北村薫著  『鷺と雪』 



 

                 2010-07-25



(作品は、北村薫著 『鷺と雪』 文藝春秋による。)

                

初出 「オール読み物」2008年1月から2008年12月にかけて掲載。
「不在の父」   オール読み物 2008年1月号
「獅子と地下鉄」 オール読み物 2008年6月号
「鷺と雪」    オール読み物 2008年12月号
 本書 2009年1月刊行、「鷺と雪」で第141回直木賞受賞。

北村薫:
 1949年12月、埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業、89年「空飛ぶ少年」でデビュー。
 91年「夜の蝉」で第44回日本推理作家協会賞を受賞。

 主な登場人物:

花村英子
(わたし)
兄 雅吉

花村家は相模の士族の出。祖父の代に御家老の養子になり格こそ上がったが藩主ではない。
英子は《中期》の学生(14−15歳)。
兄の雅吉は文科の大学生。
パパは日本でも5本の指に折られる財閥系列の商事会社の社長。進歩的な父親。

別宮みつ子
(べっく)
愛称 ベッキーさん

パパの正運転手が辞め、園田が正運転手に、そして御当家の新しい運転手として雇われる。 わたしと兄との間ではベッキーさんと呼ぶ。

弓原太郎
(叔父)
松子
(叔母)

子爵。 叔父は東京地検の検事。 犯罪がらみのエッセイを引き受けて書いている。
叔父叔母に子供いないため、わたし(英子)を可愛がってくれる。

有川八重子

わが級友。 伯爵令嬢。 学校の過程《中期》で親しく。

桐原道子
兄 勝久

侯爵家、道子とは学校で会釈を交わす程度の仲。
兄の勝久は陸軍参謀本部の大尉。ベッキーとの初対面の時彼女が銃を携帯していることを見抜き、後日その腕前を目の当たりにし、彼女のことを大変気に入っている。

若宮英明 陸軍少尉。


物語の概要:

 日本にいるはずのない婚約者が写真に写っていた。良家の令嬢・英子が解き明かしたからくりとは。帝都に忍び寄る不穏な足音。昭和11年2月、雪の朝、運命の響きが耳を撃つ。「ベッキーさん」シリーズ完結。

読後感 

 ベッキーさんシリーズの完結編、「玻璃の天」で第137回直木賞にノミネート、今回「鷺と雪」で第141回直木賞受賞とあるが、言うならばこのシリーズ全般で受賞したようなものだと思う。 特に「鷺と雪」がシリーズの他の作品と突出しているというのではないのでは。 とはいえ、「鷺と雪」の後半でニ・ニ六事件を思わせる記述はやはり何とも言えぬ印象を受けた。 それというのも、立野信之著の「叛乱」や宮部みゆきの「蒲生邸事件」を思い出し、そんな中で花村英子が誤って電話をした相手としてでてきたのが若宮英明であったのかと想像をしてしまったほど。 桐原勝久大尉や若宮英明少尉の名があったかどうかは判らないけれど。

「不在の父」での大名華族の出身の弟滝沢子爵失踪と浅草のルンペンの“馬さん”と呼ばれて慕われていた人物の隠れた事情も華族という世界の悩みか。

「獅子と地下鉄」での“ライオン”と受験生の謎の行動の分析もなかなか興味深く、ここでもベッキーさんのお嬢様を影で守る行為が光る。

 丁度この作品を読み終える頃に、このシリーズの最初のところで知った、英国の文豪サッカリー作の「虚飾の市」を読み終えたところであった。 そして「虚飾の市」でのベッキーこと、レベッカ・シャープ嬢が世の中的には悪女として見られているが、読んだ限りではそんな風にも思えなかったけれど、本作品中にわたし(花村英子)の意見として、踏まれても、踏まれても、たくましく立ち上がる生き方は、妙に魅力的だったと記しているが、まったく同感である。

 このベッキーさんシリーズでは「虚飾の市」のベッキーさんとは似ても似つかわない慎ましやかでいて芯が強く、優しさも持ち合わせる正義感あふれる魅力的な人物として描かれていて好感が持てた。

  

余談1:

 思わずブッポウソウ(鳴き声は“ブッポウソウ”とは異なる)とコノハズク(“ブッポウソウ”と鳴く)の実物がどんな鳥か調べてしまった。この作品でも色んな題材を元にこんな物語が紡ぎ出されているが、ということは物書きというのは無限の可能性があるということか。

余談2:
 
 作品中に出てくる文学作品、能とか歌舞伎の話など北村薫という作家の知識、関心の深さなど少しでも近づけたらと思う。

背景画は、本作品の「鷺と雪」の章の挿絵を利用。

                    

                          

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