代後半の一人の山歩きが好きな女子。
<二月の三日間> 福島についての特集で《雪山ツアー》の企画で裏磐梯のツアーにわたしが行くことに。
わたし 40歳になる。団体行動が苦手のわたし。
<十月の五日間> 上高地から入って大天井岳から先は1昨年行った行程の逆。
わたし 春の人事で編集長に。
原田良三 フリーのカメラマン。わたしが5年前1年ほど一緒に暮らしていた相手。若い子と結婚。
<五月の三日間> もうちょっと行動を広げたいと軽アイゼンを買い求め、こどもの日あけの日−月に一泊で単独行。大変な目に。
わたし 校了明けに有給とり、高見石小屋一泊旅行。
藤原ちゃん 同じ雑誌の編集長。
麝香鹿さん 1昨年に山で出会った女の子、宗形三千子さんに東京の書店で巡り会える。
<八月の六日間> 夏、高天原から双六岳に進むコースに。途中雨に降られて濡れその結果咳が出てきて・・。嬉しい巡り会いと体調のままならない場面に。
わたし 編集長として作家の取材のお供でパラオに。そこで信じられない人に出くわし・・。ふたつきほど経って高天原温泉目指す。
仙崎耀子 わたしがこの仕事につき右も左も分からずただただ突っ走っていた頃の直属の上司。
麝香鹿さん 最初の出会いから3年、宗形美千子とわたし、高天原温泉での一時を過ごす。

読後感

 小説と言うよりは山登り記プラスエッセイないし物語というたぐいの物か?
 連作のようで以前に出てきた人物も話もその続きとか関連話として出現したり、逸話のように出てきてうまく繋がっていく。それに仕事上のトラブル、悩み事もちりばめて。
 そしてもう一つ著者特有の物知りというか色んな書物の話が織り込まれていて読み物としてもとても参考にするところ大である。
 
 登場する人物の中では
・小学高から高校までいっしょであった友人の話は特に印象深い。山歩きの中で苦しいときに思い出したり、美しい景色に出会ったときにその人のことをふと思い出したりするその時の気持ちに胸がじんときてしまう。
・そんな過去の人と同じ位置を占めている藤原ちゃんの存在もうらやましい。
・山歩きで知り合って何故か別の山歩きの時にその人のことが出てきた“麝香鹿”の女の子のこと。山で別れてしまったらそのままということが普通なのに、再び巡り会い、山での出会いとはまた違う印象であったり、その際の交わりのさらりとした仕方にも感慨仕切。

 さらにラストの章ではメールで「8月16日高天原温泉に入っている予定」と伝えただけ。
 それが自由な山歩きで再び再会することに。
 そして体調が悪くなり、さらりと行動を別に別れていくのは山ならではの付き合い方なのかとさわやか気分になる。

  

余談:

この本を読んでいるとああもう終わりなのかと名残惜しさが湧いてきてしまう。フィクションでもあり、ノンフイクションぽい所もあり、余計に感情移入してしまった感があり、こんな作品もあるのだなあと。話の中味は以前に関連する話もあり、単行本としてまとまって読めることにもいいところがあった。
余談 作中の好きな言葉
――君子の交わりは、淡き水の如し。 

背景画は、各章の表題に描かれた挿絵を利用して。

                    

                          

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